第133話・眼の色髪の色

「何やってんだ?」


 ひょこりと顔を出したのはシエルだった。


「ああ、町長の髪と眼の色を変える相談を」


町長クレーの? ……なんで?」


 ミアストがエアヴァクセンから追放したぼくを探していること、イコールでは考えてないだろうけどヤツと展示会で会うことになったこと、正体がバレてエアヴァクセンにグランディールごと持っていかれるのを避ける為に、念には念を入れてエアヴァクセン追放者とグランディール町長をイコールで考えないように一種の変装をしようとしていることを説明する……と……。


 なんでシエル、話が進むと眼がキラキラしていくの?


「すごい。面白そう。やらせて。いや。やらせろ」


「いや、髪と眼の色を変える方向で話を進めてるから、シエルは……」


「グランディールの町長だったらそれに相応しい髪と眼じゃないといけないだろ! ちなみに何色にするんだ?」


「赤毛に緑の目」


 うんうんと頷くシエル。


「でも、少しの色の違いが印象をガラッと変えるんだ。下品にも上品にもな。グランディール町長に一番相応しい色味にしなければ!」


「確かに……色の微妙な違いで、上品にも下品にも変わるからな……」


「だろ? だろだろ?」


 芸術系スキル持ち主二人が夢中になって話し込んでいる!


 思わず助けを求めてアパルとサージュを見た。


 二人とも苦笑い。


 この手の連中を止めるのは難しい、と分かってるんだ。


 シエルは元より、好きではないが陶器の絵付けを続けさせられたクイネも色味の違いでどうとかと言うのが分かるようで、ぼくそっちのけで話し込んでいる。


 いや、ぼくはいいんだけど。上品だろうと下品だろうと、ぼくがぼくでなくなれば。


 だけど。


「来るのは宣伝鳥でBランク以上の町の興味ありそうなところ、だったな」


「自分が言うのも何だが、高レベルの町長にもかなわないような立派な町長に見せたい」


「町長負けしたくないもんな!」


「いや、外見だけ勝っても意味がないだけで」


「やっぱり長になる人間はまとう色からして違うからな!」


「エアヴァクセンの町長は噂を聞く限りとんだ曲者だ。そんな男に若年と言うだけで見下されるのはグランディールの町民として腹立たしい」


「おう! うちの町長が世界一だってとこを思い知らせてやんねーとな!」


 ぼく、完全に玩具だな……。


 もう一度救いを求めてアパルとサージェを見る。……二人して目を反らした。酷い。


 ……もうこれは目覚めちゃった二人を止められないってことだ。


 ……精霊神様、もしいらっしゃるというのなら。


 せめて、笑われない程度に落ち着いた色合いにされますように……っ!



     ◇     ◇     ◇



 翌日には、宣伝鳥と三十近い伝令鳥がグランディールの門を抜けて行った。


 そしてぼくの髪と眼が完全に玩具にされた。


 いや、色が変わるだけで世界が瞳の色に染まるってわけじゃないからいいんだけど……。


 椅子に座らされて「この色じゃない」「もうちょっと浅い色が」「いやそれだったら肌の色が」と髪の毛や眼だけじゃなく、肌や爪や眉毛や睫毛まつげまでいじられて、それでも二人が満足しないようで。クイネが食堂からの連絡で慌てて帰ってからも、シエルがメァーナスから「町長拉致監禁の詫びに」と送ってきたお高い絵の具を混ぜ合わせながらぼくの顔に掲げて「これじゃない」「これも違う」と来た。


 いい加減勘弁してくださいと泣きを入れたけど、「町長に相応しい色にするためには!」と放してくれない。昼食の時間を超えてまだぼくを捕まえたままのシエルに見かねたアパルが「そろそろ休憩させてやれ」と言ったので、「ちょっと待って」と黒だけでぼくの似顔絵を何枚を描いてから会議室から解放してくれた。


 ……空色としか表現の出来ない髪と左右色の違った眼のままで。


 左右色違いの目はオッドアイと言って珍しいがないわけではない、町長の神秘性を……と言い出した時点で「悪目立ちはダメだから!」と何とかストップをかけた。そこでアパルが休憩を言い出してくれたわけで。


 とりあえず……寝よう。座りっぱは疲れるんだ……逆に。


 会議堂の町長室のベッドに入る。


 お腹もすいたけど、何より眠気がすごい。


 ……疲れた……。



「素晴らしい!」


 食堂から出前にやってきたストーカー系女子ヴァリエが感動したように言った時、ぼくの髪と眼はまだ変わったままだった。


「こんなに素晴らしい髪と瞳は見たことがありません! さすがは、我が……」


「ヴァリエ」


「ん、んん、失礼しました。しかしさすがはシエル氏とクイネ氏の考えだけあってよくお似合いなのに、何か気に入らない点でも?」


「目立ちすぎる」


 汁麺をすすりながらぼくはぶっきらぼうに返す。


「こんな目立つ色、確かにエアヴァクセンのクレーは持っていない。だけど、こんな色が自然に出たら評判にならないはずがない。町長の色で売るわけにはいかないんだ。家具と食器で売っていくのが一番安全で落ち着く。町長の外見で売る町が長く持つはずがない」


「なるほどそうですか……。わたくしも髪や眼の色では色々と言われましたからね……」


 確かに、銀の髪も藍色の瞳もあまりない色だ。


 それが髪と眼にそれぞれ宿っていれば、目立ちもするだろうな。


「この色を持ったからには立派な騎士になれと両親に言われました!」


 色々ってそれか。


「この髪と眼はヴァンデラーの騎士の証! で、あるからには相応しい騎士になれと、わたくしは主を……!」


「ぼくは主になる気はないからね」


 素っ気なくつっぱねる。

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