第189話・ワガママに弱い

 グランディールは、一旦エキャルを某所に飛ばして、帰ってきたのを確認してから町民の許可を得て西に向けて移動を始めた。


 リューのスキルで「場所特定」して、それを町スキルと「合わせ」て進む。


 そこから行ける道筋にある町に招待状を送り、ポリーティアー到着予定から計算してその町に行く予定を立てる。ポリーティアーで予想外に時間を取られても大丈夫なようにして。


 町長室の机には鳥の巣が置かれていて、そこに置いたポリーティアーの伝令鳥が移動するグランディール内でまだるっこそうに進行方向に首を伸ばしている。


「今全速で目指しているからね。あと五日……五日で着く」


 言い聞かせると、伝令鳥は小さく首を垂れた。


 そして頭の上のエキャルが髪の毛を引っ張る。


「お前は、先輩にちょっと譲ろうとか思わないのか?」


 思わないらしい。


「町長、伝令鳥の餌を……うわおい」


 ティーアが餌の豆を持ってきて、顔面にエキャルが貼りついたぼくを見て絶句し、呆れ、その上でエキャルをはがしてくれた。


「ありがとうティーア」


「エキャルの嫉妬ですか」


 ティーアに掴まれてバサバサと文句ありげに羽根を動かすエキャルの背中を軽く叩いてやる。


「お客様と相棒とは違うだろー? こっちの子はお客様。預かりもの。弱ってる。だからみんなが気にかけるの。そしてお前はぼくのでグランディールの鳥だろ? 全然違うだろ?」


「宣伝鳥と一緒に置いた方がいいのでは?」


「いや、何処に置いといても変わらないよ」


 頭の上に乗り直したエキャルに手を伸ばして撫でている。


「名前を知らないけど、この子は町が心配で仕方がない。鳥の場所に置かれても、人の場所に置かれても、心配で仕方ない。ならなぐさめられる誰かがいて、情報が真っ先に入ってくるここが一番安心かなって……」


 エキャルがまだ不服そうにぼくの頭を軽くつつく。


 伝令鳥がそんなぼくの頭上を見ている。


「…………?」


 ぼくの視線に気付いて、俯いて溜息吐く鳥。


「溜息吐く鳥って初めて見たな」


 エキャルはワガママだけどこの子は心配性。いや事実居場所が危ないから心配はするよな。でも普通溜息吐かないよね。


「グランディールの速度自体は全力なんでしょう?」


「うん。可能な限りね。中にいると分からないけど、外を見に行ったらキーパが門にしがみついてた」


 フォーゲルの乗用鳥の全力には負けるけど、速度を落とすこともなく宙を滑るように西に向かって移動してる。重さを考えるとちょっと信じられないくらい速い。


「先に帰して連絡伝えたいとも思ったけど、この子飛ばすの無理っぽいし。エキャルを行かせようかとも思ったんだけど……」


「こいつが残っているとなると文句言い出しそうですね」


「ポリーティアーについて再会……の途端にエキャルが猛然とぼくを突きに来そうで嫌だ」


「町長の威厳ゼロですね」


 髪と眼の色をクイネに整えてもらっても、自分の町の伝令鳥に突かれまくれば威厳もへったくれもない。鳥に突かれてる新しい町長なんて不安にしかならない。


 このワガママを治す方法はあるんだろうか。


 今度フォーゲルの伝令鳥屋のパサレに会ったら聞いてみよう。「育て方が悪い」とか言われる可能性あるけど。


 ぼくはワガママに弱い。



 グランディール自体はポリーティアーを目指して真っ直ぐ飛んでいるけど、中の人間にはあまり影響がない。動いているという実感もない。塀と水路天井で仕切られた空に見える雲の流れが速いことくらい。あとは水路天井のおかげで助かっているけど、太陽がカンカン照りで、水路越しでも直視できないほど眩しい。


 それでも、グランディール町民たちは自分の仕事の傍ら着々黙々とポリーティアー到着準備を進めている。


 食糧班・畑班・家畜班・食事班がポリーティアーの人たちにとりあえず食べさせる柔らかい食事を準備。医療班・薬草班も体調を整える薬草や薬などを調合。特に当てはまらない人も空いた班に入ってポリーティアー住民を迎え入れる準備。


 自分が困った状態でグランディールに入って来た町民たちだから、困って逃げてきたい人は受け入れる。そうじゃないと自分も追い出されるもんね。


 進んでいる先が茜色に染まってきた。


 明日の昼前にはつくだろう。


 門から見下ろせば、下に緑はない。茶色と石色が続くだけ。


 このカンカン照りと力のない土。こりゃあ確かに生きてけないな。


 明日、到着したら、まず町をグランディールで太陽から遮ったほうがいいかな。この照り方だと下で直射日光食らったら多分グランディールの人たち、ぼく含めて倒れる。



     ◇     ◇     ◇



 リューが「近付いてきた」と知らせてくれたので、ぼくは頭から白い布を被って門から外を見た。


 見渡す限り、灰色の荒れた大地。


 ギリギリ生き残っている街道らしき黄色いラインの、その先に町……何ていうか、廃墟的な町があった。


 ぼくは後ろに立つティーアの抱えていた伝令鳥に聞く。


「あれはお前の町?」


 やつれていた伝令鳥がうんうんうんと頷く。


「よし、じゃあ、お前、先に行って、ぼくたちが来たって町長代理に伝えてくれる?」


 伝令鳥は首を縦に何度も何度も動かすと、門から出て、真っ直ぐ下に向かう。


 その頃にはグランディールに日光を遮られて何事だと出てきた町民が顔を出している。全員布を被っているけど、布がよれて日除けになっていない。


 緋色が小さくなって、廃墟的な町の真ん中の建物に入っていく。


 その次の瞬間、緋色を抱えた人が出てきた。


 手を組んで、こっちを見上げている。


「じゃあ下降門を出すね。話し合いはこっちかも知れない」


「準備しとく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る