第154話・スピティに水を
流れによっては会議堂に泊ってもらう予定だったけど、予定変更。シエルとヴァダーを呼び出して、スピティに戻る。
「やってみるのか?」
「いいチャンスだろ」
「そうなんだけど」
突然呼び出されたヴァダーは、ぼくの話に微かに不安そうに言う。
「
「聞いて失敗したら町民落ち込むだろ」
「そうだけどよ」
フューラー町長たちに聞こえないよう小声で言う。
「いい機会と言えばいい機会なんだけど」
アパルも渋い顔。
「成功して噂が広がったら、絶対にうちもやってくれってのが来るよ?」
「でもスピティには借りがある。真っ先に家具を受け入れてくれたんだから」
「そりゃあそうだが」
「それに、こんな機会そうそうないよ。やってくれって言うならやってみる。失敗しても何も痛くない」
「スピティ町民は痛いぞ」
サージュが釘を刺してくる。
「うん。だから全力は尽くす。全力でもできなかったら諦めてもらうしかない」
実は少し前から、実験しようと思ってたんだよね。
グランディールで為せる町スキルとでも呼ぶ特徴を、他の町で再現出来るか。
広がる町、生える家、出来る家具、増える湯処、水路天井、浮遊移動能力。恐らくこれ以外にもまだまだ何かがある。
それらは「まちづくり」のスキルで造った町しかダメなのか、それとも「町」であるなら出来るのか。
グランディールが何でも出来過ぎると、恐怖を覚える人、敵意を抱く人、色々いるだろう。だけど、その能力のいくつかが自分の住む町にもあれば、恐怖や敵意は減るだろうと思い、やってみようという話になっていた。
とりあえず、無意識で「こうだったらいいな」と思ってたら本当にできた「家」「土地」とかより、「作る」と決めてデザインして完成した「水路天井」が一番再現が可能だろうと、何処かの町に頼んで水路天井を試してみようという話をしていた。
まさかこんなに早く試す機会が訪れるとは思わなかったけど。
とりあえず必要なのは、スキル「水操」で水を操って、無限に巡る水の最初の一押しをするヴァダー。そして水が何処から何処に向かって流れ、何処で降らせ、何処で湿らせるか、イメージするシエル。
そして「まちづくり」のぼく。
まずは、フューラー町長に頼んで町の地図をもらった。
「ん~~」
シエルが目を細めて地図を眺める。
「ここで流して、ここから行って、……ん~複雑だなあ」
シエルは地図と睨めっこ。
「とりあえずあちこちの水汲み場に入れば、各家に届ける必要はないよ」
「それなら助かる」
グランディールは家が百軒にも満たないうちに出来た水路で、町もスピティほど広くなく、新しく家が出来れば勝手に水流が入るようになっているけど、スピティは既に完成してしまっている。複雑な路地、密集する家。シエルの想像力が鍵となるけれど、各家に水を届けるほど細かい想像を、初めて来る広い町でイメージしろっていう方が難しいだろう。
「願わくば、湯処に、水が入るように」
それまで何の注文も出していなかったフューラー町長が、初めて口を挟んだ。
「ああ、いつでも入れる風呂はいいもんなあ。じゃあとりあえず、町を歩いて確認してみる」
シエルは立ち上がってヴァダーと一緒に歩きだす。
「?」
「町の様子を見て、どんな風に水が廻るかを想像するのです」
ぼくの説明に、デレカート商会長が自分の護衛を道案内兼護衛としてつけてくれた。
「もう一度言っておきますけど、上手く行くとは限りませんからね」
うん、うんと頷くフューラー町長。
「夢を見させていただけるだけでもありがたい」
もし成功すれば。万年水不足のスピティには最大の恵みとなるだろう。
うん、町の人に言わなくてよかった。期待されて失敗したらがっくりが大きいからね。分かってるからシエルもヴァダーも護衛の皆さんも何も言わない。
一刻くらいして、シエルとヴァダーが戻ってきた。
「広いなスピティ」
「一周するだけで疲れた」
「Sランクの町だから、Cランクになりたてのグランディールと比べてはいけない」
ランクが高ければ高い程人は増える。そして町から溢れて行く。
スピティも町を囲む塀の外に家が増えて、また塀を作り、そこから溢れ……この家に全部水を届けるのは、シエルのイメージ的にも、ぼくとヴァダーのスキル的にも無理だ。だけど、空を通って水汲み場、湯処に限れば……。
スピティの望みは枯れない水。
Sランクの富裕層と言われる町で、ただ一つ足りないものが、水なんだ。
だからこそフューラー町長はあれだけ水路天井に反応した。あの天井が欲しいと言った。
グランディールでは何処に行っても困ることのない資源だけど、スピティは、家具で稼いだ金で買わなければいけない重要な資源だから。
もう一度念押ししておく。
成功するか分からない。成功したとしてもどれだけもつか分からない。グランディールとしては一切責任を取れないと。
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