第116話・非日常な町の日常

「アナイナ~……」


 ため息交じりに叱ると、アナイナは膨れた。


「だって、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんの半年の努力知らないんだもん。お兄ちゃんはミアストみたく継いだんじゃない、お兄ちゃんが人を集めて一から作って大きくしてCランクにした町だよ? それをあんな、人間にスキル以外の価値はないって言うようなミアストと一緒にしないでって感じ。これはお兄ちゃんにも言ってます。お兄ちゃんは時々自分が何もやってないって言うけど、お兄ちゃんのスキルと努力があったからグランディールは出来たんだよ? 町長のお兄ちゃんが引き下がっちゃうと町の価値が落ちる!」


 どうだ、と胸を張るアナイナ。……ド正論。ぐうの音も出ない。


「クレーが造ったって、一体、どういう力で……」


「お兄ちゃんのスキル忘れた? 「まちづくり」って」


「で、でも、あれは上限レベル1……つまり目覚めた時点で最大値であって、だから町長は!」


「スキルの上限レベルが低いのは、それ以上能力が上がると世界にまで影響が出る力になるから」


 ぼくもサージュに聞くまでは絶望していた低上限レベルの秘密。


「「移動」のアレにはもう会ってるよね。彼は上限レベルが50で、今は10だったかな。SSランクの町から邪魔されず移動したから、その力のほどは分かるよね。同じ「移動」でも平均的上限レベル500以上でレベル10だったら、普通なら町の外へ出ることも出来ない」


 両親は顔を見合わせたまま。


「この町の基はぼくのスキル。そこからみんなが手を入れて、Cランクまで上げた。もっと上げる予定。町の名前はグランディール」


 ぼくは立ち上がり、歩いて行って窓を開けた。


 空中を飛び交う水路。あたたかな光に満ちた町。


「まあ、ご飯を食べて湯処に行ったら、この町を案内するよ。ぼくたちで造ったグランディールを」



     ◇     ◇     ◇




 呆然と口に食事を運び続け、終いにはカトラリーまで噛み砕きそうになっている両親を止めて、湯処に向かった。


 向かう途中も、空を見上げて呆然としている。


「あれは水路ね」


「水路って……普通溝があって、その間を流れているものじゃ……」


「「水操」ってスキルで流して、それを町スキルで固定した」


「簡単に言うけど……」


「簡単ではなかったけど、説明すると簡単になる」


 ぼくたちは湯処に着いた。


「ここは……?」


「湯処」


「いや、こんな朝早くから開いている湯処はないだろう?」


「うちの湯処は一日いつでも誰でも入れる」


「高いんじゃ……」


「無料」


 町の施設は今のところ許可さえとれば基本無料……ってかお金が流通してなくて物々交換やボランティアで成り立っているからだけど。だから湯処だけじゃなく食堂もパン屋も無料。食堂やパン屋はそのうち有料にしたいけど、湯処は無料のままにするつもり。シエルの機転で湯が一日中循環しているから掃除もそれほど大変ではないから。子供なんかが手伝いで掃除して甘いものとかもらったりしてる。


「アナイナはお母さんとな」


「うん。行こ?」


「でも、着替える服が……」


「ちゃんと準備済み! お父さんの服はこっちね!」


 四つの籠の内二つをアナイナはぼくに押し付ける。


「し、しかし」


「いいからいいから。質問などは体洗ってからね!」


 アナイナが女湯へお母さんを連れて行き、ぼくはお父さんと一緒に男湯に入った。



「……エアヴァクセンですらないような湯処に、無料で入れるというのは奇跡だと思うんだが」


 湯から上がったお父さんの感想。


「奇跡じゃないよ。この町のみんなが使ってる」


「使えるというのが奇跡なんだよ」


「こんなにきれいな服をいただいてしまっていいのかしら」


 お母さん、まだ不安そう。


「大丈夫だって」


 辺りを見回せば、そろそろ仕事に向かう人たち。


「おはようございます!」


「おはよう、町長!」


「おはよう」


 挨拶をしていくみんなに、軽く手を上げて応える。


「……本当に町長なのね」


 町の人たちのぼくへの態度に、お母さんが信じられないものを見る目でこっちを見る。


「町長って言ったって、ぼくの仕事は必要な時にスキル使って、あとは書類仕事。みんなが手伝ってくれるし、……まあ確かにミアストよりは楽してるかもね」


「あ、そうだお兄ちゃん」


 思い出したようにアナイナが顔をあげる。


「今日からクイネさんの所の修行に戻りたいんだけど、お父さんとお母さんの案内頼んで、いいかな?」


「いいよ、今日はみんなが休みくれたし、アナイナも料理の修行したかったんだろ?」


「料理の修行? まだスキルも目覚めてないのに?」


「この町はスキルで職業をあてはめないから」


 ぼくが答える。


「スキル関係なく、やりたいことをやってほしい。だから学問所でも色々な仕事の基礎を教えるし、志望する仕事の手伝いとか修行をスキルが目覚める前からやってもいい」


「でも、スキルに当てはまった仕事をやる方が合理的じゃないの?」


 お母さんが首を傾げる。


「この町はやってほしいことはやりたい人に任せる。スキルがあってもやりたくないことをやらされるのはその人にとって不幸だと思ったから」


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