第145話・あの男は
ふぅ。
面会も順調。
昨日のミアストとのやり合いで上がった好感度は、今朝の一件で更に上がったらしく、休憩でちょっと外に出ると、昨日の午前中に話した数人の町長が「いやあ、失礼を申し上げました」「あそこまでやるとは!」と背中を叩いてくる。町長連中もにこやか。
多分、ミアストがいないから。
ミアストが出てくればそれだけで緊迫感がある。昨日のミアストを見る町長連の目線は、よくミアストここにいられるなと思うほど冷ややかで敵意に溢れていた。
それがミアストがいなくて、ぼくの今朝の一件があったというだけで、何か知らんけどみんな
ぼくも町長の仮面付きとはいえ、自然に優しい笑顔が出てきている。取り引きとか計算とかそういうのがない。
いや、取り引きはあるけれど、「ミアストのせいで売れなくなった物があるのですが、傷物ですしお安く譲りますよ」とか「ミアストを敵に回しているのであれば我が町の名産を優先的にお譲りしますが」とか。ミアストが敵という町長が全員こっちの味方になってくれているよう。
これはぼくが何をしたって言うよりミアストが一方的に悪い。詐欺のやり口で富を増やすのは、一時的には上手く行くだろうけどそのうち誰も引っ掛からなくなり、相手にしなくなる。
詐欺で富を増やそうとするのなら、情報を集め、前のやり口以上の方法を考え続け実行し続け、常に上の手段を考えてなければならない。あの手この手で周りを騙し続けなければならない。一瞬だって自分が詐欺に遭っているのではないだろうかと思わせちゃいけない。
ミアストは同じやり口ばかり使っているから、詐欺師としては三流だよな。
さて、ミアストはどう出るか。
このまま消えてくれればありがたい。それにあそこまで恥をかいたら普通自分を嘲笑う同業者の前に出てこられない。
……んだけど。
あいつの性格上、このまま引き下がることは、絶対、ない。
てか、そもそもミアスト何処にいる?
スピティのフューラー町長に聞いたところによると、ミアストは定宿には泊っていないとのこと。いつもなら最上級の宿のいつもの部屋でふんぞり返っているはずが、予約すら入っていないとか。さすがに世間の目を警戒したんだろう。
だって、詐欺に掛けた町だよ? フューラー町長が訴えようとしたけど圧力をかけてそれを潰した町だよ? そんな町に、堂々と乗り込んできただけでも肝が太いを通り越して無神経だ。
宿をスピティ外に変えただけ、まだ少しは良心が残って……いやそんなものはあいつにはまずないな……単に詰め寄られるのを避けただけだな……。
展示会にいる町長たちも敵に近いから、展示会にはもう来ないかも。
あの
ぼくの「宿で見た」発言が引っ掛けだってことに、ミアストならすぐわかっただろうから。
モルの無能で、スピティの一般町民にまでエアヴァクセンの存在がバレ、ミアストの存在がバレ、エアヴァクセンがよりによってスピティでグランディールを陥れようとしたことまでバレた。
無能な味方って、有能な敵より怖いよね。
でも、逆に考えると、エアヴァクセンには頼れる有能な人材がいないってこと……?
だよなあ。サージュやアパルは元エアヴァクセン町民。二人の信頼を得ていれば、エアヴァクセンは安泰だったと思うのに、スキルとスキルレベルだけで人を見るからこうなったんだよなあ。
二人ともすっごく有能なのに。言うこと聞かないとかで追い出したり逃げられたり。一人でもいれば……どっちか一人の言うことを聞いていれば、エアヴァクセンがランクダウンもささやかれるほどになることはなかっただろうに。
ん? 今までミアストのことを考えてたけど、エアヴァクセンにとっての無能な味方ってミアストその人じゃね?
つまり頭脳がダメだから、エアヴァクセンがダメになっていくと。
町は生きているという人は多い。特にスキル学を学んでいる人に。
町スキルとでもいうべき能力があり、町長という存在によって生まれ、町民という手足を伸ばして、景気という生命力がある。
だから町は生きている。生を受け、育ち、衰え、そして寿命を迎えて死んでいく……んだって。
サージュは割と信じている。そして、エアヴァクセンの残る寿命は少ないのだとも。
サージュがミアストを憎んでいるのもあるかもしれない。でも両親を連れに帰ったアナイナが見たところ、エアヴァクセンは荒廃したらしい。
ミアストという頭脳が暴走して力を使い、その生命力を失ったんじゃないか……ともアナイナは言っていた。
ぼくも実際見たくはあるんだけど、それやるとそのままエアヴァクセンに取り込まれて生命力にさせられそうなので見に行かない。
「クレー町長?」
おっと、仕事を忘れていた。
「申し訳ありません。例の男が今一体どこで何を企んでいるのやらと。不愉快に思われたでしょう。この通りお詫びいたします」
「ああ、ああ。あの男への対策を考えていたのでしたら全然ですよ! あの男に一杯食わせたのは貴方だけですからな! どんどん一杯食わせてやってください、我が町も協力いたしますよ!」
「ありがとうございます」
また一人、味方をゲットした!
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