第186話・別れと飛び込んできた手紙
スヴァーラさんを見送って、ぼくはアッキピテル町長に頭を下げた。
「半月近い間、ありがとうございました」
そう。スヴァーラさんが去ったら、グランディールもここにいる用はない。
そろそろスピティでストップしている各町ご招待を進めないと、いつ頃おいでいただけるのか、と文句が出てきそうな勢いで質問の伝令鳥が来ている。
「なに、そんな町長たちより早くグランディールを訪れることが出来たし、鳥を愛する人を救うことも出来た。スキル学について語る同士まで出来た。感謝するのはこちらだ」
最初はおっかないと思っていたアッキピテル町長は笑顔で応えてくれた。
「あの子たちに何かあったら、連絡してくれたまえ。エキャルや宣伝鳥たちがあれだけ懐いている君たちならばいつでも歓迎しよう」
アッキピテル町長は手を差し出した。ぼくがその手を握ると、固く握り返された。
「個人的に、応援している。伝説になり損ねないようにと祈っている」
「ありがとうございます」
本の本来の持ち主はかなりの量があるスキル関連の本にきちんと目を通していた。だけでなく、気に入った本があればと写本の許可まで出していただけた。おまけに町に写本師なる本を増やすのに絶対必要な「複写」なる字や絵を別の紙にそのまま写し出すスキルの持ち主がいないことを知って、その人まで紹介して写してくれた。ありがとうございます、おかげでいつでも読み返せます。
「町長として色々話せることもあって楽しかった。あと数年すれば、もっと深い話が出来るだろうな。楽しみに待っているよ」
◇ ◇ ◇
それから数刻後に、グランディールもフォーゲルを離れた。
こちらも手を振って見送ってくれるアッキピテル町長に、頭上にエキャルが乗ったまま、門にしがみついて手を振り返す。
「いいとこだったな」
門番として交代で立ち続けていたソルダートがぽつっと呟いた。
「だね」
多分、町長の人柄によるところが大きいんだろうな。
自分の仕事に厳しく、他人に労りの心を持ち、知識を分け与えることに何のためらいもなく、遊び心まで持っている。
多分、今まで見てきた町長の中でも一・二を争う人だろう。
「ああいう町長になりたいな」
「そうだな、
「じゃあ、番を頼むね。移動中だけど、ちょっと不穏な噂を聞いたから、門から目を放さないように」
「噂?」
ソルダートの不思議そうな顔に、ぼくは苦笑を返す。
「子供たちの間で盛り上がってるらしい。移動中のグランディールから飛び降りたらどうなるかって」
「うえ」
どうやらアナイナ顔負けの
「どんなことになるか分からないけど、痛い目に遭わせるわけにもいかないし、無事だったとしたら移動中のグランディールから飛び降りるのが流行する」
「うーわ。分かった。分かりました。しっかり目を光らせとくよ。にしても、自分の子供時代を思い出すなあ。町のスキルを出し抜いて町の外出ようとしてバレて親に物置放り込まれたっけ」
そうか、ソルダートもその手の子供だったか。
多分その頃グランディールにいたりしたら絶対飛び降りてるな。
…………。
「……いい齢した大人なんだから、やってみようとか考えないでね」
「町長俺様のことどう思ってるわけ?!」
「子供の心を忘れてない大人」
「褒めてないね?!」
はい。警戒してます。
念を押したところで、門を抜けて何かが入って来た。
エキャルが頭の上で膨らんだのが分かる。膨らんだっていうか羽毛の中に空気を入れて威嚇っぽいことになっているんだろうけど。
そう、それは伝令鳥。
伝令鳥はぼくを見て、門の目の前にとっかかりに留まって首を反らす。
「何処かの町から来たかな? 悪いけど会議堂の方に回って……」
伝令鳥はくんっと首を反らす。そこには封筒が付けられている。
「今じゃないとダメなの? ぼくじゃないとダメなの?」
ますます首を反らせて翼を広げる伝令鳥。
しょーがない。
伝令鳥から封筒を取る。伝令鳥がここまで訴えているということは、ぼく以外の人間が開封すると読めなくなってしまうやつだ。
印は……ない。
差出人を表す印がないって言うのは、受け取って読まれるまで知られたくないってこと。
伝令鳥に直接渡すよう命令された、印のない手紙……。
受け取らないで返しちゃおうかとも思ったけど、この手の手紙はたまに大事なことを伝えてくることもある。受け取り拒否すると後々厄介になる可能性も。
ソルダートからナイフを借りて、シャッと刃で紙を割く。
手紙が入っていた。
『グランディールなる町の町長殿へ』
ん?
『町長印もないため、印もない手紙で失礼いたします』
あ。何だろ、首筋の辺りがピリピリするぞ。
『私はEランクの町ポリーティアー町長代理のリジェネ・プレイングと申します。CランクでありながらS、SSランクの町と対等にやり合えるグランディール町長にお願い申し上げます。どうか、我らをお救いください』
なんだ? 一体?
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