第161話・正反対な二人の町長
それから町民総がかりのお説教が始まった。
自分たちを心配させるな。他の町に力を貸すのもいいけど自分自身のことを考えろ。何でグランディールの町長がスピティのことに首突っ込んでぶっ倒れるんだ、等々。
そしてぼくは……反論できません。はい分かってます。ぼくがいらんことしいだったために勝手に倒れて一週間動けなかったんですよね! はいぼくですぼくが悪いです! ぜーんぶぼくが悪いです!
と開き直ることも出来ず、許されるまで正座でお説教聞きました。ぼくもうアナイナのこと言えないよ、ぼくが絶対的に悪いんだから!
年長組は何となくやれやれ的な雰囲気でこっちを見てる。
たっぷり一刻はお説教されて、そして足はしっかり
痺れて動けないところをわっしょいわっしょい運ばれて、半分ぼくの家化している会議堂の仮眠室に放り込まれて、やっと解散。
ぼくは痺れたまま取り残されました。
「町民の総意は分かったか?」
「……はい……」
サージュの言葉に、はい、以外に答えられるわけないだろ。
「みんなこの一週間、お前を心配してたんだ。まだ言いたいことがあるだろうにここまでで解放してくれたんだからな」
「…………はい…………」
しゅーん。
「反省してます……」
「なら大人しくしてろ。しばらく町長の仕事はないから」
「え?」
「町民が手分けしてやることになってるから」
サージュはドアを閉めて出て行った。
いっそ仕事があったほうが良かったんだけどなあ。
ベッドにゴロンして溜息一つ。
仕事で忙しくしていれば、余計なこと考えることなく頑張れたのになあ。
部屋で大人しくしてると、自分の馬鹿さ加減を思い知らされて頭を抱えたくなってくる。
スピティのフューラー町長が言った「与えてくれ」は、方法であって、何も丸々任せるって意味じゃなかったんだ。
それを勝手に暴走して作ったのはぼく。
そしてぶっ倒れて寝込んで一週間も滞在する羽目になったぼく。
それでグランディールにもスピティにも心配かけて。
「エキャル~?」
空中に声をかけると、少しして窓をつつく音。
窓を開ければ入ってくる緋色の鳥。
「エキャル~」
エキャルラットは嬉しそうにぼくの周りを飛び回る。
「エキャル~、みんなに怒られちゃったよ~」
緋色の体を抱きしめて頬ずりすれば、ふかふかの肌触り。
鳴かない鳥は首を折り曲げてぼくの頭に寄り添う。
「分かってる、分かってるんだ。怒られて仕方のないことをしたのは。でも……」
エキャルを抱きしめたまま、ぼくは呟いた。
「あそこで放っておくって選択肢は、ぼくにはなかったんだ」
◇ ◇ ◇
イライラと、男は指先でテーブルを叩いていた。
新しいテーブルなのに、新しい椅子なのに。
表面の滑らかさも、座り心地も、これまでとはあまりに違い過ぎて……苛立つ。
苛立ち紛れにまとめて叩き壊した前のテーブルと椅子のことをチラリと思い浮かべるが、いいや、と首を振る。
散々世話をしてやった自分を裏切ろうとしている、忌々しい連中の作ったものなど、使いたくない――。
それに、自分が本来持つべきものを手に入れれば、もっといいものが手に入る。そういうことになっているのだ。
ノックの音が三回して、ドアが開けられた。
「遅くなって申し訳ありま――」
「遅い!」
言い訳も聞かず、ミアスト・スタット……エアヴァクセン町長は、冷め切った茶を入れたままの、陶器のカップを、報告にやってきたモルに投げつけた。あとから飛び込んできたスヴァーラ・アンドリーニアが小さく悲鳴を上げてと飛び退く。
「私への報告をここまで遅らせるとは、貴様、何様のつもりだ!」
「申し訳ございません!」
頭から茶を被ったモルは、その体勢で
「で、スピティはどうなった! まさか、エアヴァクセンを放置して、グランディールとの仲を深めたわけではあるまいな!」
ミアストは、最初にグランディールに招かれるというスピティに配下を送っていた。スピティとグランディールが仲を深めたならば問題だと判断したのだ。場合によっては民衆を操って
そのリーダーであるモルは、しばらく頭の中で言葉を探していたようだったが、絶望的な表情になって、口を開いた。
「グランディールは……グランディールは、グランディールが開発したらしい空を飛ぶ水路のノウハウをスピティに教え……」
「空飛ぶ水路?!」
モルの報告を止めて、ミアストは説明を求めた。
スピティが水を求めているというのは有名な話だ。家具で得た金を水にしなければならないほどに、乾季は水不足になる。しばらく前まで、スピティの依頼でエアヴァクセンでは用無しの水関連のスキルの持ち主を送ってやっていたこともある。その度にスピティ町長は泣いて喜んだものだ。そこまで恩に着ておいて、今更グランディールに寝返った……?
いや、ちょっと待て。
「空飛ぶ水路とは、どういうものだ。そもそも水がないのにどうやって……いや、スピティが水のスキルを搔き集めていたのは知っている。だが」
「ご覧になれば分かります」
チラリとモルはスヴァーラに視線を走らせた。
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