第134話・勝者
「町長はどうして配下を受け入れないのですか」
「そんな柄じゃないから」
汁麺の汁をすすりながら答える。
「ぼくは、……今のぼくは、人を従える人間じゃない」
「町長ではないですか。それだけで町の人間を従える――」
「ぼくは町の人を従えてるわけじゃない」
「従えてない? どういう意味でございましょう」
「ぼくは町の人に手伝ってもらわないと何もできない」
きっぱりと言い切る。
「何度誰に言ったか忘れたけど、ぼくはスキルを持っているから町長になっただけ。それが分かってこの地位にいる。……ここにいる理由は、ミアストを見返すため。あいつを見下して笑ってやるために町長やってんだ。うん、ぼくに夢見てるきみには納得できないだろうけど、ぼくはこんなくっだらない、下手すればミアスト以下の人間なんだ」
「……わたくしは難しいことはよくわかりません」
ヴァリエは藍色の目を伏せて首を振る。
「ですが、たった一つだけ、分かっていることがあります」
「何」
「アナイナ様やアパル様、サージュ様……いいえ、それだけではありません。今、町に住んでいるすべての人々が、我が……んん、クレー様を唯一の町長として認めていることですわ」
「……他にいないから」
「いないから、ではございません」
ヴァリエは、真正面から今は色違いのぼくの目を見て、ぼくに言い聞かせる。
「エアヴァクセンの皆様は、クレー様と共に行きたいと願った。スピティの皆様は、クレー様ならば町の暮らしを与えてくれると思った。ファヤンスの皆様は、確実に町長としてはデスポタよりクレー様が上だと信じた。そういうことなのです。今更他の誰が町長になっても……たとえそれがアパル様やサージュ様、その他のどなたであっても、例え伝説の彼方に消えた最初の町スペランツァを治めた精霊神であろうとも、グランディールの民は納得しますまい」
最初の町スペランツァ。精霊神が生み出した「人間」が、それぞれバラバラに暮らし、自分の土地と主張し争っていたため、平和に暮らすための見本として作り上げたという「町」。
……いや、初心者なぼくと比較するには相手デカすぎやしないか?
「わたくしもその一人。例え精霊神御自らが現れ
「いや、勝手に決められても」
「ええ、勝手です。他の町民もそうです。皆、勝手に町長をお慕いしているのです。ですからクレー様が皆をお気にかける必要はございません。皆、勝手についていくことを決めたのですから、クレー様は周りを気にせず貴方がなさりたいようにすればいいのです」
「……いや、そうはいかないだろ。仮でも町長なんだから、いくらなんでも町民を無視して動くわけには……」
「だからクレー様が町長なのですよ」
ヴァリエは……かつてぼくを怯えさせた真性のストーカーは、キラキラした目で言う。
「好きにやっていいと言われて本当に好きにやる町長がこの世界にはなんと多いことか。デスポタ
ん~~~~。
「ぼく、そんな御大層な人間じゃないよ」
「分かっておりますよ」
ヴァリエは笑顔のまま。
「御大層な人間じゃないと分かっていらっしゃるから、道に迷い、振り返ることを恐れない町長だから、皆、信頼しているのですよ」
「……失敗したらどうするんだよ……」
「失敗したら皆でお手伝いしますよ、クレー様」
「……みんなで?」
「ええ。ここでミアストとやらにクレー様の正体がバレて、捕らえられたなら、皆でクレー様をお救いして逃げますよ。皆、クレー様に助けられた者なのですから、クレー様が捕まえればSSランクの町が相手であろうと、全員が全力でお助けに参ります」
「…………」
「クレー様の夢が破れても、町は残ります。ミアストに敗北されたならば、町ごと世界の果てへでも逃げて再起を計ればいいのです。一度や二度の失敗などお気になさらず。例え負け続けても、最後の最終戦に勝利した者が勝者なのですから」
ヴァリエはもう一度笑って、空になった丼をぼくの手から取り上げた。
「最後に拳を突き上げている者が、勝ちなのですよ」
一礼して、ヴァリエの姿は消えた。
「最後の一戦に勝った者が、勝者、か……」
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