第103話・厄介な才能
子供たちが学問所に通うようになってから、各所の子供関係問題は消えていった。
畑や牧草地で走り回って収穫物をダメにされたり、火の入っていない窯に忍び込んで危ういことになったり、そういうことはまるっきりなくなった。
うん、やることがないとろくでもないことしでかすのはどこの誰でも同じ。
アナイナは町長の妹で一番年上と言うことで、子供たちのリーダー格になっていた。と言っても子供たちを率いて何かやる訳でなく、むしろ今まで受けたことのない授業に退屈して遊びだす子供を
で、アナイナはプラスして料理も習っている。
週三回食堂に通って、下拵えから学んでいるそうだ。
基本的にアナイナは一度始めたら極めるまで諦めないという、悪い方に向かえばヴァリエ以上のストーカーになるけどいい方に向かえばグランディール一の努力家になる性質を持っている。料理を習う目的はぼくに好かれるため……うん、兄妹とは言え目的はヴァリエと変わらない……だけど、料理にその性質を振り分ければ、師匠のクイネの技を全部覚えるまでやるだろう。それに自分流のアレンジも加えて。
……アナイナは、ぼくが大好きで大好きで何をするにもぼく優先と言うブラコンなところさえなければ、興味を持ったものを完璧に学ぶまで決して投げ出さない努力型の天才なんだよなあ。
どんなスキルが目覚めたとしても、それを有意義に使えるだろうし。
思えばぼくが「まちづくり」のスキルを使い始めたのも、アナイナの提案なんだし。それを考えると発想力もあるかな。
可愛くて勉強が出来てダンスとか芸術系も得意で、彼氏の一人や二人いてもおかしくないと思うんだけど、残念ながらアナイナの彼氏は、ぼくが知っている限り一人しかいたことがない。
ある日、アナイナが五歳くらいの時か、「かれしなのー」と学問所の同級生を連れてきたことがあった。
家族全員笑顔で出迎えて、ちやほやしてたらアナイナが自分から彼氏を追い出した。
「なんで?!」と聞いたら、「おにいちゃんはダメって言わなきゃダメなの! アナイナはおにいちゃんのだからダメって言わないとダメなのー!」と大泣きした。
要するにぼくに嫉妬させたかったんだ。
彼氏は泣いて家に帰って、アナイナはぼくに
五歳で既にぼくに執着してたんだよなあ。
両親も、アナイナの天才性質を喜んではいたけれど、何をするにもぼく優先、ぼくに興味持ってもらえなかったらどんなこともやめちゃうワガママさには手を焼いていた。
ぼくに彼女がいたことがあったけど、散々いじめて追い出したっけ。さすがにあの時はアナイナを怒った。自分が気に入らないからと言っていじめたりするのは最低の人間のすることだ、と激怒したら、泣いて謝ってもうしませんゆるしてお兄ちゃんのお友達とかにイジワルしませんと言って、それから数日後男友達が「お前の妹なんかあったの? 俺にイジワルしてこないんだけど」と言っていたのでぼくの知らないところで他の友達に嫌がらせしてたのは間違いない。
こう見えても妹で苦労してるんですぼく。
妹だからワガママも可愛いとは思う。思うんだけど、けど! これが赤の他人でここまで執着されたら、正直逃げ出していた可能性もある。その後を追いかけてくる可能性も大きいけど。
実際、町から追い出されたぼくの後をスキルもなく追ってくるという荒業まで繰り出したしな。出っくわした盗賊団が全うな盗賊だったらお前、何処かに売られてた可能性だってあるんだぞ。
本当に、ぼくが絡むと厄介な人間に変わるんだから。
でもま、しばらくは料理に夢中だろうから、ぼくや周りの人に何かやってくることはないだろう。……ヴァリエはどうだか分からないけど。
……ぼくは厄介な人に好かれる才能でも持ってるんだろうか。全然嬉しくない才能だけど。
「俺は悪い才能じゃないと思うけどね」
久しぶりに出来た平和な昼間、水路のチェックを終えたヴァダーとアナイナ差し入れのサンドイッチを食べながら話をしたら、ヴァダーはこう返してきた。
「???」
サンドイッチをかじりかけたまま停止しているぼくに、ヴァダーは苦笑した。
「どういう意味?」
「行く当てもなく追い出された後に妹がついてきた」
「うん、厄介なのが」
「その次にもっと厄介なのに出会っているじゃないか」
「もっと厄介……?」
「俺たち」
ヴァダーは平然と答えて指に付いた脂を舐めとる。
「身を守る術もないのに盗賊に出会うなんて、厄介以外の何がある?」
「でも、結局君たちはいい人だったじゃないか。君たちのおかげでグランディールも出来た」
「結局いい人じゃなかったら、お前は今頃盗賊の下っ端、妹は慰み者だったぞ」
「そりゃあそうだけど、結果そうじゃなかったろ?」
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