第113話・脱出(アナイナ視点)

 ナーヤーさんの後ろから、アレとリューが入って来た。


「初めまして。息子さんにはお世話になっています」


 ナーヤーさんは頭を下げると、わたしを見た。


「じゃあ、早速行きましょう」


「しかし、……私たちは」


「分かっています」


 ナーヤーさんは小さく頷いた。


「貴方たちにかけられているスキルも、SSランクの町から出ることの難しさも、離れることの不安も。でも」


 ナーヤーさんはまっすぐお父さんの目を見る。


「息子さんや娘さんの足手まといになりたくなければ、この町を捨て、私たちの町に来てください。準備は全て出来ています」


 お父さんとお母さんは真剣にナーヤーさんを見て、頷いた。


「アレ、リュー、お願い」


「任せるっす。位置は特定してるっす。あと、会議堂の方から衛兵が走ってきてるっす」


「遅いわね。ピーラーだったら即家の前に来ているわ」


 昔の雇い主を思い出すかのように呟いて、ナーヤーさんはアレを見る。


 アレは頷いて。


「「移動」!」



 次の瞬間、わたしたちは森の中で、ティーアとフレディさん、ヴァローレの傍に居た。


「スキルがついてるな」


 ヴァローレの瞳が金色になっている。


「は……い……分かるのですか?」


「僕の鑑定はオールマイティ。町から人まで鑑定できるし、スキルと解き方も鑑定できる」


「……息子がお世話になっている町の方ですか」


「お世話? 逆、僕たちがお世話になっているんだ」


 しばらくお父さんの頭の上あたりを見つめて、ヴァローレは呟いた。


「済まないが、手荒な真似になる」


 ヴァローレは頭一つ高いお父さんの服を引っ張ってしゃがませると、頭の方に手を伸ばし、何かを引っ張った……ように見えた。


  パシンッ!


 音がして、お父さんが一瞬よろける。


「お父さん!」


 慌ててお父さんの所に走る。お父さんは何かパチパチと瞬きをしていた。


「奥さんも」


 ヴァローレはお母さんの頭の上にも手を伸ばして何かを引っ張った。


  パシンッ!


 また音がした。


 お母さんがぐらりと倒れ掛かるのを、ナーヤーさんが受け止める。


「これで、追跡系のスキルは全部取れた」


 いや、全部取れたって簡単に言うけど、簡単に取れるもんじゃないからね? 追跡関係のスキルの目印スキルを解除するのって、本当に難しいものなんだって聞いたよ?


 改めてグランディールの人たちのすごさを思い知る。


 そして、そんな人たちを集めて町を造ったお兄ちゃんのすごさも。


「ヴァローレ、・・・! ・・・・・!」


「アナイナ、お前は戻ってからアパルに解いてもらえ。僕の解除方法は力技なんだ。本人に解いてもらったほうが後遺症とかもなくていい」


 わたしは渋々頷いた。


 お兄ちゃんの凄さを教えてあげたいけど、それはグランディールに行ってから。


「よし、移動するぞ」


 ティーアがお父さんとお母さんを馬車に乗せると、ガタゴト動き出した。


 アレのスキル、「移動」は、一度移動すると、次の移動までに少し時間がかかる。


 で、追跡系のスキルが、ついさっきまでお父さんとお母さんについてた。つまりミアスト町長がついさっきまでのお父さんとお母さんの居場所を特定できてるってこと。


 なら、そこから移動するしかないよね。


「ちなみに、ここエアヴァクセンからどれくらい距離が離れてる?」


「そんな離れてない。馬車で半日。騎乗してれば一刻半」


「……近すぎない?」


「出来るだけ早く二回目の移動が出来るようにしたんだ。アレの一回目の移動距離が短ければ短い程、二回目が早く、遠く、正確に移動できる」


「そっか」


 お父さんとお母さんは頭を押さえたまま呻いている。


「お父さんとお母さん、大丈夫?」


「SSランク町の人間のスキルがかかってたんだ、頭痛で済めば安いもんだよ」


 悪いね、丁寧な解除が出来なくて、とヴァローレが頭を下げる。


「いや……あのスキルがある限り私たちは子供たちの足を引っ張ることになった……解除してくれて、ありがとうございます……」


「アナイナのスキルの解除は……?」


「町に付いたら速攻で解除する。アナイナ、辛かっただろう」


 ねぎらいの言葉に、わたしはちょっと笑った。


「言いたいことが言えないのは辛かったけどね、でもしょうがない。お兄ちゃんの為でもあるし」


 森の闇の中、馬車はエアヴァクセンから離れる方向へ走る。


「エアヴァクセンから追手出てるっすね。さっきの合流地点に向かってるっす」


「最後のスキルの跡だからな」


 ティーアが馬車を急がせながら呟く。


「そこを抑えてから四方八方に追手を放つんだろう。リュー、追手はあとどれくらいでポイントにつく?」


「今の様子じゃあと四半刻もないすね」


「アレ、あとどれくらいだ?」


「確実性を望むならあと半刻は欲しいところだ」


「ヴァローレ。他に俺たちにスキルがかけられている可能性は?」


 ヴァローレは金の瞳でわたしたちを一通り見て、首を振る。


「ない」


「よし、あと半刻逃げ切るぞ」


 ティーアが馬車を急がせた。


 

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