第111話・SSランクの町、その実態(アナイナ視点)

 ベッドに入って横になっている。眠気はちっともやってこない。


 まだ計画には先があって、少なくともわたしが今日やらなきゃいけないことは終わったのは分かっているのに。


 頭の中がカッカカッカしてる。


 初めて間近で会った町長ミアストは、わたしの知ってる町長お兄ちゃんとは全然違った。


 滅茶苦茶偉そうで、町の人間は自分のもので、使い捨てになると思ってて、スキルしか価値がないと思ってて、えーと、それからそれから……。


 ああもう、悪口が次から次に溢れ出て逆に言葉が追っつかなくなってる!


 あんなの、町長じゃない。ただの悪いヤツ。


 いっそのことエアヴァクセンの全員グランディールに連れて行っちゃえばとか思うけど、さすがに今の状況でそれは無理。とりあえずお父さんとお母さんを連れてグランディールに帰ることを考えなきゃ。



     ◇     ◇     ◇



 結局うとうとも出来ずに夜が明けたので、わたしは気を紛らわすために料理することにした。


 お父さんとお母さんはまだ寝てる。


 わたしは台所に行って、SSランクの町とは言え実家が貧しいことを思い知った。


 食材庫には野菜も穀物も肉も魚も調味料もほとんどない。パンはパン屋で買うとしても、まともに料理は出来ない。


 ……グランディールでは、そんなことなかった。お金は流通してないけど、野菜も穀物もお肉や魚もちゃんと町から平等に配られていた。クイネ師匠は、こんなに食材が豊富で平等に配られているグランディールはすごいって言ってた。


 とりあえずお父さんのスキルで作れる火があるから、スープを作りながら、わたしはぼんやりと考える。


 SSランクの町だから、食材がないってことはないはず。多分、上流階級……いいスキル持ちや町長に近い家にはいい食材が行ってるはず。


 それは逆に、町長から遠い人間……お父さんお母さんみたいなショボスキル高上限や、低レベルの家には食材も何も回ってきてないってこと。


 ……何がSSランクよ。


 町の人みんなが幸せに暮らせてこそのSSランクでしょ! こんな、町に住む人が幸せにお腹いっぱいになれない町なんて、Eランク以下! っていうか、グランディールはランク外だった時からみんなちゃんとご飯食べれてたよ!


 じゃがいもと青菜のスープがいい匂いを出し始める。


 ん。上出来。


「アナイナ?」


 お母さんが起きてきて、お鍋の中を見て目を丸くした。


「お料理? あなた、そんなもの習ってたの?」


 それはぎりぎり引っ掛からないみたいだったので、わたしは頷いた。


「あら……スキル目覚める前の子供にもお料理を教えてくれるのね」


「朝ご飯にしよ?」


「そ、そうね」


 お母さんはパンを買いにパン屋に行って、わたしは器にスープを入れてからお父さんを起こしに行く。


 ここにお兄ちゃんがいればな……。


 ちょっと寂しいけど、その寂しいを何とかするための今回の作戦なんだからと気を取り直し、わたしはお父さんを揺さぶった。



「これが、アナイナの作ったスープ?」


 お父さんは一口飲んで言った。


「お、美味しくなかった? 習った通り作ったはずなんだけど……ごめん、まずかったら」


「いいや、美味しい。美味しいよ、とっても」


 お父さんはもう一口スープを口に含んで頷く。


「スキルもないのにこれだけおいしい料理を作れるなんて、とんでもないことだよ!」


「わたしの料理の師匠も料理のスキルはないよ」


 固いパンをちぎってわたしは首を振る。


「スキルなしで? 料理人?」


「・・・・・」


 スキルなくても料理は作れる、と言おうとしたら、アパルの「法律」が引っ掛かってきた。基礎的な料理はともかく、スキルがないのに創意溢れた料理を作れるのは珍しく、そんなスキルなし料理人のいる町は滅多にないから、引っかかったんだろうなあ。


「そうか。子供一人でも生きていける術を教えてくれる町なんだな……」


 お父さんが感慨深げに呟く。


「今日はどうするの?」


「しばらく家にいる」


 わたしは無理やり笑顔を作った。


「町長もわたしが出歩くこと嬉しいとは思わないだろうし」


「そ、そう?」


「学問所には行かなくていいのかい?」


「みんなに外のこと聞かれるだけだし、聞かれても答えられないし」


「そう、ね」


「分かった。何かあったらすぐに呼ぶんだぞ?」


「うん。行ってらっしゃい」



 家じゅうの窓を開けて、空気を通す。


 グランディールで学んだこと。家は時々風を通さないと息苦しくなってくる。いいお天気の時は特に窓を開けたほうがいい。


 外を見上げて、そこに水路がないのに気付いて、ああここはエアヴァクセンなんだなと思い、早く戻りたいなと思う。


 ちゅん、ちちち、と小鳥のさえずり。


 窓際に小鳥が数羽。


「あ。可愛い」


 指を出してやると、体を摺り寄せてくる。喉を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。


 そのついでに脚を触って、回収すべきものを回収する。


「パンくずでも食べる?」


 わたしが立ち上がると、小鳥は驚いたように飛び去って行った。


「ああ。逃げちゃった……」

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