第86話・相性のいい鳥
「鳥との相性、ねえ」
パサレは笑顔で奥に引っ込むと、何羽かの伝令鳥を連れてきた。
伝令鳥は赤い羽根と黒い目の鳥だと何となく認識していたけど、こうやって並べられると、違いがあるのがわかる。
炎のような赤さの鳥。柔らかそうな羽毛を持つ鳥。黒い瞳が潤んで見える鳥。本当に千差万別、一羽ずつ個性がある。
赤が強ければいいのかな、と思っていたけど、これは確かに違うわ。赤と言ってもマゼンダ色に近いものもあれば、血のように赤いのもいるし、朱色もいる。赤って色々あるんだなあ。
(町長、町長)
肩を小突かれて、口が開いたままなのに気付いた。慌てて閉じて鳥を見る。
「鳥との相性って、どうやってみるんです?」
「フィーリング。感性ですね。ああ、この子だという確信です。個人的な伝達をするのであれば、余計お客様のために頑張るという子を選ぶべきですね」
「そっか……鳥だって生き物だもんな、気に入った人に為に頑張ろうって思うんだろうなあ……」
「そうです。この子たちにも好き嫌いや相性がありますからね。長く付き合うならば、鳥にとっても人にとっても幸せでなければ」
うん、そうだよな。町だって同じだ。元からいた人も新しく来た人も幸せでないといけないよな。とりあえずは元ファヤンス組とそれ以前の人たちが上手く混ざり合うか。それだな。
おっと、これはとりあえず心の中に納めておこう。今は伝令鳥だった。
「どの子がいいのかな……」
じっと目を覗き込む。
黒い目がくりっくりっと動きながら見返す。
あ、かわいい。
アナイナ、好きそうだなあ。
い、いやいや、今回はアナイナのプレゼントを選んでるわけじゃなくて、自分が使う伝令鳥を買うんだった。
十四年間わがまま放題なあいつの兄をやっていた癖がまだまだ抜けない。
「乗せてみます?」
「? 乗せ?」
「はい」
パサレはぼくの見ていた一羽をすくう様に持ち上げて、ぼくの肩に乗せた。
あ、結構重い。
羽根の感触が頬に当たってくすぐったい。
「ちょっと違うみたいですね」
ひょいっと肩からすくいあげられる。
次に隣の伝令鳥を乗せる。
と、明後日の方向からバサバサバサッと羽音がした。
止まり木に停まっている一羽が、バサバサと羽根を広げている。
「あら。乗りたいの?」
バサバサバサバサ。
自己主張が激しいな。
「乗せてみます?」
「あ、お願いします」
「ほら、落ち着いて」
パサレは伝令鳥の羽根が動かないよう羽根ごと抱えて、ぼくの肩に乗せた。
頼むから顔の横でバサバサするなよ?
と、羽根は広がらない。
軽く髪を引っ張る感触。
横目で……可能な限り横目で見ると、緋色の長い首がひょいひょいと動いている。
「あら、
「羽繕い?」
「ええ。
「つまり、この子はぼくを気に入った……?」
「ええ。……この子はこんな風に親愛を現す子ではなかったですね。綺麗な緋色でしょう?」
横目で見ても鮮やかな色なので、頷く。
「だから今まで買い手はいたんですけれど、この子が買い手を気に入ることがなくて。酷い時は目を抉り出そうとしたんですよ」
「怖い」
目を抉り出されると困る。
「でも、この分なら大丈夫ではないでしょうか。この子はクレー様のことを気に入っています」
つん、つんと髪を引っ張られている。
「引っ張ってもいいけど抜くなよ?」
首がひょいっと曲がった。
ほっぺたにすりすり。
肩に手をまわして、そっと持ち上げた。
苦労して、自分の目の前まで持ってくる。
見事な緋色の羽根。黒水晶のような瞳が潤んでいる。
伝令鳥は鳴かないけれど、手の中で大人しくして、首だけこっちに来ようとしている。
「お前、うちのとこ来る?」
首を必死に伸ばすので、近付けてやると頭を顔にこすりつけてくる。
「どうなさいます?」
「じゃあ、この子ください」
アパルが値段を聞いて、金貨の入った小袋を渡す。
結構いい値段だったな。綺麗な緋色で、能力もある……あれ? でも相場に比べると些かお安いような……?
ぼくの疑問が顔に出てたんだろう。パサレは笑った。
「一度、無理やり買い取って行ったお客様がいたのですが、散々暴れて戻ってまいりまして。言ってみれば未使用の中古鳥ですね。皆さま、自分が最初の飼い主であることを望まれますので、その分お値段から差し引いております」
「鳥にも中古あるんだ」
「ええ。今からでも取り換えますか?」
取り換える、という言葉を聞いて、伝令鳥がぼくの顔を見る。何か泣きそうな顔してるっていうか黒い目に涙浮かんでるよ! 伝令鳥って泣くの?!
「……今更取り換えてもこいつが大暴れしそうな気がしますし、こいつで」
「はい。手続きをしますので、少々お待ちください」
パサレが引っ込んでいった後も、伝令鳥は首を伸ばしてぼくの顔や首や胸に頭をこすりつけてくる。
「めっちゃ懐いてない?」
「懐いてますね」
「懐いてるな」
「めっちゃ懐いてるっす」
「お前、ぼくの何処がそんなに気に言ったの?」
ぐりぐりと
「顎が気に入ったんすかね」
「いやそれは違うと思う」
ちょっと重いので止まり木に乗せてやると、バサッと飛んで、今度はぼくの頭の上。
「重いです」
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