第84話・謝ってほしいわけじゃない
まったくサージュの言う通り。
「……ごめん」
それしか、言葉は出なかった。
「謝ってほしいわけじゃない。理由が聞きたいんだ。町の場所をピーラーやデスポタのような連中に勘付かれたかも、という状況で、私たちを呼ばなかった理由を」
「そっ、それは町長は悪くないっす!」
「そうだ、町長が一緒に来なければ、オレたちだけで行ってしまって、捕まえられたことすら勘付かれない可能性があった!」
アレ……? リュー……?
なんで、ぼくを庇って……?
「……アレ、リュー、気持ちは分かるが、ここは町長に分かってもらわなければならない」
サージュは二人の方を見て、ぼくに向き直る。
「町長、何故貴方は、危険がある可能性が高い下に、明らかに少ない人数で降りたんだ? それは、町長として、明らかに不用意な行動だ」
「……悪いと、思ったんだ」
「悪い?」
「サージュもアパルもスピティとかで疲れ切っているのに、確実に危険がある訳でもないことに付き合ってもらうのは……申し訳ないって」
「
サージュの目が、灰褐色の瞳が、ぼくを真剣に覗き込んできた。
「貴方は、町の長というだけではない。グランディールと言う生き物の、頭なのだと自覚してほしい」
「サージュ……?」
「町というのは生き物だ。町は手や足を失っても生きていられる。再生すらできる。しかし、頭だけはそうはいかない。頭なしでは何もできない。別の頭を持ってきても上手くつながるとも限らないし、つながったとしても頭の命令を手足が聞くようになるまでには時間がかかる。その間に天敵に狙われる」
「…………」
「貴方がグランディールの為を思って外に出るのなら、俺かアパルを同行させるべきだった。手足が動くことを、頭が申し訳なく思う必要はないんだ。むしろ手足が動かず頭が潰される方が痛い」
何も言えない。何も言い返せない。
ぼくはサージュかアパルを連れていくべきだった。いや、そうしなければならなかったんだ。
ぼくは町長。そしてスキルでこの町を造った。
ぼくがいなくなったら、スキルがどんな風になるか分からない。下手すれば百人強がまとめて路頭に迷うかもしれなかったんだ。ぼくの無茶のせいで。
「……分かってくれたのならそれでいい。アナイナの連絡、リューとアレの行動もあって、こちらは対応も対策も立てられた。だけど二度、三度と同じ幸運があるとは限らない。これからは十分気を付けてくれ」
「……はい」
「戻ったら、ちゃんと町民に顔を見せてやれ。みんな心配していた。特にファヤンス出身者は、デスポタの正体が分かっていたから酷く落ち込んでいたし、ポルティアとナーヤーはピーラーを知っているから本当に心配そうだった。こんなゲスの塊のような連中に、自分たちを救ってくれた町長が囚われたと聞いてな」
「……はい、ごめんなさい」
サージュの手が持ち上げられて、拳骨でも来るのかと身構えたら、軽く頭をポンポンされた。
「お前は、グランディールのみんなに言わせればいい町長なんだ。それを忘れるなよ?」
その手の思わなかった優しさに、ぼくはエアヴァクセンにいるはずの両親を思い出した。
二度と会えない旅に出る時、火と水を持たせてくれた二人。ぼくも、アナイナもいなくなって、寂しい思いをしているんだろうか。
この一件が片付いたら伝令鳥を買って、せめて無事だけでも伝えよう、そう思った。
◇ ◇ ◇
デスポタとピーラーには、それ相応の報いを受けてもらうことにした。
ついでに他の町への
一番近い町、ということでスピティの官憲に突き出したのだ。
町長に危害を加えるとは、町同士の争いになってもおかしくない暴挙。そして、町同士の争いで犯罪が起きた場合、どちらも公平に裁かれないのが目に見えているので、Aランク以上の町はそういう揉め事を裁く役目を負っている。
ので、スピティに丸投げ。
デスポタ、ピーラー、そしてもう一人移動スキル持ちのピーラー熱狂的ファン(名前は忘れた。覚えてる価値もなさそうなんで)の三人は、他町の町長に傷を負わせた罪で、元いた町に通達、それまでスピティの牢獄に。
ピーラーとファンはメァーナスの町が引き取ったけど、アレと一緒に出掛けて行ったアパルがあれこれそれどれと噂を広げてくれたおかげで、悪評が広まったという。世界一の俳優であることには違いなく、演劇などに呼ばれたりはするのだが、あんたがナンバー1と褒め称えるファンがかなり減ったという。おかげでベッドの注文はなくなった。こっちは何にも損してないから構わないけれど。
デスポタは、ファヤンスの町民に徹底的に見捨てられた。残っていた数少ない民から、よれよれの伝令鳥が飛んできて、移住させてもらえないかと打診が来てグランディールは頷き、事実上ファヤンスはグランディールに併合された。町がなくなった町長は、スピティからも追放された。成人式のぼくと同じように、二度と人のいる町に近付くなという強制追放だ。今頃スピティの町の近くで放浪者やってるんだろうけど詳しい話は聞いてないし聞きたくもない。
そして、スピティはグランディールの本気も感じ取ったはず。
町長を傷付けた存在を徹底的に潰す(実際に潰したのはスピティだけど)覚悟をグランディールが持っている、と宣告したようなもんだ。懸賞金なんかで虎の尾を踏むような真似はやめろという警告。
で、デレカートから連絡が入って、グランディールへの懸賞金は取り消されたと聞いた。
色々あったけど、最終的に収まったのでよしとする。
ぼくは町民に「無茶すんな」「死ぬ気だったのか」「あんたが死んだら俺たちどうする」と怒鳴られまくって小さくなるしかなかったけど、それで話が無事終わるならそれでいい。
うん、グランディール的には、丸く収まった。
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