第118話・みんなが笑って暮らせる町
「ここが畑」
まず案内したのが畑。
「広いのね。しかも町の中に」
「うん。最初町を造った時から出来てて、住人が増えると広がった」
「畑も広がるの?」
「多分、増えた人数に必要なだけの広さが増していくんだと思う。住宅地も畑も湯処も全部増えてった。あと住人が欲しいと思うものも増えてく」
「……悪いクレー、理解が追い付かない」
「僕も正確に把握しているわけじゃないから」
スキル「まちづくり」が一体何処まで出来て何処までが出来ないかと言うのは未だに町の誰も……ぼく自身すら把握してない。予測できるのは、町を造るのに必要なことは大体何でも出来るということ。ただ空を飛ばすという、伝説の町であってもどこかの町が出来たことなら出来るという反則技まであるからなあ。
「ここの畑は?」
「最初は畑スキル持ちが面倒見てたけど、最近はやってみたいって人が教えてもらいながらやってる。「豊作」とか「育成促進」とかのスキルを使ってくれてるから、町の人間を養う分の農作物は十分確保できてる」
「向こうの緑は?」
「あそこは牧草地」
緩やかな丘陵をお母さんが指すので、ぼくが教える。
「行ってみていいかしら?」
「大丈夫。立ち入り禁止の柵がない所は誰でも入れるから」
畑を回り込んで牧草地に行くと、放し飼いの豚や山羊や羊がのんびりもぐもぐタイム中。
「やっぱりここも働きたい人は働いてるの?」
「うん。スキル持っててその職業訓練受けた人に、指導を頼んでる。あとは学問所で座学かな」
「やっぱり合理的じゃない気がするけど……」
お母さんの素直な感想。
「いいんだよ、合理的じゃなくても」
ぼくは言った。
「合理的に暮らすんじゃなくて、幸せに暮らす町だから。合理的にして、誰が幸せになれるかって言うと、それは町民じゃない気がするんだ」
「じゃあ、誰が幸せに?」
「ファヤンスで見た限りでは、町の上層部……町長やその
馬がぽっくりぽっくり歩いてくる。
「お父さんには町のことはよくわからないが……一体どうやってファヤンスの住民がこの町に移住してきたんだ?」
「この町に陶土があるんだ」
何度か荷馬車として乗せてもらった馬の鼻面を撫でながら、ぼくは町の反対側辺りを指差す。
「ファヤンスでも認められる最高級の陶土で、ファヤンスから出たい人を引き抜く条件として、ファヤンスから移住する民の重さぶんの陶土を渡すって言ったんだ」
「……それでみんな来ちゃったの?」
「うん。まあ過半数は。でも重さは量って重量分の陶土は出したから、ファヤンスの町長は文句言えなかった。契約書にも「グランディールに移住したい人間の重さぶんの陶土を引き渡す」って書いておいたから、もしファヤンスの上層部が町に文句のある人間が多いって知ってたら、その条件を何とか外そうとしただろうけど、みんな陶土に気を取られて、町から出たいって住民が過半数近いってことに気付かなかった」
牧草地から出て、のんびり歩きながら今度は陶器通りに。
「で、ここがファヤンスの陶器職人がそのまま移住してきた場所ね」
ここはグランディールで一番活気に満ちている。最高の陶土で最高の陶器を作る職人たちが、朝早くから夜遅くまで働いているから。
「ここも、陶器職人になりたい大人や子供が来てもいいの?」
「うん。結構色々な事やってるよ」
「……みんな、楽しそうね」
成形して失敗した粘土を見て大笑いする子供、絵付に真剣な女性、窯の様子を見る職人さん。みんな、上手下手はあるけれど、やりたいことをやれて嬉しそうだ。
「うん」
ぼくの口元が緩んだ。
「みんなが楽しそうなのが一番だと、ぼくは思ってるから」
「おう、町長!」
職人の一人が手を振る。
「え? 町長?」「珍しいな、久々に出てきたんだ」「一緒にいるのはご両親かい? 良かったな、連れ戻せて」
気付いた人たちが声をかけてくれる。一人ずつに頷いて返事する。窯を見ている職人も笑って手を振る。
今のところ、ぼくの方針……「みんなが笑って暮らせる町」は上手く行ってるようで、嬉しい。
◇ ◇ ◇
「お前はたった半年で、立派な町長になってしまったんだなあ」
お父さんが眩しそうに目を細めてぼくを見た。
「え?」
「そうね……成人したらすごく変わると聞いていたけれど、変わり過ぎじゃないかしら……」
お母さんが顎に指を当てて呟く。
「……そんな変わってないと思うけどなあ」
「いいや変わったよ。アナイナ一人に振り回されて学問所でも目立たなかったお前が、町の長として、こんな平和で優しい町を率いている」
その平和な町の為に後頭部ぶん殴られて暗闇に閉じ込められたことはあるけれど当然黙っておく。
代わりに口を開く。
「「まちづくり」スキルのおかげだよ」
「だけど、スキルがあったとしても、町民を生み出すことは出来ないんだろう?」
「うん。人を含む動物は作れないっぽい」
「つまり、町民はお前を慕ってついてきたということだろう? それはとても、とても素晴らしいことだと思う」
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