第104話・町の魂

「????」


 更に訳が分からないという顔をしているぼくに、ヴァダーは肩を竦めた。


「この町は、お前のでもってんだよ」


「あの」


「分からないか? お前、人に関するはいいんだ」


「引き?」


「そう、。なんだかんだ言ってアナイナは色々出来るヤツってのはお前も認めてるだろ?」


「うん、まあ」


「その直後に出会ったのが俺たちで、俺たちからサージュとファーレ夫妻」


「うん」


「シエルのおかげでスピティに納められる家具を作れたし、そこでポルティアと出会ってデレカート商会とトラトーレ商会って二大商会と取引が出来た。その帰りにアレやリュー、ヴァローレみたいなめっちゃくちゃ有能な連中がいる盗賊団を引き入れた。普通ここまで都合よく必要な人材に連続で巡り合えるなんてことはないぞ」


「でも、次に会ったのがピーラーとデスポタじゃないか」


「でも、外れじゃないだろ」


「外れだろ?」


「いや。むしろ当たりだ」


 ヴァダーは空中を走る水路を見上げながら説明を続ける。


「ピーラーの無茶な注文にこたえたおかげで家具の町グランディールはその名を馳せた。デスポタからはクイネやピェツと言った有能な人間をごっそりいただけた。被害は町長が頭を殴られたくらい。……まあくらいっって言っちゃなんだけどさ、それだけで町は大きくなった。違うか?」


「詭弁のような気がするんだけど」


「でも事実だろ」


「事実っちゃ事実だけど」


「一人の追放者がスキルがあるとはいえ一年もたたずにCランクの町を造るなんて、普通あり得ないだろ。お前の才能って言うか運って言うかがなければ、グランディールは文字通り空中崩壊しててもおかしくなかった」


 ヴァダーは水路から時折落ちてくる水滴を、指先で弾きながら言葉を続ける。


「なんでかは分からないけど、お前はグランディールを造るために生まれてきた気がするよ」


「スキル「まちづくり」があるから上手く行ってるだけだよ。ぼく自身はほとんど何もしてない」


「これはサージュの受け売りだけどさ、町には魂があるっていうんだと」


「は?」


「そもそもスキルを持てるのは自我と魂を持っている存在だけだって言う。なら、町スキルを持っているって言う存在は魂を持っていてもおかしくない。スキル学にはそういう魂論があるって言ってた」


 確かに……人間以外でスキルを持っているのはごく一部の動物だ。伝令鳥や宣伝鳥もその一種。


 人間と意思疎通が出来る動物には稀にスキルが宿るという。伝令鳥はスキルが宿った鳥同士を繁殖させて安定してスキルを持った鳥が生まれるようにしたのだという。それを聞いた時は人間って勝手だな、と思ったものだけど。


 なら、「町スキル」を持っている町は?


 グランディールはぼくのスキルを町スキルと言い訳して使っているけれど、明らかに町がスキルを持っていてそのスキルに従って運営されている所が多い。


 「価値の町」エアヴァクセン。「家具の町」スピティ。「芸術の町」メァーナス。「陶器の町」ファヤンス。「鳥の町」フォーゲル。


 それだけじゃない。伝説の町にも、町スキルがなければやっていけないだろう町はある。


 「空飛ぶ町」ペテスタイ。「樹上の町」シルワ。海上の町「マル」。「地底の町」オンデゥル。「海底の町」ズプマリーン。「湖の町」オーディア。


 世界樹の上や遥か海の底など、人間が住めるはずのない場所に出来た町。普通の人間が行き来不可能とされた場所で、安全に暮らしていた伝説の町だ。


「……いや」


 ぼくは言葉を選びながら言った。


「もしかしたら、スキルがあるのは町ではなく町長かも知れない」


「町長?」


「うん。町長がスキルを持っていて、町をそういう風に作ったのかもしれない」


「いや、それは……あー……」


 ヴァダーも考え込んだ。


「……そうだな、そう考えてみれば辻褄つじつまが合うんだ。新しい町が必要になった。だから「まちづくり」のスキルを持った人間が生まれた」


「で、その人間の周りに同じような町を造る人間を寄せ集めるようにした、そういう風に言えば、今のぼくの状況は分かる」


「んー……デカい町は結構最初からデカい町だったって話が多いけど、何で出来たばっかでそうなのかって不思議だった。「まちづくり」で強力なスキルの持ち主がデカい町を造ってそれでやって行けるようにした、か……。まあ問題は、誰が「町が必要」って考えて「まちづくり」のスキルを誰かさんに与えたのかってことになるな」


「そうなんだよ。一般ではスキルは精霊の賜物たまものって言われてるけど、一般のスキルから見てもこんな大勢に影響を与えるような極端な力を精霊が三つ四つ寄ってたかったって与えられるもんじゃない」


「神様って存在は人間を生み出して人間を手助けする精霊を作った後創造に興味を失くして世界を去ったって言うから、神様でもない」


 その時、バサバサッと羽音が聞こえた。


「エキャル?」


 美しい緋色はエキャルの羽根の色。


「そろそろ休憩は終わりだって言いに来たんじゃないのか? エキャルもサージュ辺りの伝言なら届けてくれるだろ」


「うん」


 一応足の封入れを見て見ると、「休みは終わり」の走り書き。


「悪かったな、変なこと聞かせて。せっかくの休憩時間に」


「いや、久々に色々考えれてありがたかったよ。水路は頼むな。ヴァダー」


 ヴァダーは手を振って歩いて行ったので、ぼくも会議堂へ向かった。


 会議堂で待っているのが何かも知らずに。

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