第180話・伝説になり損ねた町
「一代で終わった町って言うのは、どんな感じなの?」
「うん、多分お前も予想していると思うが……」
サイドデスクに置かれた本をサージュは指差す。
「設立した町長のスキルの効果範囲が広い町だ」
一瞬、部屋に静寂が満ちた。
エキャルの羽音すら聞こえない。
「……「まちづくり」みたいに、ざっくりした町だね」
「ああ」
サージュの指先にある本には、「滅び逝く町」と書かれている。
「「富める強国」ディーウェスのスキル研究家プラーグマ・ファクトゥムが研究した、素晴らしいと誰もが言ったのに一代で滅びたいわゆる「伝説になり損ねた町」について書かれた書だ」
ディーウェスは三百五十年前から五十年前まで続いた、身近な伝説、SSSランクの町だ。まだディーウェスの偉大さを覚えている人もいる。畑仕事担当で元エアヴァクセン盗賊団団長、ヒロント長老は、小さい頃にディーウェスの住民と話す機会があったらしい。ディーウェスの知識を教えるためにやってきたその人に、ディーウェスはどんなところ? と聞いたら、「みんなで作った楽園だよ」と答えてくれたらしい。長老は「今はグランディールが儂にとってのディーウェスだよ」と笑って言ってくれたけど。
そんな町に住んで、存分にスキル学を学んだ人が書いた書。
「伝説になり損ねた……」
まさしく、このまま放っておいたらグランディールが辿るかも知れない道だ。
「フォーゲルは鳥の本しかないと思っていたが、珍しい本もあったもんだ。スキル学を政治に役立てず、更にただ真実を知りたいと志すような物好きが手に取る本だからな」
「アッキピテル町長には……」
「許可を得てるよ。町長になってからスキル学の本も集めたけど自分しか読まないからどんどん読んでくれとさ」
アパルもサージュも椅子に座って、目線で読めと促す。
「滅び逝く町」にはしおりが二枚挟んである。
「ここを読めってこと?」
二人が頷くので、そのページを開いてみる。
幸いなことに、ぼくに読める字で書いてあった。
『夢幻の町トラオム』
聞いたことがない。
続きを読む。
『万能のスキルと謳われたエニュプニオン・ソムニウムが一代にして作り上げた町。夢のように素晴らしい町、SSSランク、全ての町が手本にした町だが、エニュプニオン亡き後、誰もそのスキルの後継になれず、文字通り
「似てると思わないか?」
言われるまでもなく想像がついた。
今のグランディールと、夢幻の町トラオムは似ている。
ぼくのスキル「まちづくり」は、町を作ることに関しては完璧だ。勝手に建つ家や広がる畑。
だけど、誰も真似ができない。似たようなことが出来ない。
グランディールで、ぼくのスキルなしで出来るのは、今のところ空中水路だけ。
ぼくがいなくなったら……グランディールは終わる?
それは嫌だ。
やっとここまで出来たぼくたちの町。それが、ぼくが死んだ途端終わるだなんて嫌だ。
絶対に嫌だ。
嫌だ!
「この研究家さんは、何か対策とか考えてたの?」
声が震えてるのが自分でも分かる。
「しおり」
もう一つのしおりの挟んであるページをめくる。
小題に『一代で終わる町と終わらない町』
と書いてある。
なになに?
ぼくは文字列を読む。
『一代で終わる町は、素晴らしすぎるから終わったのではなく、町長に原因がある』
えっ、なんで?
『町長が元からいる町民を大事にして新しい町民を入れず、人口が増えないと、二代目……町スキルの影響を胎内で受けた真の町民と言える世代が少なくなる』
確かに両親が町の住民なら、その子供は本当の町の住民だ。仮住民というけれど、町に生まれて町スキルの影響下にある……フォーゲルに鳥に関するスキルの持ち主が多いように、スピティに家具に関するスキルが多いように。
『二代目、三代目、その間に町の存続に必要なスキルの持ち主が生まれるが、町長のスキルをカバーできる強さと数が揃わなければ、町は存続できない。よって、初代町長は、可能な限り早いうちに町民を増やし、町スキルの影響を受け必要なスキルを受け継ぐ真の町民を増やさなければならない。スキルが弱体化してきてから、町民にスキルの持ち主がいないと気付いても遅いのである。』
んー。
「要は、他の町からバカスカ町民引き抜いて、グランディールの町民にして、産めよ増やせよして二代目三代目をたくさんにしなければならないと」
「ということだろうね」
先に読んでたんだろうアパルが頷く。
「一人の人間にあるスキルは、上限レベルによって限度が限られてくるからな。町民が最低限の人数では、後に町を運営できるだけのスキルには足りないんだ」
「多分、グランディールも、今いる人数では圧倒的に足りないんだな。幸いなことに、グランディールは敷地は広がるから、上限が何人かは分からないけどまだ余裕はあるだろう」
「確かに、人数は少ない方が町の運営は楽だから最初の内は増やさなくて大丈夫だと思ってた。だけど違うんだ。最初の内から計画的に町民を増やしていかないとまずいんだ」
納得。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます