第171話・大失態
「読んだ? 読んだな? では私が怒っている理由も分かるだろうな?」
そこで、やっとミアストが自分に対してこれ以上ない怒りを覚えていることに気付いたモルだ。
鳥を殺すな……そう言われていると思っていた。
だが、ミアストは「鳥をいたぶるな」と言ったのだ。
愛玩鳥も勿論鳥の町フォーゲルから譲られたもの。スヴァーラの両親が町長の許可を得て買ったのだから、オルニスもエアヴァクセンの鳥。そしてフォーゲルは、買われた鳥の安全を第一に要求する。
そうだ……だから、ミアストは、「鳥をいたぶるな」と言った……。インコであろうとフォーゲルからエアヴァクセンに譲られた鳥なのだから、鳥が安全でないことを知られたらフォーゲルから文句を言われる。ましてやそれが安全を第一に考えなければならない町長直属の部下ならば……!
「どうしてくれるんだ、あ?!」
ミアストの怒りは収まらない。
「この町で飼育している伝令鳥や宣伝鳥、愛玩鳥、乗用鳥、狩猟鳥、その他色々! エアヴァクセンに何羽の鳥がいると思っている?!」
「は、はあ……」
「フォーゲルは本気だ! エアヴァクセンがこれまで飼ってきた鳥を、残らずすべて回収することも
モルは小さくなるしかない。
まさか、こんなことになるなんて。
あの鳥をいたぶっていただけなのに、事はエアヴァクセンの信用と、その日常生活にまで関わってきたのだ!
「貴様を吊し上げてフォーゲルに引き渡すか? そうすればフォーゲルも怒りを引っ込めるかもしれん」
「ちょ、町長~」
半泣きで一歩前に出るモルを、ミアストはぎろりと睨んで口から息を出した。
「ええい汚らしい、こんな鼻水まみれの顔で私に寄るな!」
「わたしは……善かれと思って……スヴァーラを自在に操る鍵と……」
「エアヴァクセンの鳥は全てエアヴァクセンの町長の元に安全を保障する、それがフォーゲルとの約束だと、知っているんだろうな?! 分かっているはずだな?!」
「え、エアヴァクセンから出ないと大丈夫だと……」
「だからこそ大事にしろと、鳥を質草に使うなと私は言った。しかし貴様は! 私の顔に泥を塗り! エアヴァクセンに泥を塗った! 伝令鳥や宣伝鳥、狩りの鳥、全て失われるかも知れんのだぞ!」
ひぃ、と悲鳴を漏らして、モルはミアストに土下座した。
「そんなこととはつゆ知らず! お、お許しを、お許しを!」
「お前が許しを請わなければならないのは私ではない、フォーゲルだ!」
一喝されて、モルは小さくなる。
「どうしてくれる! この文面、あの伝令鳥の
たかがあんな小鳥一羽で、ここまでフォーゲルが怒るのか?
モルの疑問が顔に出たのだろう、ミアストは今度はモルを限りなく見下した。
「たかが鳥、と貴様は思っているだろう。顔を見れば分かる! だがな! フォーゲルに取って鳥は収入源であり、シンボルであり、友なんだ! まして愛玩鳥は愛されるためだけにある! それを痛めつけるなんてありえないんだ! それを! 脅すために使った! フォーゲルが怒って当然だ! 大事に可愛がってもらうために送った鳥が乱暴な扱いをされていると知ったら!」
モルが今までミアストの怒りに耐えられたのは、それが自分に向けられない怒りだったからだ。だが今回、ミアストの怒りは真っ直ぐにモルに向かって、逃げることも言い訳すらできない。真っ青になり、言い訳を探すが、もともと頭のいい男ではない、何も思い付かない。
涙と鼻水とよだれでいっぱいの顔で、必死でミアストを見上げる。
「ちょうちょう……ミアストさま……」
ミアストは毛虫でも見るような目でモルを見て、それから町長室の中を、ぐるぐると歩き回り出した。
「どうする……並大抵の謝罪ではフォーゲルは受け付けん……しかしこのままでは鳥がいなくなる……誰か仮の責任者を押し付けて……いやそれはすぐバレる……」
ぶつぶつ呟き、指先で腕を叩きながら歩き回る。
「…………」
やがて、ミアストは顔を上げた。
「……スヴァーラはどうしている」
「へ? は?」
「スヴァーラはどうしていると言ったのだ! 貴様が八つ当たりで殴りまくって倒れたスヴァーラは!」
「い、生きてます」
「生きています、ではないだろう! 貴様が八つ当たりで殴ったんだろうが! それと、すぐにメディサンを呼べ!」
◇ ◇ ◇
その翌日、スヴァーラは町の飛行獣に乗せられてフォーゲルへ向かわされた。
旅立つ時、モルは忌々しい顔で言ったものだ。
「あんな鳥のせいでおれが危なくなるところだった。その責任をおまえに取らせるんだ」
どう危なくなったかは知らない。教えてもらっていない。ただ、フォーゲルが出てきたのでお前を町の代表として送り出す、と言われた。
質草にされるオルニスを逃がした罰だ、と思っていた。
何故なら、顔や腕、足の痣を、綺麗に消されたから。
エアヴァクセンの一番医、メディサンが見える所の痣だけ綺麗に消したからだ。
痣を消しただけなので、まだ体調は危うい。
それでも飛行獣に乗せられて、フォーゲルに向かうから、また体が熱くなってきた。
オルニス……両親がフォーゲルからもらってくれた、大事な小鳥は無事なんだろうか……?
心配だけが頭をよぎる。
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