第181話・頑張っているぼく
「しかし、どれくらいの人数が必要?」
ぼくの問いに、アパルが眉間にしわを寄せる。
「それが分かれば苦労はない……だけど、
「空を飛ぶだろ? 人間を地上と町へ行き来させるだろ? 家や施設が建つだろ? 土地が広がるだろ? 勝手に家具や服が出来るだろ? 素晴らしい陶土が出るだろ? あとなんだ?」
指折り数えるサージュ。思えば結構無茶な力技をしてるな、この町。
「それだけのことを一人のスキルで
「伝説になり損ねた町は町長の死後やんわりと滅びて行ったけど、グランディールは町長が弱り出したら一気に行きそうだ」
「なんで?」
「お前の力技でこの町はもってるんだ、お前の力技が出来なくなったら、それっきりのアウトになるのが目に見えてるだろが」
「え、ぼくのせい?」
「というか、この町自体がお前に頼りきりなんだ。この町を滅ぼすのは簡単、お前一人をどうにかすればいい。ミアスト辺りがこのことに気付かなければいいが」
「じゃあ、ぼくが前に拉致された時は……」
「大ピンチだったんだ。お前は町民……俺たちやシエルがいれば何とかなると思っているようだが、実際の所俺たちはいくらでも替えが効く。町にとって替えが効かない才能を持っているのはお前一人なんだ」
ぽかんとしていると、アパルが溜息をついて手を伸ばし、ぼくの髪の毛をくしゃくしゃにした。
「自覚を持ってくれ町長。この町も、町民も、お前がいなきゃ砂の城。あっという間に波に削られて消えてしまうんだ」
「……ぼく、そんな大げさなことをしたくて町を造ったんじゃないけど」
ただ、ミアストを見返してやりたかっただけで。
ぼくのスキルが無意味ではなかったと思い知らせてやりたかっただけで。
「なら、大げさになりそうだから町を捨てるか?」
「冗談じゃない!」
サージュの一言に、ぼくは頭に血が一気に上って思わず怒鳴ってしまった。
「ぼくだけならそれでいいかもしれないけど、ぼくはここにいる人たちを守る責任がある! 思い通りにならなかったからって捨てることは出来ない! それじゃあ、ミアストと一緒になってしまう! 町の評判を自分の評判と勘違いしているあいつと!」
「分かった、言いたいことは分かったから落ち着け」
サージュがぼくを
「落ち着いて、これを飲むんだ」
「落ち着いてって……!」
「ああ、試すようなことを言った私たちが悪かった。あとで百回でも千回でも謝るから、今はこれを飲みなさい。興奮は体の中に熱を溜め込む」
しばらく肩で息をして、なんだかわからないけど二人を睨みつけていた。アパルの言葉がやけに引っ掛かって頭の中がクラクラしてたけど、アパルの手から薬湯をひったくってそれを一気に飲み干した。酷く苦い。だけど、その味はぼくにはぼくの心の中を表しているように思えた。
しばらくムスッとしていたけど、多少頭が冷えてきて、何を言えばいいんだろう、と考え始めた頃に、アパルが言った。
「済まない。君を試すつもりはなかったんだ。君はこれまでグランディールの町民の為に、本当に一生懸命頑張ってきた。私たち二人はそれをよく知っている。常にすぐ傍で君を支えてきたからね。ただ」
じろりと見上げたのに気付いたんだろう。アパルはぼくの肩を軽く叩いた。
「君はどうにも一人で抱え込んでしまう癖があるようだ。それが私たちを信頼していないからじゃなくて、信頼しているからこそ心配をかけたくないからというのも知っている。だけど、心配くらいかけさせなさい。君はまだ若くて、無茶と無謀を考えるのが仕事。それを心配し制御するのが君より年上の私たちの仕事なのだから」
言いたいことが分からない、と見上げるぼくに、アパルが小さく微笑む。
心配かけさせろって……普通、大人は心配をかけさせるなって言うものなのに。
「いつか分かるさ。そうだね……いずれ君が次代の町長を選ぶようになる前には」
何だか気の遠くなるような未来の話をされた気がした。
「とりあえず、グランディールを伝説の町にするには、人口を増やす必要がある訳だ」
ぼくは呟いて、ん? と考える。
「スピティを取り込んだ方がよかったってこと?」
「いいや、スピティは取り込まなくてよかった」
スピティのフューラー町長は併合してもいいって言ってくれてたんだけど。
「今の時点で、友好的な町を取り込むのはまずい」
「なんで?」
首を傾げたぼくに、アパルは答えてくれる。
「ファヤンスと同じことをやる必要はなかったんだよ。多分町長は仮面でその流れに持って行ったんだろうけど、やはり町長の仮面は町に必要なものを分かっている。グランディールが今一番欲しいのは、味方なんだ」
「?」
「分かりにくいかな。グランディールに今必要なのは、家族じゃなくて友達なんだ」
……余計分かりにくくなりましたが。
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