第178話・フォーゲルにとっていい人、悪い人
エキャルをモフりつつ、アパルが持ち込んでくれた娯楽本を読んだりして時間を潰す。
時々スヴァーラさんに御見舞いの手紙を書いて、それをエキャルに持たせたり。
スヴァーラさんからは、気にかけてくれてありがとう、エキャルが来るとオルニスも喜んでくれるので嬉しい、体は順調に回復しているし、モルやミアストの目がないというのは安心できるけど、時々自分が助かったのを知っているんじゃないかという不安に襲われる、という手紙が戻ってくる。
この不安ばかりはどうしようもないので、フォーゲルのお医者さんにメンタル面も見てあげてくださいと頼んである。
時々、青色の小さな羽根が手紙についてくる時もある。オルニスの羽根で、オルニスも元気ですよ、と書いてくる。
小さい頃、青い小鳥が幸せを運んでくるという話を母さんから聞いたことがある。
幸せを運んでくる青い小鳥と、その子が大好きな飼い主。
これは、揃って幸せになれないとダメだよな。
フォーゲルを選ぶかもしれないし、グランディールに来るかもしれない。どっちに行くとしても、小鳥の健康は保証するとアッキピテル町長は言ってくれた。
鳥の町フォーゲルは、鳥に好かれている人、鳥に愛されている人を無条件に気に入って、手を貸してくれる。スピティへの展示即売会には来ていなかったけど、フォーゲルで伝令・宣伝鳥売買をしているパサレ・ティールから、ぼくたちが鳥を買いに来た時の印象なんかを聞いていたんだろう。最初の手紙の返事から丁寧だったし、アッキピテル町長にグランディールを案内した時、宣伝鳥の面倒を見ていた鳥飼ティーアを認めてくれたのか、エキャルラットのぼくへの懐きっぷりを認めてくれたのか、その両方か。とにかくグランディールと言う町を高く評価してくれて、Cランクの町を対等に扱ってくれている。そして同じようにスヴァーラさんにも親切にしてくれている。
鳥が懐くのはいい人。鳥に嫌われるのが悪い人。そんな分かりやすい判断基準だけど、鳥のことを何より知っているフォーゲルではそれが一番分かりやすい人間評価だ。
……もちろん食用の鳥もある。
卵だけを取る鳥だけじゃなく、鳥肉になる鳥もある。
それでも、その鳥の命に感謝して食べろ、とフォーゲルは言う。
命をいただくのだから感謝すべきだ、それが出来ない町には売らない、というのがフォーゲルの主張。
フォーゲルから譲り受けた鳥を繁殖させて食肉を賄っている町もあるけれど、その町の鳥への虐待が明らかになれば、元……最初に繁殖させたのがフォーゲルの鳥であれば、フォーゲルは容赦なく全ての鳥を取り上げる。何処かの町がどうせ食べるのだからと雨ざらしになった鳥小屋で狭い所に押し込めて掃除もしないことを知ったフォーゲルが、全部の鳥を連れて帰ってしまったことがある。食糧不足になった町が、フォーゲルに高額の鳥への賠償金と飼育環境を改めると一筆書くことで何とか食用鳥を返してもらった、ということがあった。
アッキピテル町長に初めて会った時、さりげなく聞いてみたけど、「そこまでエキャルラットが懐く町であればそのようなことは起こるまい?」と言われてしまった。本気だな。
外に放していたエキャルラットが戻ってきて、窓をコツコツと叩いている。
「お帰りエキャル」
部屋の中に入って来たエキャルは、飾り尾羽を優雅に動かしながら部屋に入ってくる。
本をベッドサイドの棚に置いて、両手を広げてエキャルを招くと、迷いなく手の中に入ってくる。
首についている封筒には何か入っている感触。
「誰かからの手紙をもらってきてくれたのかい?」
聞いて、封筒に手を出すと、ぼくが取りやすいようにエキャルは首を伸ばす。
封筒から手紙を取り出して、広げる。
『お兄ちゃん、ちゃんと寝てる? ご飯食べてる?』
アナイナからだ。
ぼくとアナイナの家はあるけれど、恐らくアナイナが十五になった瞬間にアナイナだけの家が建つんだろう。グランディールの家が建つ基準はよくわからないんだけど、成人するまでは保護者と同じ家で、成人した瞬間に個人の家が出来る、んだろうなと思っている。こればっかりはアナイナが成人しないと分からないんだけど。仮住民で一番年かさなのは十四歳のアナイナだから。
ああ、手紙を読んでいる最中だった。
『お兄ちゃんが、体の具合の悪い時はあんまり近付かないで欲しいって言うから手紙書くけど、本当はわたしの看病が必要なんじゃない? 何かあったらエキャルに言ってね、すぐに駆け付けるから!』
う~ん、やっぱりわかってくれてない。
『ヴァリエよりわたしのほうがお兄ちゃんのことよく知ってるから、看病を任せちゃダメよ。ヴァリエって騎士として育てられたせいかそういう繊細な心遣いがないから』
目くそ鼻くそという言葉をアナイナは知っているんだろうか。
『こっそり入ろうとしたらエキャルが
やっぱり入り込もうとしていたか。
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