第110話・町長とお父さんとお母さん(アナイナ視点)

 馬車で連れられて戻った故郷を見回すことも、両親の所にすら連れていかれず、わたしは会議堂へ連れていかれた。


 そこにいたのは、まずミアスト町長。


 それから、鑑定師。


 成人式でお兄ちゃんのスキルを鑑定した、町でも有数の鑑定師……らしいけど、その人の名前は誰も知らない。顔も知らない。フードを深くかぶって顔を隠しているから。


 あとは……知らない人が三人ほど。


 まずわたしに会うのは、両親じゃなくてミアスト町長と、わたしを調べるスキル持ち数人だろうって、サージュは言ってた。


 驚くほどにサージュの読みは良く当たるね。


 それとも、そうじゃなくて、ミアスト町長たちが考え読まれやすい単純な性格ってこともあるかもだけど。


 さて、ここでわたしがやることは。


「アナイナ・マークン」


 ミアストがえらそうな顔をして見下ろしてくる。


 椅子に座らされたわたしは、怯えた顔でミアストを見上げる。


「……はい」


「……どうして町を抜け出した?」


「お兄ちゃんが……出てっちゃったから……」


「だから後を追ったと?」


「はい……」


「……で、どの町に拾われた。どこにある町だ」


「・・・・・・・」


「何?」


「・・・・・・・!」


 言葉にしようとするけれど、言葉にはならない。


 何度か口をパクパクさせて、喉元を抑えて叫ぶように「グランディール」と言うけれど、言葉は声にはならない。


「どうだ」


「嘘はついていません」


 多分嘘を見抜くスキル持ちが首を振る。


「そして、声にならないのも事実です」


「何かのスキルか」


 ミアストがもう一人を見る。


「はい。言葉や行動を制限するようなスキルに影響されています。恐らく町のことを何か言ったり書いたりしようとすると制限されるのでは」


「内容を知ることは出来ないのか!」


「残念ながら……」


 ギリギリとミアストが歯ぎしりする。


 ふん。せいぜいいろんなスキル試して見なさいよ。あんたが言うこと聞かないって追い出したアパルは、SSランクの町エアヴァクセンでもスキル効果を排除できない実力者だもんね。


「・・・・・・・、・・・・・・・・・。・・・・!」


 わたしは一生懸命説明する。グランディールがどんなに立派で安心な町か。どんなに自慢できる町か。町の人たちがどれだけ町を好きか。


 でも、それは言葉にならない。頑張って声にしようとしても声にならない。


 それでいいの。ここでのわたしの役割は素直に言いたいことを言うだけ。嘘を見抜けるスキルの持ち主が気付かないよう、もうグランディールを褒めて褒めて褒めまくる!


 口をパクパクさせるわたしに、ミアスト町長はどんどん機嫌が急降下。


 紙を取り寄せてペンを持ち、書こうとするけれど、腕がピクリとも動かない。


「もういい」


 ミアストはムスッと言った。


 もういいって、拗ねた子供か!


 笑うを通り越して呆れてきた。


「同道していた町の人間は?」


「約束の地点に行く前に行ってしまったようです」


「チッ」


 舌打ちする。子供だ!


「……まあいい」


 ミアストはムスッとした顔で言った。


「この子供と両親がいて、追い出した町が両手を広げているんだ、クレー・マークンが帰ってこないはずがない」


 帰ってくるはずないでしょ。追い出しといて。


 わたしだって作戦じゃなきゃ来たくなかったもん!


「親の所に置いておけ」


「はい」


 わたしはそのまま連れ出され。


「アナイナ!」


 衛兵に囲まれて、十四年近く生活していた家の前で降ろされた。


 お父さんとお母さんが飛び出してくる。


「アナイナ! 無事か!」


「良かった、元気にしていたのね……」


 お父さんがギュッとわたしを抱きしめて、お母さんがその後ろで涙を拭ってる。


 ……そんな姿を見たくないから家を出たんだけどな……。


 衛兵が何かお父さんにぐちゃぐちゃ言って去っていくのを確認してから、わたしは家に入った。



「で、町の人たちは良くしてくれたのかい?」


 わたしは頷こうとしたけど凍り付く。


 動かないわたしに気付いて、お父さんは一瞬不審そうな顔をして、そして頷いた。


「そうか、町の人はお前にスキルをかけたんだね」


 少し寂しそうにお父さんは笑った。お母さんも泣きたいような顔をしている。


「もちろん、私たちはそのことでお前たちを拾ってくれた町の人を責めることはないよ。放浪者と町出した子供を受け入れてくれる町なんてほとんどないんだから、お前たちは幸運だった」


「・・・・、・・、・・・」


「言えないことになってるんだね。うん、無理に言う必要はない。でも、クレーが心配だな……」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「ええ、言いたいことは何となく分かるわ。クレーは大丈夫なのね?」


「アナイナはとりあえず寝なさい。疲れたろう」


 わたしは頷いて、グランディールの私とお兄ちゃんの家とは比べ物にならないほど粗末なベッドに横になった。


 お兄ちゃん、今頃心配してるだろうな……。


 多分計画通り行動中。


 全部上手く行って、早くみんなで、グランディールに帰りたい。

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