第182話・家族に例える
「そうだな、グランディール家という家があるとしよう。その家で君は父親。家の主だ」
よくわからない話に持っていかれたような気もするけど、とりあえず頷いておく。
「町民は子供。父親は子供を養う義務を負う」
うん、それは分かるけど。
「他の町は友達だとしよう。友達だったら、時々晩御飯の御裾分けとかが来る。子供が遊びに行っても怒らず相手してくれる。時々家族で遊びに来たりもする。近所の家とも遠くの家とも仲良くしている」
それがどうだっての?
「この友達の家の一つの父親を無理やり引っこ抜いて、残った子供を家族にする。するとどうなる?」
「そりゃあ、その家の父親抜いちゃったんだから、ぼくが養わないといけないだろうね」
「そう。君は急いで稼ぎを増やさなきゃいけない。稼ぎを増やすこと自体はグランディール家にとっては難しくはないかもしれない。だけど、もう一つ問題が起きる」
「?」
「父親が大好きだった子供たちから、父親を無理やり引っこ抜いて家族にしてしまった。お父さんがいないから今日から自分をお父さんと呼べと言った。今まで友達のお父さんだったのに突然自分のお父さんになってしまった。認められるか?」
「無理だよね」
ぼくも父さんが突然いなくなって別の人が父さんだよって言って来たら、父さんを探して家を出るだろうな。
あれ……。
あれ……?
あ!
「そう。子供が納得しない。納得せず父親を連れ戻しに行ったり家を出たりするだろうね。そして、他の家も、それまで仲が良かったのにいきなり父親を追い出して子供を家族にした家と、いつものように仲良くできるかい? 今まで友達だった子供が兄弟になると言われて納得できるかい?」
「うん、無理だね。そりゃあ、無理だ」
二人の言いたいことがやっとわかってきた。
「それに、それまで友達だった家も、いつ父親を引っこ抜かれてグランディール家に連れていかれると思ったら、友達付き合い出来なくなる」
「そしてみんな離れて行く、あるいは敵に回る。そういうこと?」
「ああ」
スピティの町民は水路で喜んでくれたけど、それと引き換えにスピティじゃなくグランディールになれって言ったらどう思ったろう。
周りの町も、町長が来て何か教えると町を併合されるなんて言われたら、歓迎はしなくなるだろうなあ。
そうなると味方がなくなる。
町の人数が少し増えるのと引き換えに、周りの町の信用と信頼を失い、味方がガクッと減る。結果、グランディールに移住しようという人間はいなくなる。
それは、まずい。
だけど、町の人口を増やさなきゃいけないのも事実で……。
「じゃあ、人口を増やすにはどうすればいいの? グランディールには大急ぎで人口が必要なんだろう?」
「情報を集めるしかない」
サージュは片手で顔を覆って言った。
「滅びかけている町、町長の評判が悪い町、そういう町を探す。ファヤンスは本当に偶然だったが、今度からはまずい町を探して、救う形でグランディールに移住させる」
ファヤンスの町民、正直ほぼ全員、
ああいう町を探して、勧誘するってことか。
「でも身近で一番ヤバいのってエアヴァクセンなんだけど」
「いきなりSSランクの町はまずい。ランクの高い町に慣れていると移住することで自分のランクが下がる気分になるからな。だから、ランクの低いまずい町から引き抜くんだ。そっちの町にないこれがあるよってな」
「幸いうちは飛べるから、町を比べてどちらに行きたいかと見てもらえる利点があるし、思いついたらすぐに移住できるし、人数が増えて慌てて家を建てたり土地を決めたりする必要もない」
「なるほど。でも町の情報を手に入れるにはどうすれば?」
「展示即売会で招く約束をした町長たちがいるだろ?」
そうだった。スピティで倒れてオルニスが飛んできたから忘れてたけど。
「招待した時に聞くんだよ。相手はグランディールより古くて独自の情報網を持っている。その中には必ず、マズイ町の情報がある」
「あるの?」
「ある。故郷に何かがあってこちらへの移住希望者や放浪者が増大しているが、土地がないとかその町の悪い評判とかを聞いて、町として受け入れられない滅びかけの町は、必ずある。その情報を手に入れて、その町の住人を引き入れる。どの町も感謝しかない」
な、るほど?
「グランディールは人口を増やせる。教えてくれた町は厄介事から離れられる。移住してきた住民は新しい町で生きていける。三方良しだ」
「住民に去られた町は?」
「当然ながら町から町民が出て行ってるのを止められない時点で、町としての機能を果たさなくなっている。Eランクまで落ちたか、ランク外、町でなくなっているか。町でなくなっている場合は町長も自称でしかない。文句は言えない。何よりそこまでランクを落としたのは町長の周りの人間が悪いんだから」
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