第151話・即売展示会の後
それからしばらく、グランディールは盛り上がっていた。
即売会組……陶器職人たちには、売り上げに応じて報酬を。グランディールはお金も持っていなくても生きていけるけど、やっぱり自分の頑張りがお金という形を取ると、それがどれだけの成果になったかが明らかになり、次もっと頑張ろうという熱意にもなる。
展示会組は、アイゲンがグランディールで自分の元配下やポトリーなんかも入れた陶器商会を作って、ぼくがいちいち指図しなくても陶器売買を専門に進め、宣伝鳥を増やし(ティーアが大喜びした)、取り引きを始めた。この商会を通して、外の町の品物が入ってくるようになった。
そして、外の話も入ってくるようになった。
あの後のミアストのこととか。
ミアストは、ぼくに逃げられて真っ赤になっている所で、スピティの町民から石を投げられたという。
しかも、一人、二人じゃなく、町民総参加みたいな感じで。
そりゃ、スピティの人からすれば大事な品物を横取りした詐欺師だもんな。許すことは出来ないだろ。
しかもスピティはSランクだ。
Sランクってことは、他の町の犯罪者を裁ける資格がある。
相手がSSであってもそれは変わらない。
と言うわけでフューラー町長は「町民の総意だ」と無視。
他の町長も知らん顔。
中には積極的に石を集めてくる町長もいたらしく、味方が連れてきたのしかいないミアストは
このことを正式に傷害として文句をつけようとしたが、いい加減ミアストのやり口に慣れてきたスピティは、詐欺師を法で裁いた、文句があるなら詐欺師じゃない証拠を見せろとエアヴァクセンに通達。他の町も援護射撃。
……ここまで周りを敵に回したら、さしものミアストも今はまずいと訴えを取り下げ、しばらく動きはないという。
次に動き出すのは町長連を町に招待した頃かな?
そして、スピティに来て飛び去った空飛ぶ町グランディールは、やはり相当な驚きを持って語られたらしい。
そこにおらが町の町長が招かれるとあちこちの町で自慢が始まったらしい。
それが気にくわないミアストは所有権を主張、伝令鳥を飛ばして、かつての町民だったぼくが育った町を見捨てるのはおかしいと言って来た。
空飛ぶ町というキャッチフレーズは心躍るものがある。SSSランクに相応しい呼称でもある。しかも何の苦労もせず大地の果てから果てまでを移動できるという、反則級の町。だからミアストはそれを寄越せ、育ててやっただろうと言って来たのだ。
何処かけばけばしい伝令鳥がエキャルラットと威嚇し合っている横で、ぼくはアパルとサージュと一緒に文面を
手紙の内容はというと。
まず私はエアヴァクセンの民だったことは一度もなく(だって仮住人だったんだもん)、スキルが認められたわけでもなく(
寝言は寝て言え、馬鹿町長。
怒るかな~。おっこるだろうな~。
伝令鳥に何かスキルを仕込んであるか、ヴァローレに確認してもらった。もし伝令鳥に何か仕込めばすぐバレるし鳥の町フォーゲルが黙っていないだろうけど、念のため。
結果はシロ。
さすがに鳥を扱うフォーゲルを敵に回したくはなかったんだろう。伝令鳥とか宣伝鳥を失うと情報を発信することが出来なくなるからね。
◇ ◇ ◇
そして、何回か伝令鳥が行き来して、まずスピティの関係者を招くこととなった。つまり、フューラー町長とトラトーレ・デレカート両氏、そのお供。
町が迎えに行くのか、「移動」スキルで町まで来てもらうかのどちらがいいと聞いたら、「町が迎えに来てくれるといい」と即答だった。
楽だしね。
「移動」で何処か知らないところに飛ばされ放置される危険も考えたんだろうけど、それ以上に「迎えに来てくれる」という特別感が強かったのではなかろうかとはアパル。
約束通りの時間、日当たりの邪魔にならないようにスピティの外れにぴたりと止まっていると、物見高い人々が大勢集まってきた。
その人込みを割って、フューラー町長、トラトーレ氏、デレカート氏、そしてその護衛が一人ずつの計六人。約束した通りだ。
ぼくは髪と瞳の色を再び赤と翡翠に変え、同じく黒く変えたサージュと共に、門のすぐ外、光の輪を踏む。
それと同時に地上、六人の前にも光の輪が浮かび、ぼくたち二人が上の輪を踏むと自動的に下の輪の中に移動させられる。
「お久しぶりです。フューラー町長!」
突然現れたぼくたち二人にどよめきが満ちる中、ぼくは笑顔で手を差し出した。
「あ、ああ。本当に迎えに来てくださったのか」
「約束しましたからね」
軽くハグをして、二人の商会長とも挨拶を。
「いや、護衛が揉めましてな」
トラトーレ商会長がちょっと困った顔で笑う。
「仕方ありませんよ。言われる覚悟は出来ていました。空を飛ぶ、つまり逃げ場がない場所で、重要人物を守るのは……」
「いや、いや」
デレカートが笑顔で手を振る。
「我々の護衛にかこつけて、ペテスタイと同じ空飛ぶ町に行きたいという輩が大勢現われましてな。中には十の子供もいました」
ぼくは当然町長の仮面をつけたまま、穏やかに笑みを浮かべた。
「いずれは……と思っているのですが、まだしばらくは人の出入りを制限しないと、町民も我々も安心して暮らすわけにはいきませんのでね」
「あの男ですな」
「ええ。あの男です」
ぼくは六人を招く。主賓三人よりむしろ護衛三人の方が興奮しているように見える。気のせいじゃないな。
恐る恐る光の輪を踏めば、次の瞬間にはグランディール内だ。
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