第95話・町長の外付け威厳

 ひっそりこの間の拉致監禁事件を突かれたので大人しく謝ってお……く……?


「こらっ! エキャル!」


 エキャルが猛然とサージュをつつきに行ったのを慌てて抱きとめる。


「ダメ! エキャル、気にくわないのを突いちゃダメ!」


 バサバサバサッと翼を動かしてぼくの制止を聞かないでサージュを突こうとするエキャルを必死で抱きしめて、サージュから遠ざける。


「……しつけは?」


「基本的に生まれつきやっていいことと悪いことは記憶しているみたいだけど、性格もあるって……」


「アナイナが増えたようなものだな」


 え。アナイナ?


「町長がきっちり言い聞かさないと、エキャルが町民に嫌われ、ひいては町長が嫌われるぞ」


 サージュの言葉に暴れていたエキャルがハッと息を飲んだように身動きした。


「そう、アナイナ。エキャル、お前が町長クレーのことが好きなのはよくわかったが、反対意見とか反論とかも聞かなきゃいけないのが町長というものだ。反対する人間を突いて回ると、町長の威厳が落ちるぞ」


 人間の言葉がわかるという伝令鳥はしゅん、と首を垂れている。


「だから、意見の違う程度の理由で突きに行ったらいけない。お前の飼い主は反対されるのが職業なんだから」


 首がますます落ち込むように急カーブ。


「お前は堂々と町長の傍に居ればいいんだ。反対意見言うヤツを町長の横で睨みつけてやればいい。睨むだけ。それだけで相手は威圧されるし町長にも威厳がつく」


「伝令鳥で威厳になるの?」


「なるともさ。伝令鳥……しかも高価なものを個人的に使うのは高ランク町のトップかギルド関連のトップしか持てない。エキャルラットは見た目で分かるほどトップクラスの伝令鳥だ。それがここまで懐くというのは、立派な人間であることとイコールになる。……無論、躾のなっていない伝令鳥が突いて回れば単に躾の出来ない情けない町長となる」


 人間ならメモ取ってるような顔で、エキャルはうんうんと頷く。


「しっかりと躾が出来た伝令鳥として、町長の威厳を上げる努力をしてくれ」


 エキャルは首を縦に振る。


 そして、机の上、ぼくの隣になるくらいの場所に位置取って、じろっ、じろっと周囲を見渡す。


「そうそう、そういうことだ」


「なら町長の左後ろ隣くらいに止まり木を作ったほうがいいんじゃ?」


「そうだな。伝令鳥が睨みを利かすのにはそれがちょうどいい」


 言っていると、床から座っているぼくの頭の左後ろくらいに綺麗な止まり木が生えた。


「エキャル、こっち」


 エキャルは短い距離をゆったりと飛んで、止まり木に収まった。


「じゃあ、話を戻して、未成年学問所を今すぐにでも作る、でいい?」


「ああ。これは反対意見はないと思う」


「大人向けの学問所は……まず、希望者が何人いるかを聞いてからだな」


「その前に、この町のルールをファヤンス組に説明してなかった」


「?」


「ほら、子供は成人しても本人の希望なしで町から出さないとか、ああいうの」


「ああ、なるほど。……でも契約書に書いてあったはずだが?」


「あの状況で書類を全部読んで理解して納得して署名する人はめっちゃ少ないと思う」


 もう早く町を出て、条件のよさそうなグランディールに行こうとしていた人々が、いちいち詳しく文章を読んでいたとも思えない。何でもできる町、と言うのくらいだろうなあ、覚えてるの。


「周知して、納得できないのであれば他の町へ行ってもらう、と言うことになるかな。ファヤンスはもうないからスピティ辺りで」


「うん。アパルが周知してくれる?」


「ああ。契約書に書いた内容を、周知人に広めてもらう。それでいいかい?」


「OK」


 ぼくは頷いた。ふと左後ろを見ると、よしよしと頷くエキャル。


「建物を建てるのは町長と、二人の先生に頼む。会議堂の隣辺りでいいか」


「分かった。明日にでも作る。必要なものとかも先生たちに聞いて揃えさせる」


 うん、うんと二人が頷く。


「学問所のお知らせと町の決まりの周知は周知人に読み上げさせよう。ファヤンスは陶器に集中しすぎて、一部読み書きが不得手な人間もいるらしいから」


「それでいいよ」


 ぼくは頷く。


「その結果で町に居残るか出て行くかの判断をしてもらって、出て行く場合は会議堂に来て書類を提出。グランディールの場所と空を飛ぶということだけは守ってもらう……と言うか、アパルのスキルで黙らせられるな?」


 サージュの問いにアパルは頷く。


 グランディールに少しでもいた人間が守らなければならないというアパルのスキル、「法律」だ。


 「法律」は、特定の場所に住む人間に決まりを守らせるというもので、約束程度の拘束力しか持たないものや、その場所を去っても守らなければならない強力なものまで色々使える。今グランディールで使われている「法律」は色々あるけど、町の人間以外にグランディールの居場所と空を飛べることを黙っていること、これがだ。それ以外は約束程度。


「じゃあ、今日の会議はこれで終わりということで」


 アパルとサージュが立ち上がり、ぼくは片腕を突き上げて体を伸ばした。関節がパキパキ言う。

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