第124話・鳥小屋おこもり
「どうせ、あの人が立候補したんでしょう? 鳥の面倒を見たいって」
「分かるの?」
「そりゃあね。何年あの人の奥さんやってると思うの」
「説得力があるなあ。じゃあ、前々から憧れてた?」
「そうね、町を追放されるまで、ずっと伝令鳥や宣伝鳥は素晴らしいって語ってたからね」
「そういやティーアって、何で町追い出されたんだっけ?」
「純粋に、スキルレベルが低いからよ」
フレディ、旦那のこともスパッと言うなあ。
「あの人もわたしもスピティ出身なんだけどね。あの人は小さい頃から動物に好かれてて、宣伝鳥や伝令鳥の鳥小屋によく遊びに行ってたの。将来はきっと動物系のスキルで、この鳥たちの面倒を見るんだろうねって言われてたんだけど……」
「確かティーアは「動物操作」、レベル400で上限は500だったか」
「そう。初期レベルは10ね。初期はともかくとして、上限500では町の財産を預かるには物足りないって。それでも懐かれてはいたから何か関われないかって何度も直訴したけどダメって言われて。それで腹を立てて町を出ちゃったの」
「実は結構根が深い?」
「そうね。ずーっとあの鳥たちのことを思ってた。人ではわたしと子供たちを一途に愛してくれたけど、動物だったらあの鳥たち。あの子たちの面倒を見たくて見たくてしょうがなくて、諦めて町を出たけどそれでも諦めきれなくて。だからこの町に来た時、いつか伝令鳥や宣伝鳥を買うかなあ、とよく呟いていたわ。それが町に借り物の伝令鳥や宣伝鳥が来て、あなたが伝令鳥を飼って……あなたが自分で鳥の面倒を見ると決めた時は思った以上に残念そうな顔をしていたわ。だからあなたがフォーゲルに連れて行くって言った時は、もう興奮しちゃって」
「知らなかった」
「そりゃあそうでしょうよ。スキルレベルは低くても、盗賊団の頭。この町に来てからはまとめる立場も引き受けてたから、そんな悩みなんて口に出せなかったわよ。でも、フォーゲルじゃ相当盛り上がってたでしょう?」
空を見上げて口をポカーンと開けていたティーア。乙女みたいなキラキラ目で宣伝鳥を見ていたティーア。つっかえつっかえ宣伝鳥の面倒を見させてほしいと言ったティーア。
なるほど、小さい頃からの憧れか。
道理であそこまで目の色が変わったわけだ。
小さい頃からの願い。伝令鳥や宣伝鳥の面倒を見ること。上限レベルが低いというだけで諦めざるを得なかった夢。
消えたはずの夢が目の前に出てくれば、そりゃあ興奮もするはずだ。
「うん。相当盛り上がってた。任せるって言ったらもう……」
「気持ち悪かったでしょ」
ちょ、あの、何とか誤魔化そうとしてたのに!
「いいのよ。あの人って夢を語り出すと入っちゃうんだから」
「入っちゃうって?」
「乙女スイッチよ。小さい頃から叶えると決めて諦めざるを得なかった夢が手を伸ばせば届くところにあれば、スイッチが入るに決まってるわ」
奥さん、容赦なし。
「まあ、それを仕事に影響させる人じゃないから、宣伝鳥の世話はきちんと見るでしょうね。それでももし鳥を大事にしすぎたりして仕事になってなかったらちゃんと叱ってね。それでも言うこと聞かなかったらわたしが叱りに行くから」
「心強いや」
「で、それで三日帰ってこないのね」
「うん。ごめんね、旦那さんをそんなに借りて」
「いいのよ町の為だから。それにどうせ鳥小屋にこもりっぱなしでしょうし」
分かってるなあ、フレディ。
「ただ、あの人もシエルと同じで夢中になると自分の衣食住……特に食を忘れる傾向があるから」
「分かった。世話係に倒れられるとせっかく買った二十羽の宣伝鳥が無駄になる」
「町長は顔を出してもいいんでしょう? 時間を割くことになるけれど、食事を持って入って、食べ終わるまで見張って。でないとあの人、食事置かれただけだと気付かない場合もあるし」
「分かった。じゃあぼくも会議堂へ帰るよ」
「お気をつけて」
にっこりと微笑むフレディに頭を下げて、ぼくは会議堂に向かった。
……フレディの危惧した通りになった。
食事を持って行っても、三日の間は宣伝鳥に主や世話係以外の顔を見せてはならないとあるので、部屋の前に置いておく。
と、少し経って食器を下げに行ったところ、手を付けられた形跡がない。
それを聞いたぼくは、即座に新しい料理を作らせて小屋へ殴り込んだ。
「うわっ」
向こうを向いていたティーアがびくぅっと竦み上がる。
「鳥が驚いているじゃ……って町長」
「鳥が驚く以前の問題だ、ティーア」
ぼくはトレイに乗せられた食事を突き出した。
「食事!」
「え? まだそんな時間じゃ」
「そんな時間、なの!」
わざと怒った顔で言う。
「もうティーアがここにこもって、半日! 世間一般じゃ夕食の時間はとっくに過ぎた!」
「え」
「えじゃないえじゃ。鳥の面倒を見るのは大切だけど、自分の面倒を見れない人に鳥を任せるのはダメだからね!」
叱るとティーアは首を竦めた。超大型犬がなんか
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