第164話・囚われ
「……下がれ」
ひとしきり怒ってから、ミアストは二人に告げた。
「……失礼します」
スヴァーラは一礼して部屋を出る。モルは続かず、ミアストの元に駆け寄る。
この後は分かっている。モルがミアストをおだてて褒め称えて慰めるのだ。貴方こそが一番の町長だと。グランディールのガキなんぞに負けるはずがないのだと。
これがあるから、ミアストには後悔や反省がないのだ……。
しかし、誰もそれを言えない。
まずモルにぶん殴られる。そしてミアストによって追放される。
いくら転落の坂へ向かっているとはいえ、SSランクの町は施設も住み心地もいいのだ。上層部、富裕層と呼ばれるランクの人間になるとその恩恵も大きいので、ミアストの機嫌を損ねることは誰も言わない。
そして、ミアストに会う機会もない下級層は、何も言わず自ら姿を消す道を選ぶ。戸籍はエアヴァクセンのままなのだから、もしかしてエアヴァクセンが持ち直した時はそのまま戻ることが出来る。安全な場所からエアヴァクセンの進路を見届けることが出来るのだ。
だから、誰もミアストに何も言わない。
スヴァーラ……スキルの便利さでミアスト直属として扱われ、あちこちの町にミアストの目として派遣されているスヴァーラは、誰よりもこのエアヴァクセンの危機を知っている。そして、何もできないことも……知っている。
スヴァーラは確かに高いランクの人間として扱われている。でもそれは、便利な道具としてだ。「鳥観図」という、目で見える「情報」をそのまま手に入れられるスキルは、貴重で便利。どの町も欲しがる。だからミアストは自分の傍から手放さない。こんなスキルを持っているエアヴァクセン、そしてその町長である自分、だから自分は偉い、尊い。そう思わせるためだと、スヴァーラは分かっている。
だから、出られない。
モルと一緒に行動しているのは、ミアストが命じたからだ。
もちろん、スヴァーラが他の町に逃げないように。
逃げ出す気もなくなるほど、常に傍に居るようにと命じられたモルは、風呂とトイレ、ミアストの傍に居る時以外は異様なほどついてくる。
任務で離れる時は、愛鳥オルニスがモルの所に残される。人質ならぬ鳥質だ。
その鳥質の元へ帰るために、スヴァーラはミアスト邸の中にあるモルの部屋に行く。
ドアを開けた瞬間から、ピィ、チチッと嬉しそうな鳴き声が聞こえた。
鳥かごの中に入ったインコ。絶対に逃げないからかごから出してあげてと訴えても、モルは一度も聞かなかった。旅に出る時も。
「オルニス、ごめんね?」
スキルに目覚める前から可愛がっていたインコは、何より自分の目となる。だから、オルニスが怖い思いをすると、スヴァーラにその恐怖が伝わってくる。そしてモルは怯えている相手をいたぶるのを好む。もう老齢で、いつ死んでもおかしくないのだから大事にしてあげたいのだと言っても聞かない。
ピィ、と鳴くその声が、やっぱり以前よりずっとか弱くなった。
何度逃がしてやろうと思ったか分からない。だけど、その後に来るモルの怒りはどうなるか分からない。自分だけに向かえばいいけれど、オルニスに向かったら、もういつお迎えが来てもおかしくない鳥は呆気なく死んでしまうだろう。
「ごめん……ごめんね……ワタシがこんなスキルじゃなかったら……普通のスキルで、この町から出られたら……そうすれば……」
声が
「ごめんね……弱い飼い主で……」
◇ ◇ ◇
グランディールに戻って。
一日目は仮眠室に押し込まれ、もう寝飽きたとごねてもベッドから下ろしてもらえなかった。
二日目にスピティから紹介された医者に診てもらって、精神力はほぼ元通り、体も順調に回復しつつあるけれど、もう少し大人しくしていたほうがいい、との診断を受け、またも仮眠室に逆戻り。
ぼく的には普通に動けるのに、医者がそういうなら動かしてはいけないと町民が仮眠室を見張っているので、下手にトイレに行くだけでも「それ以上出歩くなよ」の視線が突き刺さる。
正直スピティで一週間寝まくって(うち三日は寝たんじゃなく意識不明だったんだけど)ベッドの上はもう飽きたと言っても許してもらえず、やることと言えばエキャルをもふることくらい。アナイナやヴァリエが自分が傍に居ると言い張って大乱闘を起こしかけたらしいが、アナイナを両親が止めてヴァリエをグランディールの女性陣が止めて大騒ぎだったらしく、二人ともサージュによって出入り禁止。賑やかなほうがいいんだけど、枕元で喧嘩されるのはやはりお断りなので、エキャルがいないとぼくは暇死していたかもしれない。
で、五日目で、やっとベッドから降りる許可が取れた。
それでも無茶するなという町民の目があるので、出来るのはせいぜい散歩くらい。
昨日からエキャルは散歩に出かけたらしく、呼んでも来なかった。
……あれだけぼくのゴロゴロうだうだに付き合ってくれたんだから、好きに遊びに行けばいい。スピティにいた時も傍に居てくれたんだから、ぼくが治って安心して遊びに行ったんだろうと思う。ありがとうエキャル。
と。
「エキャルお前どこ行ってた?」
ソルダートの呑気な声が聞こえてきた。
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