第160話・いらんことしいだったぼく

 水路天井の中心である水汲み場の横にかけられた布の下から現れたのは、グランディールの紋章であるグリフォンと、スピティの紋章である有翼狼マルコキアスの彫像。


 両方とも翼を持った獣だけど、銀のグリフォンが黒いマルコキアスを捕えている鎖を断ち切っている。


「これは……」


 大丈夫なのか、これ。


 ランクから言えばグリフォンとマルコキアス、位置が逆が当たり前だろ。どう見てもグリフォンの方が立場が上。


 しかしフューラー町長は満足そう。


「素晴らしい」


 いや大丈夫なのか? 町民から文句来ない? 明らかにグリフォンの方が偉く見えるぞ?


 ぼくの心配をよそに、フューラー町長はうっとりと呟く。


「乾季という鎖を断ち切ってくれたグランディール。スピティ町民は鎖の重さと断ち切ってくれたことへの感謝を忘れてはいけない」


 いやフューラー町長、それじゃぼくが造ったって丸わかりだから。バレたくないんですけど!


「水路天井のこと。色々教えてくださって感謝する、クレー町長」


 いや本当は教えてないし!


「この事態を何とかしようと水を作ったり操ったりするスキルを持ちを集めていたのだが、どう動かせば町に平等に行き渡るか分からなかった。グランディールの水路天井を見て、これだと思った。水の操り方、水路の固定の仕方で、水汲み場と湯処、水の必要なところに平等に行き渡るようになり、水の天井で熱波から町を守ることが出来るようになった」


 うんうんと頷いているスピティの町民たち。


 ……町民たち?


 スピティの皆さん、明らかに自分の方が下だと思われてますよ? いいんですか?


 ああでも、フューラー町長は町長なりに乾季対策を行ってたわけだ。


 乾季の今でも、展示即売会を開いて問題がないだけの水を確保できたのは、スピティがかき集めていた水関係のスキルの持ち主たちのおかげ。水を何かから生み出せる力、操る力、色々なスキルの持ち主を集めて、水不足対策はしていたんだ。


 でも、水を一か所に湧かせても問題が起きる。とはいえこの規模の町の全水汲み場に一斉に湧かせるなんて無理だ。平等にするためにはどうしたら、と悩んでいたんだろう。


 そこで、あの水路天井を見たんだ。


 町スキルではなく町民のスキル合わせの結果だと聞いて(ぼくのスキル「まちづくり」は町のスキルなんじゃないかってことはさておくとして)、考えて成功させたグランディールに出来ないかと聞いてきたんだ。グランディールの秘儀かも知れないけど、何とかヒントだけでも、と。


 ……馬鹿真面目にぼくが造る必要なかったんだね! シエルに水路の構図とかを教えてもらえばスピティで出来たんだね! いらんことしいでぶっ倒れましたよ、はいはい!


 笑顔の裏でぶつくさ文句言ってるのは、アパルやサージュ辺りは気付いてるんだろうなあ。


 一度シエルが思い描きヴァダーが固定した水路は、例えばスキルの効果がいつか切れたとしても町にいる水関係のスキルの持ち主が修復できる。


 空に流すだけで気温も下がり、喉まで干上がらせる渇きを避け、そして平等に水が行き渡る。


 グランディールの水路は、すべてを解決できるものだった。


 でもやっぱりぼくが讃えられるのは変だよなあ。アイディア出して実現させたのはシエルだし……。


 でも町長の仮面は穏やかな笑みを崩さない。


「グランディールの技術がお役に立ったようで良かった。スピティのますますの繁栄を精霊神にお祈りいたします」


「グランディールにも」


 力強く握手を交わす。それを見て拍手が沸き起こった。グランディールに助けられたから、とスピティが下になっている構図なのに、スピティの町民はみんな幸せそうに拍手している。


 水ってのは、生きて行くのに絶対必要なものだもんな。


 乾季という鎖から解き放たれたSランクの人々は、満足そうに笑っていた。



     ◇     ◇     ◇



 何度も何度も握手して、スピティの人にも手を振り返して、光の輪……グランディールへの上昇門の前に立つ。


「何時でも望んだ時にスピティに来てください。スピティはいつでもグランディールを受け入れます」


「グランディールにも。またお誘いいたします」


最後の握手を交わし、手を振りながら光の中に消える。


 グランディールに戻って、約束している次の町に向けてグランディールは移動を始める。


 そして。


「お兄ちゃんっ」


「我が町長っ」


町長クレー!」


 まず二つ体当たりに近い飛びつきをかまし、その後頭に拳骨のグリグリが来た。


「痛い痛い」


「スピティに余計なことして倒れたって、みんな心配してたんだから!」


「町長、何故に他所の町の為に無茶を! 町長は取り換えの利かないただ一人の御方なのですよ!」


 サージュが言った通り、タックルしてきたアナイナとヴァリエ。良かった、筋肉痛治ってて……。治ってなかったらその場で気絶だ。


 ヴァダーが拳骨で頭をグリグリし、エキャルラットは一緒に頭をグリグリしてくる。


「お兄ちゃんの馬鹿! お兄ちゃんの馬鹿! お兄ちゃんの馬鹿!」


「アナイナ、ヴァリエ!」


 アナイナとヴァリエが、シートスやファーレに引きはがされた。


「やっと体調取り戻した人間に体当たりしない!」


「しかもこんな所で!」


 こんなところ、というのは、当然門の外……流れて行く地上が見える場所。


「町長ごと落ちても助けられないんだからね!」


「グランディールの町民を路頭ろとうに迷わせる気?!」


 そこでヤバイ場所で大騒ぎしてたのにようやく気付いた二人が慌てて門の中にぼくを引っ張り込む。

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