第179話・伝説の町
アナイナはとりあえず御見舞いに来ない、らしい。
ヴァリエは……どうやら女性陣が説得してくれたらしい。シートスから「弱っている姿を見られたくないという言い訳で大人しくなってくれたので、とりあえず寄ってほしくない時は弱った振りをして追い払ってください」と言う手紙が来た。
なるほど、騎士の主は弱ってる姿を見せてはいけないものなのか。
最近はヴァリエも大人しくなったけど、初対面の時の正体不明ストーカーの戦慄の恐怖はまだ残ってる。逃げ切ったと思ったら町の中から声がした時は、正直、心臓止まるかと思った。
その襲来がないというのだから、安心して本を読みながら考えに浸れる。
アパルが貸してくれた、伝説の町の本。
エキャルをモフりながら読んで、色々考えてみる。
伝説の町が初代で潰れなかったのは、仮住人が目覚めたスキルにあるかも知れない。
例えば空飛ぶ町ペテスタイは、出来てから五・六年後の子供たちには、浮遊や飛行と言ったスキルが多かったという。町長亡き後、彼らが町を飛ばし続けたとか。
そう考えてみると、確かに町によって、発生しやすいスキルはある。
エアヴァクセンは最近はめっきり減ってしまってはいるけれど、その昔は「鑑定」が多かったという。ファヤンスは陶器関連に
ところが、グランディールにそれがあるか分からない。
……まだできて一年も経っていない町に判断材料がないってだけのことなんだけど。
一番最初がアナイナで半年後……くらい? その次は五・六年間が空くから、生まれやすいスキルの傾向が全然見えない。十年くらい経たないとはっきりとはしないという。
……十年後に考えろって話だよな。
でも、今、気になってるんだから仕方ない。
気になったことは気になった時に聞いたほうがいい。後回しにすると聞く機会がなくなっているかも知れないから。
それに、アパルやサージュと町に関する疑問や心配を共有することは、将来のグランディールにとっていいことだと思う。
予想できる不安を早め早めに取り除く。それは町が長く続くのに必要なことだと思うから。
◇ ◇ ◇
「おーう、大人しくしてたか」
サージュとアパルがやってきたのは、相談してから三日後のこと。
「いい加減ベッドは飽きたけどね。スヴァーラさんが医者の許可出るまではぼくも大人しくするって約束したから」
「OK。とりあえずお前の知りたいことは調べてきた」
何冊かの古い本がベッドサイドのデスクに置かれる。
「大体の伝説の町は、初代の町長一人のスキルで出来たものらしいね」
アパルが本のページを開いて、さっとその部分を示す。
「
「うん、それはそういう町を作れって言う精霊神の御意思だろうね」
「で、造ったのは町長一人のスキル。町長が仲間を集めて町を出て新しい町を作って、他の町から移住希望者がやってくるのを受け入れる。そして三十年ほど初代が治めて、大体は寿命で代替わりをしている」
「代替わりってどんな?」
「町民の選出制……選挙とか言う方法だな」
「センキョ?」
「町長になりたいって人間を上げて、町民がその中から町長に相応しい人間を選ぶんだ。町民が一点ずつ点を入れて行って、一番点が多いのが町長に決まる」
やってる町は少ないけどな、とサージュ。
「なんで? 町民の意見も入るし一番いいんじゃ?」
「誰でも名乗りを上げられるってのは、町のことをよく知らないけど人気がある人間が町長になる可能性もあるんだよ」
「教える人はいないの?」
「いるけど、新町長が言うことを聞かない場合もあるんだ」
「自分の望む町にしようって思って全然違う方向に行ってしまうこともある」
「ああ、そうか。町長は町の方向性を決める権利があるから」
町長が変わる度に町が変わって行ったら町民としてはたまったもんじゃないだろう。
「そう。そういう訳で、ほとんどの町で、前町長寿命代替わりの場合は、亡くなる前に前町長が新町長を選ぶってことになったんだ」
「なるほどね……。で、伝説の町はなんでセンキョで?」
「伝説の町の特性からかな。それまで町長一人のスキルで出来ていたのが、複数のスキルを「合わせ」なければならなくなった。だから、「合わせ」る人間の中でも一番人望のある人間を選ばなきゃならなかった」
「なるほどねえ」
「でも、それもこれも、町を維持できるスキルが揃う二十年、三十年もってこそだ」
安心したぼくの心を見透かしたように、サージュが付け加えた。
「伝説「未満」……つまり一代だけで終わった町は、結構ある」
「え」
「知らなかっただろ。一代で終わった町なんて滅多に文献にも載らないから」
知りませんでした!
ていうか一代で終わる前に聞いておいて良かった! あったんだ、一代限り終わりの町!
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