第121話・宣伝鳥

 さて、またも来ました鳥の町フォーゲル。


 今回はいつものメンバーにティーアが入っている。


 「動物操作」のスキルを持つ人間としては、鳥でもっているフォーゲルは一度見てみたい場所らしく、前に約束したから。


 ティーアが、町に入ってからずっと空を見上げてて、空を飛び交う鳥のさえずりや鳴き声で興奮している。何か怖い顔してるのに子供みたいな印象で面白い。


「ティーア、ほら、行くぞ」


 アレとアパルが押したり引いたりしてるけど、ティーアの顔は上を向いたまま。視線はきょろきょろと上空を移動している。


 ……うん、まあね。


 「動物操作」ってスキルでしかも動物好きなんだから。鳥も動物の一種だし。


 そしてそんなのが自由に町の上空飛び回ってたらそりゃあ視線は上になるよなあ。


 で、アレとアパルが押して引いてしてティーアを動かして、何とか伝令・宣伝鳥ティールの前に辿り着いた。


「はい到着ー。ティーア、我に返ってくれよ」


 アレが困り果てた顔で言う。


「え? なんだ?」


「だから、伝令鳥屋に着いたって」


 伝令鳥、と聞いてパッとティーアが我に返る。その視線が看板に。


「……俺か?」


「違う、最後の一文字が違う」


 「伝令・宣伝鳥専門店・ティール」と書かれた看板を見てボケてしまったティーアに思わず突っ込むぼく。


「とにかく入ろう」


 アパルが周りの人の視線を気にして、店のドアを開ける。


 全員が入ってドアを閉めれば、前と同じように静寂。


 伝令鳥があちこちの止まり木で目をぱちくりさせている。


「伝令鳥が……こんな間近に……こんなに」


 ティーアがじっと伝令鳥を見る。


 伝令鳥もティーアを見返す。


「いらっしゃいませ、グランディールの皆さん」


 柔らかい声に、慌ててティーアは伝令鳥から視線を引きはがす。


 店主のパサレが笑顔で出てきた。


「エキャルラットはどうです?」


「うん。すごく懐いた。……懐き過ぎて妹と喧嘩することもあるけど」


「そういう場合はちゃんと叱ってくださいね」

 

 パサレはちょっと困った笑顔で応える。


「あの子は自己主張が激しいですから。仕事はきちんとやるでしょうけど、それを逸脱したら叱ってあげるのが飼い主の役割です」


「他の鳥も飼い主がしつけしてるの?」


「いえ、面倒を見る係を雇っている町もありますよ。飼い主は可愛がるだけ」


「それって反則だろ」


 思わず呟いたぼくに、パサレもさっきよりもっと困った笑顔で応える。


「ええ。わたくしとしても責任を持って飼い主と登録された方に育てて欲しいのですが」


 そして視線をティーアに向ける。


「こちらの方は」


「ティーア・マネハール。グランディールで動物の世話してる人で、是非ともフォーゲルに来たいって言うんで今回連れてきた」


「あら、ありがとうございます」


 パサレが一礼し、慌ててティーアも礼を返す。


「申し訳ない、そちらの大事な鳥を許可なく凝視してしまって」


「いえいえ。鳥が嫌なら既に貴方をつついてますから」


 おっと、と思わず一歩足を引くティーア。


「それで、今回のご要望は宣伝鳥と言うことですが」


「うん。相談で二十羽ほど」


「はい。では、エキャルラットと同じ系統で」


 パサレが口笛を吹くと、奥のドアがパッと開いて、そこから桃色の鳥が二十羽入ってきて、壁際の止り木にずらりと整列した。


「うわ、賢い」


 大人しく並んでいる宣伝鳥たちは黒い瞳をじっとこっちに向けてくる。


「宣伝鳥は何か扱い方に気を付ける所は?」


 ティーアの言葉に、パサレは微笑んで答える。


「そうですね。出来れば面倒を見る人は少ないほうがいいですね」


「なんで?」


 ぼくの疑問にパサレは頷く。


「伝令鳥や宣伝鳥は、自分と契約した人間……あるいは自分の世話をしてくれる人間の気配を辿って移動する鳥です。そして、宣伝鳥は不特定多数に向けて送られる鳥なので、送り出され、帰るべき気配の持ち主が多いと混乱して変な場所に行ってしまうことがあるのです」


「あー」


 その時、ぼくの背中に突き刺さるそわそわとした期待の気配。


 ……うん、分かってる。


 分かってるけどね。


「宣伝鳥の世話人は、どんな資質が必要ですか?」


「一番大事なのは、宣伝鳥に懐かれていることですね」


 それは当然だろうな。


「後は?」


「性格的に言うと、マメな人ですね。宣伝鳥はなかなか難しい鳥ですので、献身的に面倒を見てくれる人を好みます」


「……町長」


「……言うな、分かってる」


 アパルの小声に小声で返す。さっきからのキラッキラな気配はしっかり背中に突き刺さってる。分からないはずがない。言いたいことはよーく分かる。でも、最後まで聞かないと……。


「別に外見がどうとかって話じゃないんですね?」


「はい。あとは、伝令鳥も宣伝鳥も相手に先に視線を逸らされるのを嫌いますから、きちんと目を見て面倒を見てくれる人を好みますね」


「なるほど……」


 更に突き刺さる視線。


「……ティーア」


「……はいっ」


「言いたいことがある時は直接言わないと伝わらないよ?」


 いや、視線で十分わかってましたけどね? 言いたいことは。


 ただ、それは本人が直に言わないと意味がない……よね?

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