第146話・悩み事
二日目も無事平穏に終わり、一日目より楽にぼくたちは宿に帰った。
というか、ミアストがいないとみんな平和なんだよ。当の本人が気付いてないだけで。
明日顔を出す可能性は大きい。
昨日、予定時間以外では話さないと言い切ったから。
あるいは、明日の展示会即売会終了後の、トラトーレとデレカートとか、他の町の陶器職人とか、町長や町長以下で面会できなかった人を集めたパーティー。
ミアストはぼくがエアヴァクセンのクレー・マークンと言う証拠を握り、それを使ってグランディールを手に入れようとしているんだろう。
これがぼく一人の考えだったら被害妄想かもと思うんだけど、アパルやサージュも同じ考え。
同じ町の人間三人が考えていてもまだ町の被害妄想だけど、スピティのフューラー町長他も「明日は参りますかな」「パーティーに来ないと良いが」「帰り道に来襲するやも」とミアスト襲来の警戒とぼくへの心配の声をかけてくれているから、最早被害妄想ではなく確定事項である。
フューラー町長が、門番に、エアヴァクセンの関係者が来た時はすぐに連絡せよと命じたらしい。
スピティの町民までもが、エアヴァクセンの人間を入れるものかとピリピリしている。
気分的にはスピティを巻き込んで申し訳ないんだけど、スピティの人間に言わせると「俺たちを舐めてかかっているあの野郎に町を歩かせてたまるか」となるんだそうで、グランディールの為じゃない、スピティの名誉のためだと意気込んでいる。
となると、スピティでは乗り込んでは来ないだろう。エアヴァクセンとしてはこれ以上スピティの機嫌を損ないたくないはずだから。
となると、ぼくが帰る時……?
そうなるとまずいな。
グランディールは今、
スピティに来た人数が多すぎて、アレの移動スキルでも捌き切れない。ので、グランディールを近く……元スピティ盗賊団が使っていた本拠地の上空に置いて、如何にも「そこを通過してきました」と言う顔で入って来た。
行きはどこから来るかの選択肢が多すぎてグランディールを探そうとする人間はいないだろうけど、帰りは別だ。どのルートを通っても最終的にたどり着くのは一か所。
しかもグランディールの正体を知りたいのはミアストだけじゃない。
会談中に言葉巧みにグランディールの正体を聞き出そうとした町長もいるし、フューラー町長も懸賞金をかけてグランディールを探そうとしていた前科がある。
もう少し、時間がいる。
グランディールが空を飛べたとしてもそれで他の町に悪いことが起きないという信頼を得てからでないと。
町長を集め、グランディールと言う町がある、そこは信頼がおける、安心して色々任せられる、と思ってもらう。その為の今回のイベントだった。
ミアストのおかげでめっちゃいい方向に行ったけど。
しかし、その終わりに来襲されると困る。
非常に、困る。
まだ空を飛んでいることは隠したい。
移動に苦労しないだけじゃない。
世界中の何処の町も併合できる、町の上空に留まって陽が当たらないようにすれば野菜も穀物も育たない、下手をすれば町の上空から石なんかを落として潰すことも出来る。
そういうことが出来る町、なんだってさ。
アナイナなんか「空を飛べる特別な町でいいでしょ」というけれど、町長連が空飛ぶ町を警戒しないわけがない。例に挙げたようなことが出来るんだから。
そこの町長がミアストみたいな人間だったらすっごく警戒される。
潰される前に潰そうと考える町長がいてもおかしくない。
ミアストだったら絶対自分のものにして、具体例を実行に移そうとするだろう。
帰り……どうしよう。
グランディールに入るところを見られたらアウト。グランディールを見られたらアウト。
とりあえずグランディールに入るところと町の姿が見えなければ何とでもなる。
明日の帰りまでに何か考えないと……。
◇ ◇ ◇
思いつかないまま、三日目の朝が来る。
「……何か思いついた?」
「思いつくなら苦労はしない」
憮然とした表情のサージュ。
「夢の中までミアストが出てきて邪魔をする」
うんざりとした表情のアパル。
アパルは町長にスキル使用を強制されて逃げ出した過去がある。町を離れてまたミアストに悩まされるとは思わなかっただろうなあ。
「とりあえず午前はぼく一人でも何とかなりそうだから、二人で考えておいてくれない?」
「考えておくけど」
「今回ばかりは自信がない」
とにかく、町の半分近い四十五人を気付かれずにグランディールへ移動させる方法を考えなければ、詰む。ここまで積み重ねてきたことがアウトになるかも知れない。
何か思いつかないかなあ&思い付いてくれないかなあ。
もうこの三日間、ぼくもアパルもサージュも頭使い過ぎてるよ。
ミアストがいなきゃここまで心配する必要はなかったのに~!
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