第97話・飛び立つ鳥
会議が終わって、その翌日の夜。
会議堂の町長室に入って、ぼくは羽ペンを手に取った。
明日にはエキャルを飛ばして手紙を送れるようになる。だから、朝一番に手紙を送れるように、書いておこうと思って。
ペンをインク壺に突っ込んで、手を止める。
……なんて書こう。
エアヴァクセンのミアスト町長は、そろそろグランディールの存在に気付いてるだろう。そしてファヤンスのデスポタ町長と並び立てるほど性格が悪い。自分が一番じゃないと気が済まないタイプ。成人式で追い出したぼくが噂の
さて、どう書こう?
しばらく考えて、ぼくは書き始めた。
お父さん、お母さん。
元気ですか? クレーです。
長い間連絡を取れなくてごめんなさい。本当ならアナイナがついてきた時点で何か連絡しなければならなかったのに。
アナイナも、ぼくも、元気です。
今は二人で、とある町で暮らしています。
町の名前とかは書けません。
でも、安全な場所で合法で平和に暮らしていることは間違いないので、安心してください。
お父さんもお母さんもアナイナのことが心配でしょう。ぼくもアナイナをエアヴァクセンに帰したいけど、事情があってそれも出来ません。
だけど、今ぼくたちは幸せに暮らしてます。
ちゃんとご飯も食べてるし、家もあってお湯にも入れてるし、キレイな服も着れています。ぼくは印も作りました。
優しい人たちに囲まれて、平和に暮らしています。
色々あったりもしたけど、ぼくたちは笑って元気で暮らしています。
お父さんもお母さんも、ぼくたちのことを心配しないでください。
もし手紙をくれるなら、この手紙を持って行った伝令鳥(エキャルラットと言う名前です)に、返事を持たせてください。もちろん、伝令鳥がぼくからの手紙を運んできたことはナイショにしてくださいね。
それでは、また手紙を書きます。
お父さんもお母さんも、お元気で。
クレー・マークンより。
最後に作った印を押して、手紙を何度も読み返す。
机の傍にいつの間にか出来上がっていた止まり木に止まっていたエキャルが首を伸ばしてくる。
「これは明日お前に出してもらう手紙だからね」
エキャルの頭を撫でながら言い聞かせると、エキャルは神妙な顔で頷く。
「エアヴァクセンまで行けるね?」
もう一度頷くエキャル。
「じゃあ、今日はもう眠りなよ」
ぼくはベッドに入り、止まり木で丸くなっているエキャルを見て、ランプの灯を細くした。
◇ ◇ ◇
翌朝。
ぼくが書いた手紙を封筒に入れ封をして、封の上に印を押す。
そして、エキャルの首の封入れに入れて蓋をした。
エキャルを抱えて外へ出ると、アナイナが会議堂の前で待っていた。
「アナイナ」
「お父さんとお母さんに手紙出すんでしょ?」
アナイナはちょっとエキャルから体を離して笑った。
「わたしも見送ろうと思って」
「そうなんだ」
門に向かって歩きながら、言葉を交わす。
せっかく手紙を送るんだからお前も書いたら、とアナイナに言ったんだけど、家出娘だから、出てきた家に手紙を出せない気分なんだそうだ。
でもエキャルを見送りに来たんだから、気にはかかってるんだろう。
「じゃ、お父さんとお母さんに届けてね?」
緋色の頭を撫でて、キーパが守る門を抜けて、エキャルを抱えた手を前へ突き出す。
エキャルはうーんと体を伸ばし、翼をはばたかせ、綺麗な飾り尾羽の痕跡を残して飛び去った。
三日間一緒にいたエキャルが行ってしまった寂しさが、少しぼくの心の傷になる。
「お兄ちゃん、なんて書いたの?」
「名前は言えないけど町にいること、衣食住困ってない、元気、……それくらい」
「グランディールって名前は書かなかったの? お兄ちゃんが町長だってことも?」
「
「あ」
ぼくは頷く。
「そういうこと。
「……そうだね」
「だから、伝令鳥を借りれるほど親切な町がぼくらを拾ってくれて面倒見てくれてる。その程度の内容でいいんだよ」
「赤鳥、捕まらないでしょうね」
「エキャル」
「エキャル」
言い直すと言い直した。そういう素直なところは好感が持てる。
「伝令鳥は簡単には捕まらないし、受け取り主以外が伝令鳥を捕まえて手紙を読めばそれは犯罪。もし
「訴えるって何処に?」
「フォーゲル。伝令鳥関連の犯罪を裁く全権限をあの町は持っている」
鳥の町はただ単に鳥の繁殖をしているだけではなく、鳥に関する犯罪……特に伝令鳥や宣伝鳥に関わる
「そうなんだ。じゃあ、むしろ捕まえて読んでくれた方があいつを引きずり下ろせるのね?」
……なんでそう、考えが極端から極端に行くかなあ。
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