第85話・伝令鳥を買おう
ピーラーとデスポタの拉致監禁事件がすべて解決してから数日が経って。
ぼくはアパルとリューとアレを連れて、スピティを訪れていた。
言っとくけど、別にピーラーとデスポタが気になったわけじゃない。あいつらはもう関わりたくない。放浪者となったデスポタがどこで野垂れ死んでも関係ないし、ピーラーがメァーナスでどういう扱いを受けているかも興味はない。
目的は二つ。
一つはピーラーが取り下げた注文の代わりに、今度トラトーレ商会で受ける注文を聞きに来た。
トラトーレはソファに座るぼくたちに向かって立ったまま頭をペコペコ下げまくっていた。
「本当に申し訳ない……。そして本当に感謝します。私の仲介した相手があのような事件を起こしたというのに……まだ我々トラトーレ商会と取引をしてくれるとは……」
「私の頭を殴ったのはピーラーであってトラトーレ商会長ではありませんから」
ぼくはにこやかに言った。
「そしてまだ注文が来ているというのにトラトーレ商会と縁を切るようなことは出来ませんよ」
「まこと……まっこと感謝しかありません……! これから先は客も選ばせてもらいます! 決してグランディールに損をさせるような真似は致しませんので!」
「心配はしていませんよ、トラトーレ商会長。我々はトラトーレ商会を信じていますので」
トラトーレ商会長は泣きそうな顔で頭をもう一度深々と下げる。
「で、次の注文があるならば」
「は、はい、ピーラーの注文取消しで、注文が殺到しておりまして」
その中からトラトーレが依頼してきたのは、SSランクの町の町長夫人の飾りタンス。服道楽の奥方らしく、今まで集めてきた衣装を丁寧に片付けられる物が欲しいそうだ。
ちょっと難しい注文だけどピーラーのそれに比べりゃ簡単だ。
契約書を交わして、そして聞いてみる。
「いい伝令鳥が欲しいのですが、お勧めはありますか?」
「伝令鳥ですか。フォーゲルに行かれては?」
トラトーレがにこりと笑う。
「フォーゲルは鳥の町。食用鶏から伝令鳥まで、いいものを取り扱っております。我々の伝令鳥もフォーゲルに注文して手に入れました」
「ほう、鳥の町」
「一般認知度は低いですが、高レベルの町の上層部にはよく知られておりますよ。いい伝令鳥や宣伝鳥を繁殖させ、売っております。宣伝鳥も購入するといいでしょうな。グランディールが取り込んだ陶器を売るためには」
◇ ◇ ◇
そして、リューとアレの力を借りて、やってきました鳥の町フォーゲル!
グランディールは空に水路が飛んでいるけど、フォーゲルは空に鳥が飛び回っている。緋色の伝令鳥、桃色の宣伝鳥、狩り用の鷹や鷲、伝達用の鳩、食用の鶏や鴨に
アパルが何か言っているけれど、町中色々な鳥のさえずりや鳴き声が響いていて聞こえない。
しかし、鳥って需要がこんなにあったんだなあ。ぼくは食用と伝令鳥くらいしか思ってなかった。なるほど、鳥の町ね。
ちなみになんでこの放し飼いの鳥たちが町の外に行かないのかと聞いたら、町スキルで鳥は持ち主と一緒じゃないと町から出られないとのこと。
「専門店ティールは何処だ?」
トラトーレに伝令鳥・宣伝鳥専門で質もいいというティールなる店を紹介してもらったけど、何処だろう。
トラトーレの手書きの地図では、この近くのはずだけど……。
とんとん、と肩を叩かれて、そっちを向くと、リューが斜め上を指差していた。
『伝令鳥・宣伝鳥専門店・ティール』
ここかあ。
紹介状を取り出して、看板を確認する。
ドアに手をかけて、引き開ける。
店内に入ってドアを閉めた途端、それまでうるさいくらいだった鳥のさえずりが聞こえなくなった。
中にいる緋色の鳥たちが、黒い瞳をぱちくりとこちらに向けている。
「いらっしゃいませ」
奥から女性が出てきた。
「トラトーレ商会から紹介を受けた、グランディールのものですが」
アパルが前に出る。
「はい、お伺いしております。グランディールのクレー町長ですね?」
女性はにっこりと微笑んだ。
「伝令鳥・宣伝鳥専門店ティールの店主、パサレ・ティールです。これから長いお付き合いをお願いいたします」
にっこりと微笑んだ店主パサレは、宣伝鳥の棚に案内してくれた。
「どのような鳥をお求めで?」
「……とりあえず、個人的に使える伝令鳥が欲しいんだけど」
「町長にとっては個人的ですけれど、時々町の秘密が飛び交うことがありますので、良い鳥を買ったほうがよろしいかと思いますよ」
「赤味が強い程、良い鳥だと聞いたけれど」
「ええ、間違いではございませんね。ですが、それ以外の要素もあるのですよ」
「それ以外の要素?」
「鳥と飼い主の相性ですね」
初めて聞いた。
「個人的に使う鳥は特に。一羽ずつ見て行って、相性のよさそうな鳥を見て行きましょうか」
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