第91話・子供たちに教えるために
う~ん。
町をぶらぶらして見聞きしたことを思い出し、問題点を洗い出す。洗い出すほど問題点がたくさんあったわけじゃないけど。
今の状況だと子供問題を優先したほうがいいなあ。
子供が何もすることがないからあちこちを探検して回ってるわけだな。
探検が悪いとは言わないけれど、畑を踏み荒らされたり家畜を蹴られたり窯に入り込まれたりするのは困る。うん、とっても困る。
畑はまだ可愛いもんだけど、家畜蹴飛ばして蹴飛ばし返されたら大怪我だ。窯に入ってるの気付かないで火を入れたら大惨事だ。
そうなる前に手を打った方がいいなあ。
学問所を作ることは予定していたけど、早めたほうがいいかもしれない。教える人はファヤンスから来た人の中に学問所の先生をやっていた人が二人いたので任せるとして、何を教えるかをまだ決めてないし。何を教えるかは町の方針とか色々関わってくるので、ファヤンスの教え方で教えられても困るので後回しにしようと思っていたけれど、そういう状態じゃなさそうだ。
会議堂に帰って、二人の
「そうか……子供が」
妻帯者のサージュ、難しい顔。
「うん。町民の五分の一が成人未満。それが暇を持て余して町中走り回ってる。それはいいんだけど大事な場所や危ない場所にも行ってるんだ。牧草地で家畜に近付いたり、窯の中に入ったり」
「それはまずいね」
アパルも渋い顔。
「会議堂に入り込んでくるのも時間の問題だな」
「うん。それで、学問所を早めに開ければ、と思ってるんだけど」
「確かに、暇な時間を減らせばそれだけ走り回ることは少なくなるってことだ」
「ただ、何を教えるか……」
「先生も呼んできて一緒に相談しよう」
というわけで呼び出されたのが、ケンナリ・レーラール先生とチチェル・プルファソラ先生。
「私たちの意見を聞きたいとのことですが……お役に立てるか」
ケンナリ先生渋い顔。
「わたしたちは
「うん。敢えて言うなら何でもできる町」
ぼくの言葉に、チチェル先生も難しい顔。
「どういう方面を教えればいいのか、難しすぎます」
「仕事の内容とかは要らない」
ぼくは天井を見上げて呟く。エキャルがバランスを取ろうとでこの上に乗る。く、首が! 首が!
慌てて手を挙げてエキャルを持ち上げて頭を戻し、乗っけし直す。危ない、首がグキッていうところだった。
「何を教えれば?」
「読み書き計算は基本だよね」
「ああ」
ケンナリ先生が即座にメモ帳を取り出してペンを走らせる。
「後は動植物の育て方とか」
「町の決まりを教える授業も欲しいな」
「やっていいことと悪いことも」
「基本的に子供は希望する限りこの町に残留できるから、町で住むのに問題がない程度の勉強をしてもらえれば」
「え?」
二人の先生が目を丸くする。そう言えば町民の子供は皆町民と告げるのを忘れてた。
「うん、スキルに関わらず誰でも受け入れるなら、成人になってスキルが明らかになっても町から追い出さないってことになるだろ?」
「あ……ああ」
「そうね、子供たちは町に残ってくれるのよね……」
「才能ある子だったのに陶器関連のスキルでも衣食住関連のスキルでもなければ追い出されるファヤンスじゃないんだな……」
「もちろん犯罪とかは論外だけどね」
「もちろん」
「そういうところも教育しなければならないわね」
先生たちの目がキラキラしてきた。
「ああ、そうだ、印の作り方を教えられる人っている?」
「印、ですか」
印は自分を表すもので、契約書類なんかには必ず自分の印を押す。ぼくの町長印も同じ。そしてこの印は自分で作ること。自分で作るなら、同じ図柄を彫っても差が出るから本人証明になる。
で、造るのは十五歳。成人になったら絶対作らなきゃいけないのだ。
作り上がった印が本人の証。スキルのように完成した瞬間に本人契約され、なかなか壊れないよう強化されるから、紛失したりしない限り彫り直しは効かない。だから、慌てる人が結構いる。印の彫り方なんて知らない、でも自分だけの印! と呼べるものを作りたい、とかで、めっちゃへたくそなのとか、変に尖った図柄とか、自己愛が激しいのとかが出てきて、頼むから彫り直させてくれ! せめて勉強させてくれ、それから! と思う人が結構多いらしい。
「十五歳近い子供に印の彫り方とかを教えてあげれば、後悔しない印づくりが出来るんじゃないかと思って」
「……ちなみに町長は?」
「……町長印しか持ってません。実は」
ち、違うよ? ぼくが持ってないから教えてもらおうと思ったんじゃなくて、未来の成人に印づくりで後悔してほしくないからで。
「ファヤンスの印造りの名人がいますから、その人に教えられるか聞いてみましょう。町長が個人レッスンを受けて作って、それを子供たちに教えられそうであれば」
「……はい」
うん、町の用事なら町長印でいいけど、親に送る手紙は個人印がいるんだよね……。
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