第135話・陶器展示会開催
正直、ヴァリエが何を言いたかったかは分からない。
ただ、ぼくが町長でいい、と言うことだけは分かった。
……なんでそんな方向に話が行くかなあ。
口に出してしまうと情けない程短絡的な理由で町長やってるなぼくは。
それでもいいって、本気か?
ん~……。
分かったことが一つ。
グランディールの町民は、物好きが多い。
でなきゃぼくみたいな町長初心者をそこまで慕いやしないだろう。
……でもまあ、そこまでぼくに期待してくれているんだから、少しでも期待に応えなきゃいけないだろうなあ。
とりあえずは、対ミアストだな。
ぼくとバレないよう、同姓同名の若い町長と思わせるように……。
アナイナ情報によると、ミアストの傍には嘘を見抜くスキル持ちがいるって話だけど……。そいつが出てきたら厄介、かな? これはサージュとアパルに聞いておかないと。
あとは……もう少し我慢しないとな……クイネとシエルの玩具になるのを……。
二人だってただぼくで遊んでるわけじゃない。ぼくがミアストにバレないように、ついでにグランディールが舐められないよう知恵と工夫を才能の限り使ってるんだ。
……文句言う筋合いじゃないんだよなあ。
むしろ感謝しなきゃいけないんだよなあ。
素直に感謝しづらいチャレンジ精神も混ざってるけど……。
とりあえず、髪と眼の色を決めてしまわないと。
◇ ◇ ◇
それから半月。
スピティの大広場にテントが並び、グランディールの陶器商品が並べられた。
テントの様子よし。値札よし。お釣り用の小銭よし。陶器を包む布よし。
「えー。全員集合」
ぼくの声にわらわらと集まってきたのは、ほとんどが元ファヤンスの住人。あとは商人の経験がある方々。
「ここで売るのは町民の皆様でもお買い上げいただけるようなお安いものです。高く売ろうと考えないで。むしろ値引き交渉されたら喜ぶくらいで。不安になったら売買担当員を呼んで何処まで引くか聞いてください」
「おう!」「はい!」「分かった!」
もう目をキラッキラさせてぼくの言うことにいちいち頷いている売り子さん、そのほとんどはファヤンス出身で、陶器スキルなしかレベルが低くて、でも陶器を作りたかった人たちだ。
もちろん、本気で陶器職人になりたい人たちで、元々のファヤンス職人に教えを受けて、このレベルなら売りに出せる、とお墨付きを得た人たちばかり。でもやっぱり、素人目には分からないけど高レベルスキルと比べると少し劣る部分があるので、「陶器の町」ではこの作品は売れないと夢を諦めた人たち。
それをグランディール製と言って売れる……買ってもらえる……使ってもらえる。そんな楽しみを味わえるなんて、スキルのないぼく、わたしたちが!
と言うわけで、売買する様子を自分も見たいという希望が集まって、ならいっそ自分で売ればいいじゃないということで、基本一つのテントに並ぶ商品の売り子は製作者。もちろん値段とかはファヤンスの陶器商会で契約とか値付けとかしてた人たちにきめてもらった。けどまあ、本人がいいというならある程度の値引きも任せることにした(もちろん下げ過ぎると困るので売買担当員が目を光らせている)。
チラリと大広場の外に目をやる。
まだロープを張って立ち入り禁止にしている向こう側で、興味津々と言う顔で集まっているスピティや近隣の町の人たち。ファヤンスの陶器は素晴らしいが高すぎてランクの高い上層部しか買えなかったのが、グランディール製は買えるという宣伝を聞きつけてやってきた好奇心旺盛な方々。
「じゃあ、五の刻の鐘ぴったりで開けて」
「ああ」
一般用展示の担当責任者のポトリーに任せて、ぼくはアパルとサージュを従え、大広場に隣接する大会議堂に向かう。
今のぼくは、赤茶色の髪と翡翠色の瞳をしている。赤と緑、と組み合わせでクイネとシエルがあーだこーだとやり合った末の結果だ。鏡で見た時は、我ながらとは思うが「こんなの普通いないでしょ」だった。光の加減で時々金色に見える髪と、深い深い緑の瞳。シエルが絵の具で「こんな色を出したい」と混ぜ合わせて、結局絵の具では出せないとクイネにジェスチャー交じりで伝えながら(なんで色の説明にジェスチャーがいるのかぼくにはわからなかった)作った色だけあって、なんつーか、……妙に、人間臭さがない。
町長の仮面をつけているぼくにはちょうどいい、とアパルとサージュも太鼓判を押して決定した。
ちなみにサージュとアパルも髪と眼の色を変えている。二人揃って黒髪と茶色の瞳。アパルとサージュはエアヴァクセン出身、戸籍を失っても向こうが覚えている可能性がある。そこでこっちは地味ーに、でも見る人が見れば
さて。商売を始めるか。
ぼくは改めて久々に町長の仮面をつけて、スピティ会議堂の一番大きい会議室のドアを開けた。
どうか、上手く行きますように。
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