第176話・便利な町
山に囲まれた盆地にあるフォーゲルに出入りできる門は少ない。
山を縫う街道だけ。空から来る飛行獣や乗用鳥も、フォーゲルの空を覆う鳥移動不可の結界に阻まれるので、一旦街道に降りて獣や鳥を預けなければならない。
そして、別にグランディールに行くルートが一つだけ。
ぼくは頭にエキャルを乗せたままそこへ向かう。
フォーゲル会議堂の奥。
この一件をエキャルラットに持たせた手紙で相談した時、アッキピテル町長はこっちが思っている以上にノリノリで参加希望してきた。「パサレから聞いている。鳥をこんなに可愛がってくれている町からの、鳥と飼い主を助ける相談だし、ミアストに釘を刺す機会でもあるから」と、すぐにグランディールを、ぼくじゃなくグランディールごとフォーゲルに招いてくれた。
山の中にちょうどいい場所があるからと近くまで来たグランディールに町長自ら乗用鳥で乗り付けて、フォーゲルの北の山地の森が深い場所に町を隠せるようにしてくれた。
そして、試してみたことが一つ。
グランディールと地上をつなぐ金の光の輪……上昇門・下降門を、真上と真下だけじゃなく、別の場所に繋げることは出来ないかと思って、アッキピテル町長に場所の相談をしたところ、「ならば町長室はどうだ」と来た。確かに人の出入りも少ないけど……まあ出来るかどうかやってみようと、ぼくを動かすのが厳しいとアパルが会議堂の町長室に行って、試しにやってみたところ、グランディールの門とフォーゲルの町長室が繋がったということで。
ぼくも負担なくグランディールとフォーゲルの行き来が出来るようになって、相談を重ね、エアヴァクセンに送る手紙を書いて送り、エアヴァクセンから使者が来るのを、アッキピテル町長は怒った顔を作って待った。フォーゲルは鳥犯罪に厳しい。鳥を痛めつけた者はよっぽどの事情がない限り、厳罰が下される。町長側近であろうと町長その人であろうと関係ない。厳罰を恐れたエアヴァクセンは案の定、生贄にスヴァーラさんを連れてきてこれで丸く収めてくれと言うことになった。
だから、予想通りエアヴァクセンがスヴァーラさんを連れてきた時、アッキピテル町長、実は
スヴァーラさんを無事救助、エアヴァクセンに釘を刺し、ついでにグランディールとフォーゲルの友情も結べた。ぼくらの
◇ ◇ ◇
「めでたし、めでたしと」
呟くぼくに、サージュは呆れたような目を向けた。
「確かに町や町民への暴力は認められていない。が、別の町を巻き込んでの詐欺まがいに出るとは思わなかった」
アパルも無言で頷く。
グランディールのぼくの仮眠室。フォーゲルから帰って来た途端ここに引っ張り込まれた。大人しくしとけってことだろう。
「詐欺じゃないよ」
薬湯を飲みながら、ぼくはしれっとした顔で答える。
「ぼくは、フォーゲルに、鳥への暴力という犯罪を伝えただけ」
「表向きは何処からも文句を言われない正義の行動だが」
「裏向きも正義の行動だよ。暴力を振るわれている鳥と飼い主を町から脱出させた」
「……気付いたらミアストはキレるだろうな」
「キレさせとけ。悪いのはあいつ」
第一、と薬湯から口を放して言った。
「他に手がないからって喜んでぼくに手を貸したのは何処のどなたさん?」
その言葉にアパルもサージュもしれっと目を逸らす。
だよね。二人もノリノリでこの作戦に参加したんだもんね。
「しばらくはここで大人しくしていよう。スヴァーラさんが治るくらいまではぼくも大人しくしてるよ」
「そうしてくれると助かる」
「相談したいこともあったしね」
ほっとした二人の顔は、再びしかめられる。
「なんでそんな露骨にやな顔すんの」
「お前が相談って無茶なことばかりだからだ」
アパルもうんうんと頷いている。
「無茶じゃないよ……。いや、無茶かもしれないけど、この町には将来絶対必要なことだから」
「不穏だね」
アパルが目を細めた。
「町長がそうまで言うってことは、重要だろうけど難題だ。……なんだい?」
「ペテスタイやシルワ、マル、オンデゥル、ズプマリーン、オーズィア」
俗に伝説という町の名をあげる。
「それは、どれくらい持った町なんだ?」
「また変わったことを聞いてくるな」
サージュが腕を組み、アパルが首を捻る。
「そんな町が一代限りで滅びたってことはないよね」
「ああ。最低でも五代は持たないと、どんな町であっても伝説とは呼ばれない」
空を飛び、世界中を旅した空飛ぶ町ペテスタイ。南の大森林地帯の巨大な樹木の上に作られた樹上の町シルワ。海に浮かぶ海上の町マル。地中遥か、鉱山の底に作られた地底の町オンデゥル。深い海の中にある海底の町ズプマリーン。カロス湖のど真ん中に浮いていた湖の町オーズィア。
特殊な力を持っていて、特殊な場所に作られた町でも、最低五人の町長を数えなければ伝説として
「それがどうした?」
「グランディールは五代もつかなって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます