第106話・裏にいるミアスト
「追い出しておいて何を今更」
ぼくは鼻で笑った。
ぼくのスキル名はミアストも知っている。「まちづくり」。ただレベル上限が1だということで追い出しておいて、役に立っていそうだから連れ戻す? 図々しい。同じ町長として情けない考え方だとしか思えない。
「とはいえ……放置はできないね」
「ご両親が人質に取られているようなものだからな」
「この文字でわかるけど」
ぼくはお父さんの手紙を指した。
「明らかに歪んでいる」
「強制的に書かされたか、あるいは危機を伝えているか」
どちらにしても、二人はミアストの監視下にあるだろう。
「……どうする?」
「まだミアストはぼくを舐めてかかっている」
サージュの問いに、ぼくはシエルがデザインした椅子の背もたれに体重を預け、目を閉じる。
「お父さんから手紙が来れば、素直に町の名前を教えると思っている」
「……ああ」
「それが不愉快だ」
ぼくは言い放った。ここにいない
「多分、あいつの頭の中のぼくは追い出された時のまま。親がいないと大したことも出来ない子供のまま」
怒りか。怨みか。憎しみか。自分でも分からない感情に振り回され、デスクに置いた拳が震える。
「そんな子供を、一度は切っておいて、役に立ちそうだからと親を使って呼び戻そうとする。それが許せない。同じ町長として」
「ほう?」
「町として連れ戻したいなら町長の名前を出すべきだ。
「どんな町であってもSSランクとは比べ物にならない、そう思っているな」
サージュの言葉にぼくは頷く。
「どんな町であってもエアヴァクセンの名を出せばぼくを連れ戻せる、そしてぼくがSSランクの町に帰って来れると知ったならすっ飛んで帰ると思われてるんだ」
それが、ムカつく。
「エアヴァクセンが何だってんだ。グランディールはCランクではあるけれど、エアヴァクセンと正面から勝負して勝つ自信がある。家具、陶器と言う名産があり、住民の望みの家が建つ。水に覆われ守られた空飛ぶ町。どこにもエアヴァクセンに負ける要素がない」
「だが、まだグランディールを知らせるべきではない」
サージュが眉間にしわを寄せて呟く。
「グランディールが全く無名からスタートして、家具の町で、ファヤンスを取り込んだことで陶器の町になったのは知られている。それが
「ふざけるな」
ぼくの声は、ぼくが予想したよりも低い声だった。
「グランディールはぼくの町だ。ぼくがみんなと一緒に築き上げた町だ。みんなと一緒に、みんなで仲良く暮らすため!」
がん!
拳をデスクに叩きつける。
「そんな大事な町を、あの野郎の名誉欲なんぞの為に差し出してたまるか!」
エキャルがビクンッと竦み、アパルとサージュが険しい顔をした。
叩きつけた拳が震える。
「……では、親は?」
ぎり、と歯が鳴る音がする。
「……それは」
「見捨てるのか?」
アパルが真っ直ぐぼくを見て聞いてきた。
「……見捨てられるのか?」
「……そこまで
お父さんとお母さんは、何も悪くない。ただぼくが特殊なスキルを持っていたというだけだ。それだけで、
「全く、ふざけるなだよ」
ピーラーとデスポタの罠に飛び込んで、とっ捕まった時を上回るほどの無力感。
あの時は口で攻撃することが出来たけど、今は身動きすら取れない。
ミアストはぼくが飛び込んでくるのを待っている。お父さんとお母さんに会いたくて戻ってくるのを待っている。そして、戻ってきたら、二人を人質に使われる生活になるだろう。
ミアストに使われるのは嫌だ。お父さんお母さんに迷惑をかけるのはもっと嫌だ。グランディールを去るのが一番嫌だ。
考えるけど、名案が出てこない。
それまで目を閉じて考えていたサージュが聞いてきた。
「何も知らない子供の振りをして、返事を返したらどうだ?」
「は?」
「町の人に名前を言っちゃいけないと言われたから、約束を破れませんと」
「だけど、それじゃあ……」
「いや、それだけの答えだったらまず
アパルも天井に視線を向ける。
「子供だから大人に言われたまま返した、とミアストは思うだろうね。町の大人に言うな、と言われて答えられないのは当然のことだ」
「それで?」
「このまま
「法律」と言うスキルで町民をガンガンに縛ろうとしたミアストを見捨てて町を出たアパルは、ミアストを平然と馬鹿にする。
「だったら、次に町の名前と自分の名前を出してくるだろう。文句があるか何か返して見ろと。そこで判断を考えればいい」
「だけど」
「今は町長のご両親にどうアプローチすればいいか、情報がない。返事待ちの間にミアストが何を考えて何を目的としているか。それを探る」
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