第174話・種明かし

「今から一週間ほど前、一羽の小鳥がうちの伝令鳥に助けられてグランディールに逃げ込んできた。足環に仕込まれた、「オルニス」という名と、大切に扱ってくれという手紙、そして鳥には人間に暴行された痕があった。それがこの子。間違いないですね?」


 ベッドで半身を起こしているスヴァーラさんが、オルニスを指から肩に移して頷く。


「うちの鳥飼……このティーアだけど……が何とか治せないかって言って、ご存知の通りグランディールは空を駆けるからそのままフォーゲルに移動、治してもらいました」


 ちぃ、と鳴く小鳥に、再び涙を浮かべるスヴァーラさん。


「で、それとは別に、その時グランディールがあった場所が、エアヴァクセンからも来れなくはない位置にあったんで、グランディールに助けを求めて来たんじゃないかって話になったんです」


「オルニスが……グランディールに? わざわざ? でもオルニスは普通のインコで……」


「スヴァーラさん、貴女はこのインコでスキル「鳥観図」をしばしば使っていただろう」


 アッキピテル町長が口を挟んできた。


「ええ……」


「同じ動物にスキルを使い続けると、その動物にスキルの名残が宿る。オルニス君にはスキルの名残があり、スキルを持つ鳥である伝令鳥とある程度の意思疎通が出来るようになっていた。それで、エアヴァクセンにいる貴女のことを心配していたオルニス君は、出会う鳥の中からエアヴァクセンと敵対関係になっても大丈夫そうな町を探し、助けを求めた。それがグランディール町長の伝令鳥」


「グランディール町長……? でも、色が」


 やっぱり、グランディール町長と認識されているのはあの髪と瞳の色の印象なんだな。


「あれは外向けの顔。色を付けるスキルの持ち主に、一時的に変えてもらっただけ。本来の色はこの通り。……あなたが知っている通りに」


「ええ……エアヴァクセンから追い出したこと、覚えてる……」


 ごめんなさい、と言いかけたスヴァーラさんを、片手で止める。


「ぼくを追い出したことを謝ってもらう必要はありません。あのままエアヴァクセンにいてもミアストにいいように使われただけでしょう。グランディールを造った今の方が、ずっといいんですから。さて、何処まで話したかな? オルニスくんがグランディールに来たところでしたかね」


 でも……と不安な顔をするスヴァーラさんに微笑みかけて、ぼくは話を戻す。


「エキャルがオルニスくんを連れてきた、つまり、オルニスくんはグランディールに用がある。その用件がエアヴァクセンにある。それはエアヴァクセンから最近グランディールに来たぼくの両親が教えてくれました。あなたがこの小鳥の飼い主であることも、あなたがミアスト町長の側近であることも、あなたがこの小鳥を大事にしていることも。オルニスくんはぼくたちに、あなたを助けてほしいと伝えに来たのだと思いました。でも」


 ちょっと頭を掻いて続ける。


「真正面からエアヴァクセンに挑むのは無理だと思いました。下手をすれば「いくさ」に引っ掛かる可能性もありますから。だから知恵を絞って考え、思いついたのがこのフォーゲルでした」


 アッキピテル町長は頷いた。


「フォーゲルとしても、最近のエアヴァクセンの暴走具合は酷いと思っていたし、飼い主を無視して痛めつけるという暴挙を許すことは出来なかった。そして、鳥犯罪は我々が最もいとうところ」


 ぐっとアッキピテル町長はこぶしを握り締める。一瞬、眉間にもしわが寄っていた。


「我が町から出て行った鳥の責任はその町にある。だが、その鳥に危害を加えられた時は、我々はその罰を与えることが出来る。それが鳥の町フォーゲル。そのことを思い出させるためにも、クレー町長の提案はちょうどいいタイミングだった。なので、フォーゲルの名前でエアヴァクセンに罰を加えるぞ、と通達した。エアヴァクセンとしてもまだフォーゲルと喧嘩はしたくないだろうし、しかし町長が鳥への暴力を認めることはない、暴力を加えた本人もまず出てこない……でもこちらにも真偽を判別できる者がいるから嘘はつけない……。よって、飼い主である貴女を差し出してくるだろうと判断した」


「ああ……それでワタシが送られてきたの……」


 納得したようにスヴァーラさんが頷いた。


「エアヴァクセンはフォーゲルが厳罰を下すだろうと思ったんだが、裏で我々が手を組んで貴女を救出しようとしていたとは思いもよらなかっただろう。使者が大急ぎで帰る……いやフォーゲルから逃げてゆくところは確認したのでね。そしてフォーゲルが犯罪者に与えた処分をいちいち元の町に告げることはない」


「あとはあなたの判断次第」


 ぼくは笑ってスヴァーラさんを見た。


「これから、どうします?」


「どうする……って」


「それはもちろん。体が治ったら、何処の町に暮らしますか、ということですよ」

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