第165話・傷付いた小鳥
門から入って来たエキャルは、何かを背中に乗せているようだった。
伝令鳥は普段は首筋に封筒をつけて、そこに手紙を入れて送るが、大きいものを運びたい時は背中にくくる。どう見てもその大きさじゃ飛べないだろそれって場合でも飛べる。それでも大きい場合は二・三羽協力する。
でも……ぼくが手紙を頼んで放したわけじゃないし、ましてやエキャルが外から勝手に何か持ってくるなんて今までに一度もなかった。
「ソルダート?」
門の方を向けば、膝をついたソルダートが掌に何かを乗せて、そのわきでエキャルが何やら心配そうな雰囲気。
「ソルダート」
「町長、いいんすか寝てなくても」
「OKは出た。て言うより何があった?」
「この鳥」
エキャルが心配そうに見ているのは、掌に乗りそうな大きさの、綺麗な色をした鳥だった。
「エキャルが背中に乗せて入って来たんだが……」
「この鳥を?」
ソルダートの手から綺麗な色の鳥をそっと受け取る。
微かに息はある。ことことと掌に鼓動を感じる。
よくよく見ると、足に小さな足環。その一部分が膨らんでいる。
そっと足環を外す。
膨らんでいる所から、とても小さく折り畳まれた紙が出てきた。
『この子の名前はオルニスです』
細く震える字で、そう書いてあった。
『もう老齢です。拾って下さった方、大事にしてあげてください』
「拾って来たのか?」
くん、とエキャルが頷く。
「とりあえずティーアの所に行こう」
「すいません町長、俺様仕事なんで行けないけど……走ったりしないでくれよ?」
「うん。走らない。走ったらこの子……オルニスだっけ? この子の体に悪い気がするから」
「ティーアは鳥小屋にいるはずだ。両方とも気を付けて!」
ぼくは肩にエキャルを乗せ、掌で覆うようにオルニスという小鳥を庇って出来るだけ大急ぎでだけど体を揺らさないように急ぐ。
しばらくまともに動いてなかったので、息が上がる。
無茶をしないように、オルニスを守って。
ゆっくり、急いで、会議堂まで。
歩いているのに息が上がるのは、十日以上もベッドの上だったのが原因だろう。体は大丈夫だって医者にお墨付きもらったんだから。
鳥部屋に辿り着き、コンコン、とノックをする。
「ティーア、いる?」
「いるが……どうした? エキャルなら……」
掌を離せないので肘でドアを開ける。
桃色の宣伝鳥たちが目をぱちくりさせる。
ティーアが餌をやる手を止めて、エキャルを肩に乗っけしたぼくを見返した。
「エキャルが何かしたのか?」
「ううん、これ……」
そっと右手の上に柔らかく乗せていた左手を外す。
「……インコ?」
「ううん、オルニスって名前」
「名前じゃなくて、鳥の種類だ。インコ。愛玩鳥だな」
ティーアはそっとオルニスを受け取って、指先で軽く
「弱ってるな」
「何とかならない?」
思わず紙を握りしめて聞く。
「大丈夫だ、
うう、と小さくなったぼくを無視して、水と蜂蜜を取り出し水の中に少しだけ蜂蜜を混ぜ、
オルニスは小さく首をあげると、匙の中に嘴を入れた。微かな微かな水音。
「これは相当な年寄りだな」
ギュッと握られた足を見て、ティーアが呟く。
「よくここまで来れたもんだ。運が良かったんだな」
飲まなくなったのを見て匙を置き、柔らかい布を集めた場所にそっと置く。
「しかし、一体どこからやってきた? グランディールは空から入れないのに」
「エキャルが連れてきた、みたい」
「エキャルが?」
エキャルがぼくの肩の上でうんうんと頷く。
「足環にこの手紙が入ってた」
手紙にティーアが目を通す。
「ランクの高い町の個人の鳥だな、これは」
「なんで?」
「お前はエキャルを愛玩しているが、エキャルは伝令鳥で実用も兼ねているだろう? インコは純粋な愛玩動物だ。ただ可愛がるだけの鳥を飼えるのはランクの高い町のランクの高い町民だけだ」
「ああ、スピティとか……?」
「あるいは、エアヴァクセンのような」
一瞬、鳥部屋を静けさが覆った。
「……この子の飼い主がエアヴァクセンにいるのかもしれない?」
「距離的には在り得る」
ティーアはオルニスを包んでいる布の下にある四角いプレートの端を押した。
「何それ?」
「保温用のスキルを仕込んだプレート。こんな体の小さい鳥は、体温が少しでも下がると命にかかわるからな」
そして、呟く。
「こいつの飼い主は、どんな思いでこいつを手放したんだろうな……」
「え?」
ティーアはオルニスの小さな体を指先で探る。
「あちこちに、痛めつけられたような痕がある」
「痛めつけた……痕」
「もちろん小鳥だから手加減はされているだろうが、人間の力は十分に暴力だ。飼い主が逃がしたのは、誰かが……そう、誰かがこの鳥に暴力を振るう、からじゃないかと思う」
ティーアはぎり、と歯を食いしばった鬼の形相で言った。
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