第177話・未来への警戒

「五代、もつか?」


「何故、そんなことを?」


 聞いてくるアパルとサージュに、ぼくは最近思い付いてから頭を離れなくなった疑問を口にした。


「この町、空を飛んで、勝手に家が出来て、土地が広がって、家具や服が出来て、お湯が循環して。これ、ぼく一人のスキルだよね」


「ああ」


「じゃあ、何かの理由でぼくがいなくなったら、この町は立ち行かなくなっちゃうんじゃないかと思って」


 はっとサージュとアパルがぼくの顔を見て、それからお互いの顔を見合わせた。


「グランディールがSSSランクに行ったとしても、ぼくがいなくなった途端に滅んじゃったら意味がない。町が続かないといけない……それには、ぼくのスキルを肩代わりしてくれる誰かがいないといけないんだ。だけど、「まちづくり」のスキルがそうポンポン生まれるとは思えない。だから、他の町はどうだったのかなって」


「…………」


 そう。それがぼくの気がかり。


 気が早いかもしれない。ぼくはまだ十六にもなっていない。普通に考えれば短くても後四十年は生きられる。


 でも、ぼくがいなくなると、町がどうなるのか。


 恐らくは町民から切り捨てられたことで町への罰を逃れられたファヤンスとデスポタ、いずれ自滅するだろうけど、今のところはSSランクの町を維持? しているため町長の座にしがみついていられるエアヴァクセンとミアスト。そんなことを考えていたら不安になってきたんだ。


 グランディールは完璧だと思う。衣食住に不自由せず、スキルに拘らずに好きなことがやれて、お金がなくても生きていける。夢の理想郷。


 でも、このまま放っておけば、夢はぼくが消えた瞬間に終わってしまう。


 だから、他の町が気になったんだ。


 伝説と呼ばれる町が、最低でも五代、生き残った理由。


 それが分かれば、グランディールも生き続けられるかもしれない。ぼくの「まちづくり」なんていう反則級スキルで成り立った町は、ぼくがいなくなっても生き残る方法を考えないと、一代で終わってしまう。


 何か、秘訣はあるんだろうか。


 スキル学に詳しい二人なら何か知っているんじゃないか、と思ったんで聞いた。


「確かに……調べてみるか」


「フォーゲルの書物も見せてもらえるかな」


 頭脳二人が動き出すので、ぼくはこれ以上動かないほうがいいな。


 椅子に座り直して、薬湯をコップに注ぐ。


「でも、町長」


 アパルが部屋を出て行こうとしかけて振り向いた。


「少なくとも、町長がいなくなってもしばらくは持つと思うよ」


「なんで?」


「二週間前のこと、忘れたかい?」


 二週間前……スピティでスキル使い過ぎてぶっ倒れたこと? それで寝込んだこと?


 アパルは静かに言葉を続けた。


「グランディールは町長のスキルを受けられない状況にあったけど、その間グランディールには異変はなかった。恐らくは町長のスキルが受けられなくなっても、一週間ほどは確実に無事。いきなりガラガラと崩れることはない」


 それを聞いて、ぼくは少し安心した。


「そ、か」


「君が町長で、良かった」


 安心したかのような声に顔をあげると、アパルが微笑んでこっちを見ていた。


「アパル?」


「自分の在位中のことは考えられても、自分がいなくなった後のことを考えられる町長はそうはいない。ましてやうまく行っている町の町長であればなおのこと。それを気にかけて部下に聞く。それは、自分じゃなく町と町民のことを真っ先に考えられる、いい町長だ」


「ああ。ミアストなんぞ自分が地位にいるのに拘って、町民からどう思われているか、町がどうなるかなんてちっとも考えやしない。町長の適性は、最低でもミアストを超えている。エアヴァクセンの町民がクレーのことを知ったら、我先にと移住希望を出してくるだろうな」


 サージュも、に、と笑った。


「何か分かったら来るから、大人しくしていろ」


「散歩くらいならいいけど、体温をあげる運動とかはしないように」


「へーい」


 ぼくは頷いてベッドに移り、二人は部屋を出て行く。


 それまで頭の上にいたエキャルが、ベッドの上に軟着陸した。


「お前がぼくの見張り?」


 聞くと、エキャルは首を反らせる。


「まあ、いっか。アナイナやヴァリエだったら耳元でうるさいだろうし、お前は鳴かないし」


 狭い部屋に女性の高い声がわんわんと響くと、頭にひどく来る。体調の悪い時は頭痛の原因になる。そしてアナイナもヴァリエもこっちを心配しているのは分かるけど、自分の声が頭痛の原因になると分かってくれない。だから体調が悪い時は二人をあんまり近付けたくない。最終的に、二人は「体調の悪い時は一人になりたい」というぼくの要望と、グランディール女性陣の説得を受けて、部屋にこもっていたりする時は近付かないという紳士協定を結んだらしく(なんで紳士?)、ここしばらくはエキャルに手紙を持たせて離れた場所から心配してくれている。


エキャルは自分が一番ぼくの傍に居ることを許されているのが嬉しいみたいで、よく二人の前で胸を張るポーズをする。「いいだろう」のポーズだ。それで二人にキィキィ言わせているのを見たことがある。


 その様子を町民の皆様が楽しんでいる節があるんだよなあ。「よっ町長モテモテ!」「妹と騎士と鳥だからかち合わないな、ハーレム!」とか言われてるけど、妹も騎士も鳥も普通ハーレムに入らないんじゃなかろうか。


 まあいっか。


 久しぶりに町長の仮面をつけたから疲れたし、ここしばらくの悩み事も打ち明けることが出来た。あとは二人がどんな結果を持ってくるか。


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