第138話・ミアストとの再会
それからしばらくは、普通に町長同士の話し合いだった。
…化かし合い、ともいう。
話していることは日常会話や陶器の話なんだけど、裏ではお互い相手の尻尾を掴もうと言葉を探し、自分に優位に進めようという舌戦。
正直に言う。ぼくの心の中にある町長の仮面……恐らくは「まちづくり」のスキルの中に入っていたであろう、町長としての仕事が出来るようにするこれがなければ、この各町の町長相手に探り合いなんてできなかった。もごもご言っているうちに相手にペースをつかまれ、権利をたくさん持っていかれていただろう。
アパルやサージュの助けがあっても、徹底的に持っていかれてただろうな。
心の仮面さんありがとう。
四刻間、厄介な相手に警戒しながら話していれば疲労も溜まる。
疲れ果て、残り一刻だけど、さすがに疲れた。
一旦大会議場から繋がるベランダへ行き、薄いワインでのどを潤して、外の風を浴びていた時、背後から声をかけられた。
「グランディールのクレー・マークン町長ですかな」
この、声。
「ええ、そうですが?」
即座に町長の仮面が発動、笑顔で振り返る。
「良かった、今日はもう会えないかもしれないと思っておりましてな」
「申し訳ありません。会談の順は決まっておりまして」
「では決めた者は私のことを知らぬということですかな?」
「……どういう意味でしょう?」
「SSランクの町長をここまで待たせるという非礼ですよ」
ヤツは……ミアスト・スタットは。
自分が最優先されて当然という顔で、ぼくの目を見ていた。
◇ ◇ ◇
「お待たせしたことは失礼いたしました、エアヴァクセン町長、ミアスト殿」
ぼくは薄い笑みを浮かべて、半年前より少し伸びた身長でミアストと目線を合わせる。
「ですが、私と話したいという方は多いので」
「見れば分かりますな」
「では改めて言います。お待ちください。会談の順はどの町を後に回しても揉め事が起きそうでしたので、先頭のフューラー町長以外は公平に
ミアストはパカンと口を空いた。
ぼくは背を向け、歩き出す。
「ま、待て!」
後ろから追ってくる足音。ぼくは普通より少し早い速度で歩を進め、振り返ることはない。大会議室から面会室へ戻る道をたどる。
「待て! 待ちたまえ!」
カツカツと固い音。ミアストが必死に追ってくる。周りにいた町長たちが会話を止めてこちらに注目する。本日の主役のグランディール町長と、偉そうなこのエアヴァクセン町長との会話を聞きたいと、一見和やかな宴を演じながら、その実、耳はこっちに集中している。
「Cランクの町長がSSランクに逆らうつもりか!」
「逆らう?」
ぴたり、と足を止め、でも振り返らない。
「そこが疑問ですね。確かにランクは町の地位を表していますが、決して上のランクの町に下のランクが従わなければならないという理由にはならない」
背後でミアストが息を飲む気配。
そう。勘違いしている人間がミアストを含め大勢いるけど、ランクは決して上下関係を意味するものじゃない。
もちろん、ランクが低い町は高い町に協力を請わなければやっていけないところもあるけれど、町そのものの立場は平等。村と呼ばれ、ランク外と呼ばれる集まりでさえ、人数がある程度いたり何か特産がある場合は平等となる。要は実力主義。ランク外だったグランディールがSランクのスピティに家具の取引を持ち込めたのも、家具の出来をスピティが認め、対等に出来る町だと判断したからだ。だから、今はCとはいえきちんとランクのついた町に、SSランクだからと優先を求めるのは明らかに間違っている。
つまり。
ミアストは大いに勘違いをして、間違った判断を押し付けようとしている。
「何だ、やはり勘違いしていたのか」
「町長の常識でありましょうに……」
ひそひそと話し声がぼくへの援護射撃となる。
それに気づいて何か言おうとしたミアストに、ぼくはとどめを刺す。
「それでもお待ちいただけないというのであれば、ここにいらっしゃるすべての方々を敵に回すことになりかねませんが」
「確かに」
同意の声はフューラー町長。
「グランディールは地を貸した我が町を優先とはしましたが、あとは平等に扱っておられる。何を持ってその扱いが不服なのか、判断しかねる」
「私は三日の夜半、つまり最後になったが、クレー町長の判断が正しいと思う。待つのが嫌ならば少なくともその日にスピティに来ればいいだけなのに、何故にミアスト町長は不満を持ってここにいるのか」
「
度胸のある……主にSランクの町の町長が同意し、それ以下のランクの町長もうんうん、と頷く。
ミアストの所業は裏ルートで町長間に伝わっていて、エアヴァクセンが落ち目だということも知られている。これまでSSランクというだけで大きい顔をしていたミアストに好意を持つ町長は少ない。
ミアストは自分が不利だと分かったのだろう、唸り声が聞こえ、ぼくはそれで話はおしまいと展示室を出ようとドアノブに手をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます