第163話・原因と結果
スキル技術のコツというには乱暴だが、要は、必要なスキルを揃えればいいだけなのだ。
この場合は、恐らくは水を生み出すスキル、増幅させるスキル、操るスキル。最低この三つのスキルがあればできるだろう。あとはちょっとした「合わせ」。その感覚さえつかめば、エアヴァクセンレベルの広さの町でも水路天井が作れるはず。
だが、ミアストは、自分の手でそれをやるのが気にくわない。
下の町にやらせてこそ……いや下の町が喜んでやらせてくれと言わせてこそのSSランクだと思っている。
実は、ミアストには焦る理由がある。
最近、エアヴァクセンの中で広がっている噂。
エアヴァクセンがランクダウンしたのではないかという――。
エアヴァクセンには多くの鑑定師がいる。
しかし、最近ミアストは鑑定士を近付けていない。
成人式すら代理を送って欠席する。
あそこまで新しい鑑定士が生まれるのを待ち望んでいたミアストが鑑定士を近付けないとは、つまり、そういうことなのだろうと。
ランクダウンを告げられるのを恐れているのではないかと……。
そして、この町の中で
噂を気にして、ミアストが焦っているということを。
長くSSランクにいたエアヴァクセンを、自分の代で落とすわけにはいかない。そんなことをすれば、自分は最悪の町長だと歴史に刻み込まれてしまう。
それで、あの手この手でランクを上げようとしているのだ。
詐欺行為もスキル技術を欲しがるのもそのため。ランクが上がりそうだと思えばどんなことでもやってきた。傍から見れば、どう考えてもランクが下がるのではという行動を。
ミアストが町鑑定のスキル持ちに聞けば、ランクを上げる方法を教えられたかもしれない。スキル学を学ぶ人間が傍に居れば、今自分のやっていることがから回っていると知れたかも知れない。
だけど、エアヴァクセンには、それが間違っていると言える人間がいない。
ミアストに警告できる立場の人間がいないのだ。
唯一出来た人は既に故人。
名町長だった祖父、レイター・スタットは、孫に町長としてのイロハを教え込んだ。常に孫を連れ歩き、町長としての在り方を見せていた。
だからミアストは、名町長に向ける町民の視線を知っている。
キラキラと輝く期待の視線だ。
そして、それはかつて自分にも向けられていたものでもあった。
だが、いつの間にか……本当に、いつの間にか……キラキラした視線が、少なくなっていった。
自分は変わっていないのに、町民が自分を見る目がどんどん変わっていった。
そして、気付いたら、町中で、ミアストが姿を見せるたびに囁かれる、「今一つ」「期待したほどじゃない」「外れ」等々の声。
祖父には決して向けられなかった言葉たち。冷たい視線。
何としてでも町民から、あの時の祖父が受けていた視線を取り戻そうと……SSランクの町長に向けられるべき視線を向けさせるために、ミアストは頑張っていたのだ。
……頑張りの方向性が間違っていると、誰も言えないまま。
だからミアストはクレーを憎む。
ミアストが欲しくて仕方ないものを揃えているから。
空飛ぶ町。宙を行く水路。
グランディールは、エアヴァクセンに頭を下げて水路と空を飛ぶ方法を教えなければならない。それが常識だと言うのに、あの子供はそれを破っているのだ。
そして何より、町民からのキラキラした視線。
クレーはグランディールだけでなく、スピティの町民からもキラキラした視線を向けられている。
かつて、仮住民として自分の下にいたはずの子供が、町を追い出されてから半年もせず、あんな視線を向けられる町長になったということが憎らしく、悔しい。
……グランディール、空飛ぶ町。あれを併合できれば、グランディールは名前が変わってもSSランクとなり、エアヴァクセンもランクを保てる。そうできるだけの価値はグランディールにはある。
あれを自分のものにしなければ。
そうすれば、全ては丸く収まるのに!
どうやってあの子供からあの町を譲らせるか。
あの子供が町長の座に相応しくないと自分で思えば、相応しい自分にグランディールは譲られるはず。
どうすれば……。
頭を抱えるミアストに、モルも、スヴァーラも、何も言えない。
モルはそもそもミアストの気に入らない人間を排除することで腰巾着になった男。ミアストが黒と言えば白でも黒。ミアストが間違っているだなんて思いもしない。そういう人間をモルが影で排除してきたからこそ、今の悲惨なエアヴァクセンの現状があると言うのに、張本人は気付いていないどころか自分は町長の為に正しいことをしてきたのだと信じている。
モルが熱狂的なミアスト人間であるから、スヴァーラは迂闊なことは言えない。もしミアストに間違っていると言ったところをモルに見られれば……ひたすら殴られて、ぼろきれのようにされて町を放り出されるだろう。
ミアストは、間違った人間を自分のすぐ近くに置いた……。
それが、エアヴァクセンにいる人間のほとんど……ミアストとモル以外の誰もが知っている、町の
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