第105話・怪しい影
エキャルを頭に乗せて戻るけど、なんだかエキャルがおかしい。
そわそわしているというか。
今までぼくの頭に乗ってきた時は頭の上でまったりと落ち着いているのに、何か伸び上がったり位置を直したりと落ち着きがない。
「エキャル? どうしたの?」
エキャルが長い首を伸ばして、ぼくの顔を逆さに覗き込む。
「?」
黒い潤んだ瞳が、困ったような、悩んでいるような感じで、こっちを見ている。
「……何かあったのか?」
当たり、のようだ。
思えば、昼休憩から呼び戻すのにわざわざエキャルを使うというのはちょっとおかしい。
今までも似たようなことがあって、サージュかアパルが呼びに来たことは何度もある。エキャルが来たからと言って、そんな所で手を抜く二人じゃない。
エキャルが二人の言うことを聞いてこんな簡単な仕事をわざわざ引き受けることも、まず有り得ない。エキャルは結構プライドが高い。昼が終わったから呼んできてくれなんて仕事は引き受けない。おまけに走り書きで「休みは終わり」と書かれて。
「……厄介事の気配がするな」
「休みは終わり」。サージュの走り書き。エキャルが来ればもう終わったかな、と思えるだろうに。わざわざそんなことを書くということは。
「エキャル、肩の方留まって」
何かあった。間違いない。
ぼくは心の中で町長の仮面をつけて、若き町長の顔になって会議堂へ戻った。
「戻った」
ぼそりと言って、大会議室へ入る。
サージュとアパルが振り返る。
空気が固いのを肌で感じられる。この二人がここまで警戒する何かがあったんだ。
そして、見慣れないものがひとつ。
伝令鳥。
エキャルではもちろんない。トラトーレやデレカート所有の伝令鳥でもない。これまで見た伝令鳥の中でも少し色が浅い。
グランディールにやってきた、持ち主不明の伝令鳥。
「町長」
「何処からの鳥だ?」
既に町長モードに入っているぼくを確認して、アパルが言った。
「エアヴァクセンからです」
表情には出ない。声も出さない。でも、ぼくはかなり驚いていた。
エアヴァクセンから?
あの町から手紙が届くなんて、ないはずだ。
グランディールがファヤンスを吸収したという報は、当然、
「町長宛?」
「いや……」
サージュは伝令鳥に視線を向けた。
その目の前に置いてある手紙。
「クレー・マークン様」
……ぼく? ぼく宛?
「町や町長宛ならともかく、直接町長の名前が書かれていたから」
うん、それがおかしいところ。
ぼく個人に伝令鳥? 町長でも町でもなく、ぼく?
あるとすれば両親。
でも一番安い伝令鳥でも、あの二人が借りられるとも思えない。
……とりあえず、読んでみなければ始まらない。
封の印は……箱とその中の小さな石。ほくち箱。お父さんの印だ。
ついこの間手紙のやり取りをしたばかりなのに。何かあったか? 伝令鳥を飛ばさなければならないほどの緊急事態?
椅子に座り、ペーパーナイフを手に取って、封を開いた。
『クレーへ。』
お父さんの字だ。間違いない。
『お前たちを助けてくれた町の人に礼がしたい。町の名前を教えてもらうことは出来ないか?』
…………。
それだけ。
……おかしい。
ぼくは町の名前を出さなかった。お父さんお母さんからの返信でも町の名前を聞かなかった。それが一番安全だと思ったから。
それが、わざわざ伝令鳥を用意して?
町の名前を聞くためだけに?
自分でも険しい顔になっているのがわかる。
「町長」
顔をあげると、心配そうなアパルとサージュの顔。
ぼくは手紙を机の上に置いた。
「町の名前を……?」
「言っておくけど、ぼくの両親は伝令鳥を所有するほど裕福じゃない。エアヴァクセンでもどっちかって言うと下のランクの住民。借りるのでもしばらく生活費を切り詰めなきゃ無理」
ぼくは二人を見た。
「
アパルとサージュは顔を見合わせ。
「理由は」
「ぼくはエキャルに頼んで出した手紙で町の名前は書かなかった。両親も町の名前は聞かなかった。もし誰かに見られでもしたら厄介なことになるから。両親もそれは分かっている。なのに、今更町の名前を教えてくれ?」
「
サージュが腕を組む。
「ぼくが何処かの町に拾われたことはバレた。それは間違いない」
どの町にも紹介状を書いてもらえなかった追放者には、行ける町がない。どの町に行っても役に立たないからだ。
そんな形でぼくを追い出した
「
「役立たずと思って追い出した
アパルの回答でほぼ間違いないだろう。
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