第132話・変身
で、ぼくがぼくらしくなくなるためにはどうすればいいかとなり。
髪や目、肌の色を変えればだいぶ印象も変わるのではないか、と言う案が出て。
呼ばれて出てきたクイネさん。
「ゴメン、絵付しないって約束でグランディールに来てもらったのに……」
「なに、この程度なら絵付と言うこともないですよ」
食堂も繁盛しているようで何よりな料理人元陶器絵付師は笑顔で応えた。
「自分を助けてくれて夢までかなえてくれた町長には一生をかけても返しきれない恩義がありますから」
「恩義に感じなくてもいいけど色を変えてくれるなら助かる」
栗色の髪に青い瞳。珍しい色ではないし珍しい組み合わせでもない。だけど、ミアストに今探し求めている元住人とバレてはいけない。
クイネのスキルは「絵付」。それを使って毛とかの色を変色させることも出来る。生き物にかける変色は一時的らしいけど、それでも一日二日は持つ。エアヴァクセンから両親を助けだすとき、連絡用にエキャルを白く染めて使ってた。それもクイネのおかげ。
クイネにそのことを説明すると、ふむ、と考え込む。
「イメージが全然違えばいいんだな」
「そう。今のぼくと連想がつかない程度に」
「赤毛?」
クイネが案を出してくれる。
「赤毛……?」
「そう。インパクトのある色だから、元の色を連想できないだろう。ただ赤くするんじゃなくて、赤味を帯びた栗色。そうすれば町長も違和感を感じすぎることもないし元の色からは離れるから」
「でも栗色と赤味を帯びた栗色じゃ、染めれば何とかならないか?」
「だから眼」
クイネがニッと笑う。
「眼だけは、スキル以外で変えることは出来ない。だから、瞳の色で印象を変える」
「眼も赤とか?」
「赤い瞳はあんまり聞かない。そこまで印象が強いと、それまでなぜ噂にも出なかったのか、と疑問が持たれてしまう」
「青と違う色……で、青とは印象が全然違う色……」
ん~、とクイネは考えて。
「緑色はどうだろう」
「緑」
想像しても緑の目の自分が想像できない。……もっとも自分の顔をじっくり見る習慣なんてないから、自分の顔自体がそれほど想像できないんだけど。
「緑は割といるようで実はそんな多くないんだ。赤毛に緑の瞳なら、今の町長とは結び付きにくいんじゃないかな」
「んー……」
考え込むぼく。
「どうした?」
「……ん、いや、赤い髪に緑の目のぼくが思いつかなかっただけ」
でも確かに今のぼくより赤味がかった髪で緑の目なら、顔立ちが同じでも別の人間には見える……かな?
追放した新成人一人一人をミアストが記憶しているとは思えない。ましてやレベル上限1ですぐに町を追い出したぼくの顔立ちなんて覚えてないだろう。
髪と目の色が両親譲りで、アナイナも同じ。アナイナが言うにはミアストは直接アナイナと会ったそうだ。恐らくぼくを引き受けた町の情報を知りたくて。それでイコールぼくの顔に近いと連想してるなら、生憎ぼくとアナイナは色は同じでも顔立ちはかなり違う。アナイナは両親のいい所を全部持って生まれてきた。ぼくは……まあ、地味な部分だけを選んで生まれてきたから、正直並んで歩いていて兄妹なんて思われたことない。なんで? みたいな顔をされたことなら何度でもあるけれど。
だから、ミアストがぼくの顔を想像するなら、両親とアナイナを足して三で割った感じだろう。
髪と目の色は家族全員同じだから、多分それは考えてるだろ。あとは顔のパーツがどんなだか……覚えてないだろうなあ。アナイナの印象が強いなら、もっとカッコいいか可愛らしい顔立ちしているだろう。
実際のぼくは正直かなり地味で特徴のないヤツだ。
町長とか商会長とか、指導者と呼ばれる人間は大体威厳とかがあるけれど、町長の仮面を被っていない……町長の仕事をしていない時のぼくは正直、その辺を歩いている人程度の印象しかない。ファヤンスから来た人も、当初挨拶をするときは、ぼくをじっと見て、考えてから、結局分からなくてうやむやな笑いで頭を下げる程度だった。今はかなり覚えてもらえたけれど、サージュとかアパルとかエキャルとかアナイナが一緒にいないと、「あれ……えーと、多分町長だよね……」な感じ。
髪と眼の色が違えば印象も違う。そして町長の仮面を被っていれば、元エアヴァクセン町民クレー・マークンと、グランディール町長クレー・マークンはイコールでは考えられないだろう。……多分。
あ。でも、ちょっといい所見つけた。
他の町長やお偉いさんにもこの髪と眼の色で会っておけば、グランディールに町外の人がやってきた時、普通に歩いていて気づかれないかも。
それ便利。
町長の仮面被るのと同時に髪と眼の色が変わっていれば、普段のぼくと町長のぼくは結び付きにくいだろう。
それは嬉しい。
グランディールを解禁しても、町長を出せって言われるまで町をほっつき歩いてても気付かれないんだ。
あとは町民に名前で呼んでもらえば……。
完璧じゃないか。
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