第183話・決意
それから五日経って。
スヴァーラさんの体調が完全に回復したと連絡が入り、ぼくとアパルが様子を伺いに行った。
フォーゲル会議堂の奥の仮眠室で、ベッドに腰かけたスヴァーラさんは肩にオルニスを乗せて笑顔で迎えてくれた。
「グランディール、フォーゲル、両町の御親切に感謝します」
スヴァーラさんは深々と一礼。
アッキピテル町長も笑顔で頷く。
「鳥を愛する人が幸せに暮らせないなど、フォーゲルの理念から言えば間違っているからね」
「ぼくは鳥を保護しただけ。あとはほとんどフォーゲルがやってくれたから」
「シナリオを考えたのはグランディールだろう」
「フォーゲルの協力がなければ成功しないシナリオでした」
「そこで我々を頼ってくれたのは嬉しいしありがたい」
アッキピテル町長、ぼくたちにも一礼。
「これでフォーゲルが鳥を大事に扱わない町にどうするか、全ての町が思い出してくれたことだろう。それは全ての鳥の幸せに通じる」
さすがは鳥の町。人間と同じくらい、いやそれ以上に鳥を大事にしている。
「で、スヴァーラさん、これからどうするね?」
アッキピテル町長に聞かれ、スヴァーラさんは顔を引き締めた。
「オルニスはもう齢です。お別れの時がいつ来るか分からない」
アッキピテル町長が深く頷く。
「その時まで、これまで一緒にいられなかった分、一緒にいてあげたい。酷い目に遭わされた分、幸せを共有したい。本当ならもっと早くやらなきゃいけなかったのに、我が身可愛さに後回しにしていた……」
「理不尽な暴力ほど恐ろしい物はない」
軽く首を振って、アッキピテル町長。
「それが自分と自分の大事なもの、どちらに向かうか分からないならなおさらですよ」
ぼくも付け加える。
「むしろあなたは限界まで、オルニスを守るために頑張った。そうでなければオルニスがそこまであなたを心配する理由がないでしょう」
「でも、飼い主として守ってあげられなかったのは事実だわ」
オルニスが小さく鳴いて、スヴァーラさんの耳たぶを噛む。違うんだよ、と言いたげに。
「ありがとうオルニス。でも、ワタシがワタシを許せないの。このままアナタたちに頼って過ごしたら、それは黙ってエアヴァクセンに住んでいるのと同じことになる。だから、しばらくオルニスと一緒に旅をしようと思います。色々なことを学びながら」
「どの辺りを?」
「南を」
スヴァーラさんが微笑んだ。
「あちこち回りながら、最終的には南の果て、滅びし大国ディーウェスを」
「富める大国」ディーウェスは、大陸の南の果てにありながら、大陸中に影響力を与えていた町だった。五十年前に突然という感じで滅び去った町でもある。
「何故、滅んだ町を?」
「ワタシ、あちこちの滅んだ町に行かされていたんです。ミアストの命令で、滅んだ町を。何の感想もなく、ミアストに画像を届けるためだけに」
「ミアストは何故そんなに滅んだ町へ?」
「不安なのでしょうね。町のランクが落ちているという噂が。そうして、滅んだ町の滅んだ理由を見つけて、それを回避すれば滅びずに済むと思っているんでしょう」
そんなことをしても、自分自身が変わらなければ意味がないのに。
そう呟いて、スヴァーラさんは小さく肩を竦める。
「今度はワタシ自身の意志で行きたいんです。そうして、エアヴァクセンよりはるかに素晴らしく長く続いた町なのに、何故滅びたかを見極めたい」
「見極めて、何を……?」
「エアヴァクセンが傾いている原因は、無論ミアストのせいでしょう。でも、町の滅びる責任を請け負っているのは、町長だけじゃない……町民の、ワタシたちのせいでもある、そう思います」
目を伏せたスヴァーラさん。ベッドのサイドデスクの上にあるのは、スキル学の本ばかり。
きっと、体が治らない間、アッキピテル町長の集めていた本を読ませてもらったんだろう。
「ワタシがモルに怯えることなく、ミアストに意見すれば、もしかしたら……もしかしたら、町は少しでもマシなほうに向かったかもしれない。……今更の話ですけど」
ミアストが他人の言うことなんて聞くとは思えない。でも、もしかしたらとスヴァーラさんが思うことを止められない。だって、スヴァーラさんは他の町民よりはるかに町長に意見できる立場だったから。町長を制御できるかも知れない人だったから。だからこそモルが抑え込もうとしたんだろうけど。
「だから、スキル学を学ぼうと?」
「スキル学の中でも、スキル運営学を」
スキル学と一言でいうけれど、かなり細かく分類されている。スヴァーラさんが学ぼうとしているのは、ランクの高い町には絶対に必須のスキル運営学。町スキルをどうやって生かすか、町が間違わず成長していくにはどうすればいいのか、踏み外して傾いていった時どうすれば止められるのか。ぼくにとってのアパルやサージュを、……そう言えばミアストは持っていないなあ。町長がいればそれでいいとか思ってたクチか?
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