第148話・帰りの手段は
「く……ぬぬぬ」
フクロウの目を借りた映像を見て、ミアストは歯を
「クレー・マークンめ……調子に乗りおって……」
映像で、パーティーの最初の方はクレーは大人しく壁際でワインを飲んでいた。まるで
パーティーが中盤に差し掛かり、吟遊詩人や芸人が呼ばれ、歌や踊りが始まって、そこでクレーはようやっと動き出した。
黒髪の男二人を引き連れ、集まりの中に入っていくと、自然にそれは人の輪になる。皆がクレーを讃え、褒め、敬う。クレーの笑みに、町長たちが肩を叩き、スピティの有志やお供が話したがり、グランディールの民たちが得意げにクレーを紹介する。
この展示会・即売会終了パーティーの主賓なのだから当然だが、ミアストにそんな説明は無意味だ。
ミアストは、常に自分が一番でないと気が済まない男なのだから。
「くぅっ。あのガキめ、ガキめ! 今に見ておれ!」
フクロウの使役時間が終わったのか、ふっと画像の消えた壁に卵を投げつけて、ミアストは肩で息をした。
誰も見たことがない不思議の町、グランディール。
クレー・マークンの治める町を、自分は見る権利がある。
何故なら、クレー・マークンは半年ほど前までは確かにエアヴァクセンの仮住人だったのだから。
スキルを町に役立てるのは、強力なスキルに目覚めた者の義務だ。
成人式の日、初めて見たスキル、「まちづくり」。
どんな効果かは分からないが、そのスキルで町を作ったのであればエアヴァクセンに捧げるのはあのガキの義務なのだ!
そこへ、モルが肩で息をしながら戻ってきた。
「御前に」
「首尾は」
「問題ないです。近くの村や集合体に、早朝から昼過ぎまで、大勢、大荷物を持ってスピティを出て行く集団がいたら、すぐに知らせ、そして後を追う約束を」
「うむ、よし」
ミアストは大きく頷く。
ガキめ、権力とはこう使うんだ。
ミアストは思う。
あの町長気取りのガキめ、権力の力も知らぬガキめ。金の力を全く知らぬクソガキめ。
権力と金はこう使うものだ。
確かにいくつかの作戦が、愚かな味方と更に愚かな敵のおかげで不首尾に終わったせいで、エアヴァクセンの評判は落ちている。
だが、SSランクには違いない。
いくら陶器で稼いでも所詮はCランク、SSランクの経済力には
金で口を噤ませること、口を開かせること。
それが、エアヴァクセンに出来てグランディールに出来ないことだ。
展示会や即売会のスタッフは間違いなく皆グランディールの町民。後を追い、あわよくば女性や非力そうな町民を数人ほどエアヴァクセンに招いて、それをもとにクレー・マークンをエアヴァクセンに招待し、しっかりと自分の身の程を思い知らせてやらなければならない。
明日、あの忌まわしい金茶にも見える赤毛と翡翠の瞳を持つ、感情のあまり出ない幼い顔立ちがどんな風に変わるのかを見られるのか、と思い、ミアストは心の中で笑いながら新品のシーツに替えられたベッドに潜り込んだ。
◇ ◇ ◇
翌朝。
パーティーで大酒をかっくらい二日酔いになっているのが数名、食べ過ぎて口を押えているのが数名いたけど、グランディールの住民たちはテントを片付け、行きよりはるかに軽い荷物をまとめた。
「クレー町長」
その声に振り向くと、トラトーレ商会長とデレカート商会長。
「昨夜は申し訳ありません、せっかく来ていただいたのに話す機会もなく」
「いやいや、人気者をそれ以前の知り合いだからと人から奪うような真似をしたくはなかったので」
二人の視線はぼくの髪と眼。
「染めたにしては鮮やかですが」
「町民のスキルです」
小声のデレカートに、ぼくも小声で返す。
「フューラー町長の言っていた、エアヴァクセンの町長対策ですかな?」
「ええ、まあ。しかしこうも目立つと、町の外に出るたびに色を変えなければならない」
話している間にも、昨夜のパーティーの参加者が集まってくる。
「何、お似合いですとも」
二人の商会長……ぼくが町長の仮面をつけ始めた頃からのお得意様は、頷いた。
「しかし、どうやってお帰りになる気か。我々もグランディールの場所を知りませんが、行列に紛れてついていく輩もいるかと」
「ああ、それは大丈夫です」
ぼくはとっておきのよそ行き用の笑顔をした。
「紛れては来れませんから」
その時、フューラー町長がやってきた。少し顔が強張っている。
「フューラー町長?」
「来ましたぞ」
それはフューラー町長のことではない。
……やっぱり様子を見に来たか。
「やあやあクレー町長!」
五人ほどの手下を従えたミアストは、二日前の激怒が嘘のような笑顔でやってきた。
「出立なさると聞いて見送りに来た」
大広場を取り巻くスピティ町民の激怒の視線に気付いているのかいないのか、ミアストは愛想よくぼくに話しかける。
「おや、それはそれは。わざわざ敵地までそれだけを言いに来られたか」
敵地……もちろんスピティだ……に土足で踏み込む無神経さには脱帽するけどね。
「スピティ近辺には盗賊団もいると聞いた。何なら我が町の精鋭に途中まで同行させようか」
まあ、いたけどね。盗賊団。その一人だったポトリーが下品な手つきでミアストを指している。
「いえ、迎えが来ますから」
「迎え?」
「もう、直ですよ。ほら!」
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