第156話・スキル使い過ぎの悪影響

 どうもサージュの話をまとめたところ、ぼくはスキルで水路天井を完成させたと同時に呼吸困難、痙攣、引きつけに白目までむいてぶっ倒れたらしい。


 その状態が尋常じゃないってんで、フューラー町長が慌てて町の医者を呼んだけど、医者曰く「スキルの無茶な使い方に精神力が摩耗、肉体が反発」してしまったらしくて、動かさないようにして、失った精神力が回復するのをひたすら待つしかないと言われたと。


 シエルは半日、ヴァダーは一日で復活したけど、ぼくはなかなか目を覚まさなくて、無茶を頼んだという自覚のあるフューラー町長や両商会長がスキル学の専門家や名医と呼ばれる医者を呼んで、スキルの力を復活させるように部屋にいい香りのするこうをたいたり、精神力を補助するという聖水を持ってきたり、色々やってくれたらしい。


 アパルとサージュも、独学とはいえスキル学を学んでいる。そしてグランディールがぼくのスキルで出来ていることを知っている二人は、今、精神力の枯渇したぼくをグランディールへ戻せば、町がどんな影響を与えるのか分からないという結論を出した。ぼくの体が精神力を求めて町を構成するスキルから抜き取るかも知れないし、逆に町がぼくから精神力を吸い取ろうとするかもしれない。


 どっちにしても、下手をすればグランディール存亡の危機。


 だからサージュが付きっ切りで傍に居て、グランディールはアパルが町長代理として動かしてちょっとスピティから遠ざけた。


「……ゴメン。迷惑かけた」


「全くだ」


 サージュがぶつぶつとこぼす。


「アナイナが半狂乱になってヴァリエと一緒にスピティに喧嘩売るところだったんだ」


 それは……予想外の多大なる迷惑だった。


 開いた窓から水路を見ながら、本当に申し訳なく思う。


 多分女性陣が必死で抑えてくれたんだろうなあ……。うちの女性陣強いのばっかだしなあ……。それでも迷惑かけたなあ……。何かお礼をしないと。


「ご両親もそれは心配していたぞ」


 町外れで穏やかな暮らしを……と思ってたのに、大心配かけたか……。


「……ごめんなさい」


 小声で謝る。


「それは戻ってから全町民に言うんだな。皆、お前がスピティに借りがあって繋がりを大事にしていると知っていたからこそグランディールから出てこなかったんだ。せっかく築いた友好関係を、町長の意思に反して崩せない、とな」


 ……そうか。グランディールはスピティに文句を言える立場だった。


 フューラー町長が個人的にスキル使用の依頼をしたんだから、グランディールは町として断ることも出来た。のに、ぼくが応じた。乾いた町に水を、と思って、スキルを使ってひっくり返った。これはぼくじゃなく、グランディールでもなく、スピティに原因がある。


 でもスピティに何も言わず、黙って待っててくれたのか。


 その時、空いたままの窓から大きいものが入って来た。


「?!」


「そうだ、そいつも心配してた」


 緋色の陰がぼくの顔に被さる。


「何度もグランディールを抜け出して様子を見に来てたんだぞ」


「ごめんなあ、エキャル」


 グリグリと頭を押し付けてくる、その伝令鳥のふわふわな羽根を撫でて謝る。


「心配させたな。もうぼくは大丈夫だから」


 更にグリグリが強くなる。


「とりあえずエキャルに連絡持たせろ。お前の直筆で」


「うん」


 サージュがサイドテーブルを引き寄せ、ペンとインク、紙を用意する。ぼくはペンに手を伸ばし……。


 落とした。


「あ、れ?」


 ペンが握れない。


 震えて字が書けない。なんで?


「三日も寝たから筋肉が衰えてるんだ」


 はあ、と溜息をつくサージュ。


「でも、お前が目を覚ましたって言う連絡は、お前以外からは受け取らないって言われてるから、気合と努力で書け」


「誰、そんな条件出したの」


「グランディール町民の過半数」


 ……何も言えない。


 代わりに書く、とは言ってくれないので、何とかペンを握ろうとするけど手から落ちる。上手く動かない体に頭にきて、まだ少し動く左手で右手にペンを押し付け、頭を冷やしていたらしい布を口にくわえる。


 そこまでやって、ぼくがやりたいことに気付いたのか、サージュが黙って口から布を取ると、右手をペンを握る形にして、それを固定するように巻き付けた。


「ありがとう」


 礼を言って、プルプル震える手で、何とか字を書く。


  クレーです。元気です。心配しないでください。


 これだけ書いて、読み返して、これは逆に心配かけるな、と思う。それほどよろよろで危なっかしくて歪んでいる字。


 しかしサージュはパッとそれを取り上げた。


「あー、待って待って、書き直す」


「何度書き直しても同じだ。握力を取り戻せ」


 インクが渇いているのを確認して、エキャルの首の封筒に入れる。


「あー待って待って待って」


「待たない。行けエキャル、行って心配している皆を更に心配させろ」


 エキャルは最後にぼくを頭でぐりっとすると、バサバサバサッと飛び去って行った。

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