第184話・感情
「アッキピテル町長からお聞きしました。グランディールはスキル学を学んだ側近が二人いると。そしてその二人が町長へ意見できて、町長も二人を尊重して意見を聞き入れてくれるのだと」
「いやいや側近だなんて」
慌ててそれまで黙っていたアパルが首を横に振る。
「我々のスキル学は独学なんです。町を追い出される時こっそり書物を持ち出して、役にたつか分からない知識を詰め込んだだけ。本当ならばあなたが学ぼうとしているスキル運営学を大きな町でしっかり学んだ学者がいればいいのだけれど」
「グランディールにはアナタたちが相応しいということでしょう」
スヴァーラさんは笑顔。
「学問を修めただけではダメなんだと思います。見極める目、言葉にできる口、そして町長からの信頼。この三つの内一つでも足りなければ、町の頭脳とはなり得ない。そしてお二人は町をよく見て、忠言を出せ、それを町長は受け入れる」
「二人の言う意見や疑問は、絶対に聞き逃しちゃいけないものだと思っているから。ぼくはね」
アパルが困ったような照れたような表情をした。これがサージュだったらするっとスルーしただろうなあ。
「ええ。そうして、エアヴァクセンにはそれがない。モルをはじめとする町勤めは町長のイエスマンでしかない。今回の一件だって、ワタシを何も言えない状態で差し出せばフォーゲルを
ククッとアッキピテル町長が喉で笑う。
「あれは酷かった。こっちは真犯人を知っているのだと言外に臭わせて警告も合わせてしてやったが、多分今回はこれで不問、という言葉しか伝わっていないだろうな」
「何かを言える町民に、なります」
スヴァーラさんは笑顔で言った。
「あちこちの町の
「グランディールはいつでも歓迎します」
「フォーゲルもだ。鳥スキルで鳥に夢中な町民だらけで、スキル学を学ぼうとする町民が少ない」
クスクスと笑い声を漏らすスヴァーラさん。
「
「あ……ありがとうございます。アッキピテル町長にも感謝を。ベッドにいる間、貸してくださった本がなかったら、ワタシはまだやるべきことが分かっていなかったと思います」
「時々、エキャルがオルニスに会いに行くと思います。その時は相手をしてやってくれますか?」
「エキャルラットが来ると、オルニスも喜びますから、大歓迎です」
「だってさ、エキャル」
スヴァーラさんが窓を見て驚いた顔をした。
うん、緋色の鳥が窓に貼りついてたら、鳥を知っていても驚くと思う。
「せめてノックするとかして合図しろよエキャル」
「一応、話が終わるまでは待とうと思っていたようだね」
アッキピテル町長が笑いながら窓を開ける。エキャルラットが飛び込んできて、スヴァーラさん……の肩のオルニスの周りを踊るように飛んだ。オルニスがそれに合わせるように
「ご機嫌だなエキャル」
「会っていいって言われて、浮かれてるんだろう。助けたオルニスがどうなるか、彼なりに心配だったんだ」
さすが鳥の町の町長。鳥の気持ちが分かってる。
「だから今エキャルは嬉しいんだ。心配だった相手が大事な飼い主と一緒にいられて、そして自分がそこに会いに行くことを許してもらって」
「そうか。でもエキャル、お前の仕事はちゃんとしろよ? これから飛んでもらう機会が多くなるんだからな」
くいっと胸を反らせるエキャルラット。
そのたった一つの動作が「当然!」「任せとけ!」「やってやるよ!」「信用しろ!」くらいの意味に見えて、思わず笑ってしまった。
アッキピテル町長も穏やかに笑っている。
「オルニスはいい友達を作りました」
スヴァーラさんも笑顔。
「エキャルラットもだよね。オルニスと会うまではアナイナやヴァリエと喧嘩してたくらいだし」
「伝令鳥ってこんなに感情豊かな生き物なんでしょうか?」
前々からエキャルの自己主張の激しさを見ていたアパルが呟く。
「スキルを持っている生き物は、同種のスキルのないものより感情と呼べる意思が強くなる傾向があるのはアパル殿もご存じだろう」
アッキピテル町長の言葉にアパルは頷く。
「だが、感情豊かと言えるほどになるのは、飼い主や周囲の人間が、こまめに話しかけたり遊んでくれたり感情をぶつけあったりする、そういう意思疎通の積み重ね。周りにいる人が信頼できる、遊べる、喧嘩できる、そう思って感情をどんどん表に出すようになる。感情を出しても怒らない、感情を出しても真剣に相手してくれる、そういう信頼関係を築けたとき、伝令鳥は真に感情豊かな生き物と呼ばれるようになる。……他の町にはない鳥だよ、エキャルラットは」
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