第187話・弱った鳥と必死の手紙

 んんん? これはここで読んじゃダメな話だ。


「相談しないと返事返せないから、ついてきて」


 伝令鳥が頷く。よく見ると、特徴の緋色が少し色褪せたみたいで、痩せてもいる。ぼくの後について飛び上がろうとして、ヘロヘロと落ちた。


 ポリーティアーなる町は、どうやら相当ヤバいみたい。こんな伝令鳥を飛ばすしかないなんて。そして、その伝令鳥がここまで必死になって飛んでくるほどの願いを託されているなんて。


 しかし、もう少し早く来れば、フォーゲルで診てもらえたんだが。運が悪いなあ。


 ぼくは片手で伝令鳥を抱え、もう片手に手紙を持つ。


 エキャルが憤慨ふんがいしたように頭の上から羽根でぼくを叩く。


「お前は一番の場所取ってるだろー?」


 バサバサと翼を動かすエキャルをなだめるのに声をかける。


「ぼくの頭に乗れるのはお前だけ。それじゃダメなのか? それともこいつを頭の上乗せた方がいいのか?」


 頭の上は静まった。


 アパルとサージュは会議堂にいるんだろうか。しかしここでエキャルに呼んでもらおうとすると怒られる気がする。何で他所よその鳥を抱えて自分は飛ばせるんだとか思われそう。


 とにかく急いで会議堂に行かないと。



 サージュは久しぶりに家に帰っていて、アパルは会議堂で写本してもらった本を読んでいた。


「おや、早かったね」


「遅かった」


「?」


 ぼくはぐったりとした伝令鳥を見せた。


「……弱ってるね」


「必死で飛んできたみたい。ぼくに手紙渡してぐったり」


「サージュと……ティーアを呼んでくる」


「ごめん、助かる」


 ぼくは水皿を持ってきて伝令鳥の前に置く。


 伝令鳥は体を起こしているのもしんどいのか、胴体を机にぺたりとつけたまま、首を伸ばして水を嘴の中に入れる。


「大丈夫か?」


 首を起こして上を向き、長めの喉に水を流し、ふぅ、と息を吐く。


 伝令鳥は自分の運んでいるものの大切さを理解しているという。


 これだけ疲れ切っているのに、ぼくが手紙を受け取って読むまでは伝令鳥らしく止まって見届けていたこの鳥は、どれだけの願いを持ってきたんだろう。


 そこにティーアがすっ飛んでくる。


「伝令鳥が弱っていると聞いたが?!」


「……早いね」


 家に帰ってるんだろうか、家族持ち。サージュですらたまに奥さんと散歩とかしてるのに。


「弱ってるな……いや、鳥の方じゃないな……」


「鳥の方じゃない?」


「伝令鳥や宣伝鳥は、飼っている町と繋がってるんだ」


 翼を広げたり足を見たりしながらティーアが言う。


「飼っている町が弱ったりすると、鳥もその影響を受ける。つまり、弱る」


「え? 飼い主じゃなくて、町?」


「町の長が飼い主だろう。町が弱れば当然長も弱る。よって鳥も弱る」


「ああー……」


 じゃあこの主、町長代理とやらが送ってきたポリーティアーはかなりヤバいんじゃ?


 とりあえず伝令鳥の世話をティーアに任せて、サージュが来るのを待つ。


 サージュはアパルと一緒に駆け込んできた。


「ゴメン、家族の時間を邪魔して」


「ファーレも分かってくれている、心配するな」


 ぼくの背を軽く叩いて、サージュはいつもの席に座る。アパルも続いて座る。


「で? 弱り切った伝令鳥が運んできた手紙というのは?」


「ぼくもまだ完全に読んだ訳じゃないんだけど」


「なら読み上げてくれ。多分お前が読み終わるまでは誰にも読めなくなっているタイプだ」


 アパルも座ってぼくを見る。


 ぼくは手紙を広げた。


 『グランディールなる町の町長殿へ。町長印もないため、印もない手紙で失礼いたします。

  私はEランクの町ポリーティアー町長代理のリジェネ・プレイングと申します。CランクでありながらS、SSランクの町と対等にやり合えるグランディール町長にお願い申し上げます。どうか、我らをお救いください』


「必死だな」


「ポリーティアー……聞いたことがないな」


 スキル「知識」を持っていても知らないほど無名の町が、グランディール名指しで助けてくれとは。


「先進んでくれ」


「あ、ごめん」


 『我らが町ポリーティアーは、日没荒野の手前にある小さな町です。数年前から雨が降らず、土地も痩せ、来年の食糧が足りるかもわかりません』


 サージュが眉間にしわ寄せている。


「……何か言いたいこと、あるの?」


「いいや、最後まで聞いてからにする、続けてくれ」


「じゃあ、続けるね」


 『我らが町長エル・ズァマンは、ポリーティアーを立て直そうと長い間努力しておりましたが、あまりにうまくゆかず、つい先日置き手紙を残して行方不明になりました』


 二人を見るとチラッと「続けろ」の視線。


 『恥ずかしいお話ではありますが、もはや町民のみでこの町の立て直しを図るのは不可能と判断するほかありません。が、我々には何処にも頼るべき町がありません。周囲にある町も自分たちのことで精一杯、ポリーティアーの町民を養える余力がどこにもないのです。町を捨てても行くべき場所もありません。そんな時、東から来た旅人から、おのずから動く新しい町の話を聞きました。空を行くペテスタイの如き町だとお伺いしました。新しい町ならば五十人に減ったポリーティアーも引き受けてくれるやも、と思い、最後に残った伝令鳥に祈りを託してこの手紙を出しております。どうか噂が真実でありますように。この手紙がグランディールに届きますように。そして若き町長殿にこの思いが届くことを祈っております。リジェネ・プレイング』

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