第90話・町を巡って
そのままぶらぶらと歩いて、今度は一面の緑の世界に辿り着く。
家畜を飼育する牧草地は、人間の住んでいる場所より広いかもしれないのは、家畜担当組が家畜をのびのび育てられると思った結果、らしい。
実際、あちこちで牛や馬、山羊や羊がのんびりと草を食み、鶏が地面を
家畜売買業者のゾーオンが連れてきた家畜を全部町に預けてくれて、飼育も担当してくれているので、ティーアやフレディをはじめとした動物関連のスキルの希望者がほぼ放し飼いで様子を見ている。放し飼いだけど寝る時には家畜小屋に戻ってくるそうだ。
家畜たちもこの牧草地が一番安全と分かっているし、お腹もいっぱいになるし、十分に広いので逃げ出すこともない。牧草も食べる端から伸びるので、何の問題もない。
結果、家畜たちはのんびりゆったりと牧草地で遊んでいる。
で、牧草を蹴散らして走り回るのが子供たち。
「こーら、豚をまたがない!」
強面のティーアに怒られて、慌てて子供たちが逃げていく。
「ティーア!」
声をかけると、ティーアが気付いてこっちに近付いてくる。
「町長。様子を見に?」
「うん。どう?」
「まあ、子供たちが入り込むこと以外は特に問題もなく」
「つまり子供が問題と」
「ああ」
う~ん。
「家畜の数が足りないとかは?」
「いや、家畜も子供を生んでいるし、贅沢をしなければ肉や乳がなくなるということもないだろう」
「そうか。何かあったらすぐに言って」
「ああ、ゾーオンにも伝えておく」
その視線がぼくの顔から頭上に移る。
「実物の伝令鳥は初めて見たな。頭に乗るものなのか?」
「いや、肩に乗られるとバランスが悪いし肩が凝るんで妥協した結果」
「へえ」
ティーアがギリギリエキャルに触れるか触れないかの場所に手を差し出した。
エキャルが首を伸ばして、その指を見る。
じっくり指先を観察してから、頭を戻す。
「気に入られてはいないようだな」
「いや、多分、今までで一番普通っぽい反応」
「普通?」
「アナイナにめっちゃ敵意むき出しで……。アナイナの指、
「なるほど、確認して敵意がないと分かって頭を引っ込めたんだな」
ティーアは動物操作のスキルを持っている。操作するんであって懐かせるのはフレディのスキルだけど、それでもティーアのことを嫌ってるわけではないらしい。
「というか、町長にすごく懐いているようだが」
「うん……前の飼い主が酷かったのもあるだろうけど」
「前の飼い主?」
「出戻りの商品なんだって。前の持ち主が強引に買い取った挙句暴れて店に戻って来たって」
「……その前の持ち主とは」
「考えないようにしてるんだから言わないで」
「そうだな」
ティーアは視線を再び頭上に。
「少し触らせてくれるか?」
ぼくじゃなくエキャルに聞くところが律義。
エキャルが首をティーアに向けて伸ばす。
「ありがとう」
人差し指で、エキャルの頭を丁寧に撫でるティーア。
見えないけど、大人しく触らせているってことは、嫌いではないってことなんだろうな。むしろ好きの方に入るな。
「宣伝鳥はいつ頃?」
「この伝令鳥の扱い方に慣れたら……つまりエキャル……エキャルラットって名前ね……がどんなことが出来るかとか分かってから、まとめて飼うって。その時は鳥小屋がいることになるな」
「それは興味深い」
ティーアの目が、知っている人なら分かる程度にはキラキラしてる。伝令鳥や宣伝鳥は一般人には縁遠いものなので、それを間近で見るって言うのは動物関係スキルの持ち主には好奇心をくすぐられるんだろうなあ。
「鳥に興味があるなら、今度フォーゲルまで一緒に行く?」
「行ってみたいな」
「うん。今度行くときは誘うから」
「ありがたい」
手を振って牧草地を出る。
次は……陶器通りかな。
丁度門の反対側にある陶器通りは、左右に様々な工房があって、大小の焼き窯が置かれ、突き当たりには崖がある。
ここが、多分世界一いい陶土の産出地だ。
ポトリーに頼まれて、最高の陶土を願ったら出来た場所だけど。
町スキルのおかげか、どれだけ陶土を掘っても崖は減らない。だから、最高の土で最高の陶器を思う存分作ることが出来るわけ。本当は牧草地の近くだったけど、陶器職人の急増化で動物にストレスが……とか思ってる人たちの心配を聞いてか離れた場所に出来ていた。
「ポトリー」
「ああ、町長!」
書類を持って歩いていたポトリーが振り向いて、ぼくを見て笑顔で応える。
「調子は? 問題とか起きてない?」
「いや。今のところは。窯も十分にあるし、何とか職人の陶器割りも収まったし、まあおれが忙しくて陶器作れないのが一番の問題だな」
ポトリーには陶器通りに住まう職人や家族の問題や苦情などの窓口になってもらってる。元ファヤンス住人から選んでも良かったんだけど、グランディールの法則を分かっている人じゃないと、町の出来ることとか分からなくて困っただろうから、ポトリーに頼んだんだけど、ポトリーは人をまとめるという仕事が向いているらしく、ファヤンスのプライドの高い職人たちをきっちりまとめてる。
「あとは」
「なんだ?」
「火を入れる前に子供が窯の中に入り込んでいないか確認しなきゃなのが大変だな」
「……あー」
ここでも子供か。
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