第131話・深刻な相談

「こちらはどんなに注目を集めていても、しょせんCランクの町でしかないんだ」


「SSランクの町長の要請を断るのは、命取りになりかねない」


「知ったことか!」


 こちとらミアスト大っ嫌いなんじゃ!


「だから代理でいいだろ、ぼくはミアストと直接顔を合わせるなんてしたくない! それがどんな結果を生もうと!」


「何を言っても町長だろお前は! 町の利益が第一! 個人的な意見はあと!」


「町の利益なんて知ったことか! ミアストは大っ嫌いなんだ! 顔を合わせるなんてもってのほか! 話をするなんて冗談じゃない! それで正体がバレるのは死んでも嫌だー!」


「拒絶反応がすごい」


「気持ちが分からんでもないが……」


 サージュとアパルは顔を見合わせて、肩を竦める。


 もちろん、ぼくだって無茶を言っているのは分かっている。


 Cランクの町長がSSランクの町長に直接会うこと自体、あり得ない。A、Sランクの町長が直接伝令鳥を送ってくるだけでも奇跡のようなもの。それがSSランク直々の手紙で届く……それは、余程こちらを併合しようとしているか、それとも……それだけの魅力を感じているか。


 どちらにせよ、グランディールにはSSランクの町長に興味を持たせるほど魅力的な町。この手紙はそれを示している。


 それを断るとなると、厳しい結果が待っているのが目に見える。


 だからこそサージュもアパルも説得にかかってるんだろうけど……。


 やっぱり、ミアストには会いたくないっっっ!


「どれか一つだけでも妥協できるものはないか? ん?」


 会いたくない、会いたくない、会いたくない……。


 けど、会わなきゃいけないってのは決定事項に等しいので……。


 ううう~~~~!


 町長としての顔をして、いつもの仮面を心で被っていれば、ミアストと話すなんて地獄も何とかクリアできる。


 問題は、あっちがこっちを「町から去ったクレー・マークン」だと知った時。


 ミアストは絶対にぼくを町に戻るよう説得にかかる。ついでに町ごとやって来いと言い出す。ぼくがぶっちぎれて殴り合いになるのが目に見える……っ!


 町長になってから、実は自分がかなり自分の町本当に大好き人間であると思うようになった。


 ぼくは、自分のことはどれだけ馬鹿にされても気にならないけど、町のことを馬鹿にされると頭に来るし、言い返したくて仕方がなくなる。


 デスポタとピーラーにスキルで閉じ込められた時は明らかに不利な立場だって分かってるのに相手をあおりに煽って煽りまくった。一応後頭部をぶん殴られた以外には、肉体的には傷付けられないだろうという確信はあったけど、もう向こうで仲間割れするならいくらでも言ってやるとばかりに言いまくったし。


 ミアストと、「元エアヴァクセン在住クレー・マークン」として出会って何が厄介かって、あいつは絶対、エアヴァクセンを讃えるためにぼくとグランディールのことを馬鹿にする。


 まあ、これはぼくが町長の仮面を被ってその場を乗り切ることも出来る。けど、あとで地べたのたうち回って七転八倒して殴っときゃよかったー! ってなるのが目に見えてる。


 例えば、「グランディール町長クレー・マークン」と言う同姓同名同年代の別人として出会って、ぼくの正体に気付かれさえしなければ、何とか話も回る……とは……思う……んだけど……。


 全くの別人をぼくとして前に出すことは出来ない。アパルやサージュならぼくの考え方とか知ってるし町長代理として出すことも出来なくはないけれど、他の町に町長が出ておいてなんでSSランクの町長に町長代理が――ってなるし、何より二人ともエアヴァクセン出身、ミアストが微かにでも覚えていないとも限らない。そうしたら盗賊や放浪者の正体がバレればミアストはそこにつけこんでグランディールを併合しようとするだろう。


 つまり……。


 ぼくが……出る……しか……ないって……わけで……。


 ……出るしか……出るしか……っ!


 くぅぅ~っ!


 シエルデザインのデスクをバンバンと叩く。


 悔しい、悔しい、悔しい~っ!


 絶対に、あいつと直接会うのはこっちが見下ろす立場になってからと思ってたのに!


 一応ぼくにもささやかながらプライドってのがある。ミアストに頭を下げたくない。見下ろして嘲笑ってやりたかった。性格悪いと言われようとも、それだけは譲れなかった。そもそもグランディールはエアヴァクセン以上の町にするという目的で造ったんだし。


 あいつにへいこらするなんて絶対したくない。


 でも、ここで展示会をやらないとグランディールの名が売れないのも確かで。


 SSランク町長の機嫌を損ねるとろくなことにならないとは、言われるまでもなく分かっている。


 ……だから。


「……ぼくだと」


「ん?」


「ぼくだと、バレないようにお願いします……!」


「うん、そこが妥協点だろうなまあ」


 アパルもサージュも、色々考えた末に町長ぼくが出るしかないという判断はしていたので、この要請も仕方ないと判断済みなんだろう。


「……ぼくのことを知っているのは、スピティのデレカート氏とトラトーレ氏くらいで、フューラー町長もぼくの顔を見たことがないし……」


「何とかするしかないな」

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