第123話・町長の存在意義
フォーゲルから少し出て「移動」でグランディールの会議堂前に帰還。いつもならそこまで正確じゃないんだけど、今回は慣れてない鳥二十羽が一緒だからすぐに鳥小屋に入れられるよう場所をリューとアレに頼んで限定に限定して「移動」してもらったのだ。
会議堂の横にできた、宣伝鳥の鳥小屋。そこに宣伝鳥を入れてやらなきゃならない。
その前に、「移動」で荷馬車の中で待機させている鳥たちは大丈夫か、と見てみたけど、動じた様子はない。
ほっとして、馬車の金具に繋いであった宣伝鳥たちの鎖を外してティーアに預ける。
「え、い、いいのか」
「世話係なんだろ」
「お、おう」
ティーアは緊張して鎖を受け取ると、パサレから受け取った笛をくわえて、本を見ながら、ピッ、ピッ、ピッと吹いて軽く引っ張る。
宣伝鳥たちは二列縦隊で歩きだす。
「なんで笛?」
「
「一羽ぐらい逃げ出そうとしないのかな」
「それが群れで生きる動物ってもんだ。一羽が行動すると残りもついていく。その最初の一羽が群れのリーダー。リーダーを信じていないと群れでは生きていけない」
サージュの
「へえ」
「人間にも同じことが言えるぞ」
「へ……え?」
「町なんてその最もたるものだろうが。町長の後についていく者のいない町なんて簡単に潰れる」
「…………」
「だから町長は常に先陣を切らなきゃいけない。奥に引きこもって命令を出しているだけの町長はいずれ潰される」
「……じゃあエアヴァクセンなんてヤバい?」
「ヤバいな。かなりな」
「あーもう頼む」
「何を」
「グランディールに抜かれるまでは存続しててくれ」
「それか」
「それだ。なんせぼくはまずエアヴァクセンに一杯食わせるために町長になったんだから」
「個人的な理由だな」
「個人的でもいいだろ、結果的に町民が幸せだったら」
「確かにそうだ」
どんな理由であれ、結果として上手く行っているなら問題はない。
エアヴァクセンを負かしたからってぼくの町長職が終わるわけじゃない。
その次にはSSSランクを目指すという目標もある。
ランクアップしたとしてもだから町長引退しますと言うわけにはいかない。町を豊かに導く町長に引退と言う文字はない。
町民が辞めてくれと言うか、寿命が尽きるまでは町長は町長職を続けるものなのだ。
もちろん寿命まで続けられるのが一番優秀なのだけれど、辞めてくれと言われる町長が圧倒的に多い。中には辞めてくれと言われても無理やり町長職を続けるヤツもいる。デスポタなんてその代表例だな。町を自分のものだと勘違いして好き放題やって金と名誉を優先させて町民にそっぽ向かれて、町そのものが消えてしまった。あ~あ。
おまけに他所の町長を拉致監禁して、その町に訴えられてんだもんなあ。
被害者ぼくだけど。
元ファヤンス町民はもう辺り構わずデスポタの悪口を言っている。グランディールに移住していない、他の町に行った人たちもだ。もうあれは自分たちの町長じゃないんだからと言いたい放題。
ああいう町長にはなりたくないよなあ。どうせなら町がある限り語り継がれるようないい町長になりたい。あの町長があってこそこの町があるのだと言われるように。
それがぼくの、多分一生モノの目標。
エアヴァクセンに残って町を何かするのに命令されるより、ずっとやりがいがあって幸せで満足できる一生じゃないか。
と言うわけで、ありがとうミアスト町長。ぼくをとっとと追放してくれて。お礼はSSランクの町を潰した町長という不名誉な呼び名で。
ふっと我に返ると、ティーアが全羽を小屋の中に入れて鎖を外してやったところだった。
「出来た……」
ティーアが目を見開いて感動してから、慌てて本を見返す。
「三日間世話係は付きっ切りにならないといけない、そう書いてある」
パサレから渡された宣伝鳥の説明書を見て、少し困った顔をした。
「フレディに何と言おうか……」
「鳥に浮気して三日間こもるって言おうか?」
「やめてくれ」
本当に嫌そうな顔をするティーアに皆が笑う。
「じゃあ、ぼくが言ってくるよ。宣伝鳥の世話係を任せたんで、三日間は付きっ切りになるって」
「頼めるか、町長」
「うん」
名乗り出たとは言え面倒なことを頼んだのは事実だ、ぼくが言うのが一番だろう。
「じゃあちょっと言ってくるね」
ぼくはティーア一家の家がある牧草地帯近くの住宅地へ向かった。
「あら、町長」
アナイナの躾も終わって自分の子供の面倒を見ていたティーアの奥さんフレディが笑顔で出迎えてくれる。
「こんちは、フレディ。ちょっとティーアからの伝言があって」
「あら、あの人ったらいつから町長を伝令鳥代わりに使えるようになったのかしら」
悪戯っぽく微笑むフレディ。
「ぼくが頼んだことでもあるんだけど、ティーアに宣伝鳥の面倒を任せることになった。で、今は鳥は鳥小屋だけど、新しい環境で働けるようになるには世話係が最低三日付きっきりにならないといけないらしくて」
ぷっと噴き出すフレディ。
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